四、魔王の重圧
エミルとシルシィはカエデの上に乗り、雑木林の中を駆け抜けていく。
カエデは結構なスピードを出しており、エミルは掴まっているのがやっとで、ゆっくりと周りの風景を観ている暇はなかった。
しかし、この世界は『ブレイブ』の世界ではないと判断するには、それでも十分すぎた。
それは、ゲームの世界にしてはあまりにも広すぎたからだ。
異世界の可能性がより一層高まり、エミルは内心ワクワクしていた。
この状況に陥ってからまだ、そんなに経っていないが、エミルは早くも順応しつつあった。
「ルフェリアが楽しみだな」
「エミル様は何度も行かれているのでは?」
「あ、ああ、シルシィと行くのが楽しみだということだ」
「そ、そんな、エミル様、もしかしてこれがデ、デデ、デートというものでございましょうか!」
「そ、そうかもな」
「あの……わたくし、初めてですので優しくしてくださいませ」
「ああ、俺の半分は優しさでできてるからな」
ものすごく適当に答えたエミルだったが、シルシィは気にも留めず、妄想の世界に入っていった。
シルシィが手を頬にあてながら妄想に浸っていると、突然前方へ吹き飛んでいった。
カエデがが急に止まったからだ。
「カエデ! 何をするのです!」
「だって……お師匠様に失礼なことを……それに……そんなんで落ちるとは思わなかったし……」
「全く、あれ? ところでエミル様は?」
「え?」
カエデとシルシィが辺りを見渡すと、エミルは木に刺さっていた。
「いやー、突然木登りがしたくなってな。たまにすると楽しいものだな」
「樹木の頂点さえ極めようとするお姿、心服致しました」
「楽しそうですね、あたしもやろうかな」
「いや、先を急ごう」
「そうですよね」
そうして、またカエデの上にエミルとシルシィが乗り、走り始める。
「ところで他の六魔将はどうしている?」
エミルがシルシィに訊いた。
「アリアスティにて各々過ごしております」
六魔将とは、アリアスティの幹部であり、番人である。また、戦闘時において、それぞれが管理する兵の統率を担っている。
シルシィもその一人であり、他に五人の魔将がいる。
そして、その六魔将の上に立つのが魔王である。打ち付けにエミルはその、恐ろしい魔物達の支配者となってしまったのだ。
「そうか、俺がアリアスティに戻ったら全員集めてくれ」
先に全員と顔だけ会わせておけば良かったと、エミルは今になって気付いたが、時、既に遅し――
まず、アリアスティにいる全員と意思の疎通を図り、このおかしな状況を整理する方が賢明だったが、下界の様子が気になり、エミルは直ぐにアリアスティを飛び出してしまったのだ。
行動力があると言ったら聞こえが良いのだろうが、思い立ったが吉日とばかりに、直ぐに行動を急いでしまうのがエミルの悪い癖であった。
「御意のままに」
(シルシィは慕ってくれているみたいだが、他の奴らどうなのだろうか……今更だが俺に魔王が務まるのか? あんな恐ろしい奴らが部下としてつくのか……弱みを見せたら喰われそうだな……)
この世界に来られたことに関しては、エミルにとって喜ばしいことではあったが、良いことばかりではなく、当然、不安もあった。
六魔将は言うまでもなく、エミルが作ったキャラクター達だ。
つまり、その強さはエミルが一番良く知っている――この世界ではどの程度強いかは定かではないが――のだ。
強さもさることながら、一癖も二癖もある面々を扱いきれるのかがエミルは不安だった。
こんなことになるなら、もう少し普通のキャラクターにしておけば良かったと、エミルは心底思ったが、性格が、『ブレイブ』と同じとは限らない。
ただ、シルシィをみる限り恐らくは『ブレイブ』に準拠しているようだが……
そんな風にこれから先のことをエミルが案じていると、カエデが口を開いた。
「見えてきましたよー」
「あれがルフェリアか……ここからは歩いて行こう。」