五、王都ルフェリア
エミル達は歩いて城壁の入り口に向かった。
城壁の前には堀江あり、水が一杯に流されておいるため、橋を渡らなければ入れないようになっていた。
入り口には小さな建物があり、衛兵が駐在して検問をしている。
エミルは、軽い気持ちで街に行こうとしていたが、思いの外、物々しい様子で、気後れしていまっていた。
勿論、情報収集という大きな目的もあったのだが、些か軽率過ぎたのではないかと自反した。
検問があることなど、思ってもみないことであり、ルフェリアに入れずに門前払いを食らう可能性もあり得る。
取り敢えず検問まで来たは良いがどうしたもんかと立ち尽くしているエミルだったが、近衛兵が先に口を切る。
「通行証はありますか?」
エミルには理解できない言語が飛んで来た。
(何だ……? 外国語か? 取り敢えず適当に場を繋ぐしかないか……)
「オーイエー、ハイ、マーク」
「はい?」
「オー、ファインセンキューアンドユー?」
「通行証を出してください」
父親がイギリス人だったためか、エミルは無駄に発音だけは良かった。
ただ、なまじ発音が良いだけに、そのボキャブラリーの貧困さが、余計に滑稽に見える。
エミルが無苦手が英語に限界を感じていると、隣から助け船が出された。
「あ、あの、これ」
恐る恐るといった様子で、カエデが近衛兵に通行証を渡した。彼女もまた、エミルには解らない言語を使っていた。
「はい、確かに。それでは荷物検査をさせて頂きます」
衛兵は一通り確かめ終わって満足したのかよし、と頷き言葉を紡ぐ。
「それでは、改めまして王都ルフェリアにようこそ」
衛兵は一礼すると、慣れた手つきで橋を降ろし始めた。
エミルが良くわからないうちに話が進み、橋が降ろされたのを見て、入れることを確信し、胸を撫で下ろす。
言葉の壁が立ちはだかるとは、エミルは全く考えもしなかったことで、早くも出鼻をくじかれた思いでいた。
「では、どうぞ」
橋を渡ると、門が内側から開かれた。
門を潜るとそこにはゲームの中でしか見たことのない中世の雰囲気が漂うメルヘンの世界がそこにはあった。
「すごいな……」
「仰る通りです。アリアスティには劣りますが、こちらも中々素敵ですね」
エミルがそう口にする。まさにエミルが求めていた世界であった。
アリアスティを見た時も感動で言葉にならない想いだったエミルだが、こちらも王都というだけはあって風光明媚な世界観であった。
ルフェリアは、ウェディングケーキのような形をしていた。一番高い所に王城があり、そこを中心として階層ができており、段々下がって行き、エミル達が立っている一番下の階層まで続いていた。
また、王城からは八つの水路が東西南北のそれぞれの方向に設置され、最下層の城壁の堀江まで、ウィータースライダーのように伸びでおり、排水口からは光を浴びて虹を作りながら、大量の水が勢い良く吹き出していたが、水流は、なだらかに堀江までの道を進んでいた。涼しげで、水の都と言ってても差し支え無いような見栄えである。
ルフェリアの下層部は差し詰め商業エリアといった所だ。
露店が立ち並び、石畳の道を数多の人々が歩いている。
露天商以外にも、宿屋や小さな住居のようなものもある。
恐らくは平民が暮らしているのだろう。
中層部は比較的豪奢な建物が多く、下層部の建物の殆どは木造なのに対し、こちらは石造が大半で、裕福な者が暮らしていると察することができる。
階層が高くなるほど、建物が大きく、豪奢になっており、身分や財力によって住んでいる階層が高くなるといった所だろう。
言わば、ルフェリアの者にとっては、高い所に居を構えることはステータスを表すのだろう。
「ここからは暫く別行動にしよう」
「わたくしもご一緒致します」
「いや、一人にさせてくれ。お前はカエデに街を案内して貰え」
「しかし、エミル様に何かございましたら――」
「――俺が誰かにやられるとでも?」
(実際、襲われたらまずいかも知れんがな……まあ、そんなことはありえないだろうし、色々調べたいこともあるから一人のほうが行動し易いだろうからな。それに、こいつらの前では堂々としていないといけないし、正直まだ慣れてないから疲れるしな……)
「いえ……万に一つにもそのようなことは決して……ですが……」
「シルシィ、俺は大丈夫だ」
「畏まりました。お気をつけくださいませ。」
シルシィは、不承不承、納得し、頭を垂れた。
「では、また後でここに集合しよう。あまり目立つ行動はしないようにな」
『はい』