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魔王成行  作者: 柊 茉莉花
第一章
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一五、魔法効果

 アンドレアの領地は一見すると、今までの風景と何ら変わらず、ただの森林であったが、馬車の中の雰囲気は一変して、緊張感、そして恐怖に満ちている。アンドレアの住処まで直ぐそこまでの所まで来ているのだから当然だ。


 ただ、エミルにはその空気を共有することができなかった。無論、それは余裕からくるものではなく、未知故のことだが――


  座席の間にあるテーブルが、見えない大きな壁となって隔たりを

 作っているかの如く、エミル側とカタラーナ側の座席には空気の温度差がある。それはまるで、それは北半球と南半球のようだった。


 また、温度差だけではなく、体感時間もまるで異なる。片や、「着くな、着くな」と念じる思いに反し、時間の流れが驚く程早く過ぎて行くのに対し、片や、まだ着かないのかと、暇を持て余すように、時間がゆっくり過ぎて行く。

 まさに、対称的な空気が漂う車内であった。しかし、そんな空気を吹き飛ばすような強風が到着した。


「スケルトンが出たぞー!」


 車外から車内へ大きな声が飛来した。先程もあったような展開に、またかと思いながらも、エミルは外に飛び出した。続くように、カタラーナとセバスサン以外の全員が外に出る。


「モンスターと出くわすことは殆ど無かったはずではないのか?」


 エミルはローランドの方を見て、疑いの目を向けながら言った。


「あ、ああ……。すまん、普通ならそこまで遭遇率は高くないのだが……。きっとアンドレアの奴の仕業だろう」


 歯切れの悪いローランドに対して、エミルは本当は予想していたのではないかと、若干疑ったが、エミルにとって、そんなことはどちらでも良いようだった。


「まあ、俺としては色々なものが見られて、楽しめて満足だから、問題ないがな」


 エミルは、傭兵達が必死な形相で、攻防を繰り広げているのを横目に見ながら言った。


「この状況でそのセリフが出るとは、お前はどうかしているな。きっと魔王もびっくりだろうぜ」


 ローランドは、苦笑しながら言った。そして、エミルの顔をちらっと見ると、ローランドは戦いの中へと飛び込んで行った。


 その様を眺めながら、まさに、こんな状況を素直に楽しむことができている自分に、俺が一番驚いているさ、とローランドの冗談にエミルは心の中で返答した。


 そして、エミルはローランドの戦う様子を見ながら、スケルトンを観察する。理科室に置かれている人間の骨格を型どった、人体模型のような白い骨でできた物体が二〇体程、剣を構え自力で動いていた。

『ブレイブ』での魔王軍の兵にもスケルトンがいたたため、仲間に加えたいなと、ぼんやり思いながら見ていると、隣から声がかかる。


「お、お師匠様……あたしが、また、行きますか?」


 ローランドとの会話を、エミルが終えたのを確認してから、カエデが上目遣いで、エミルに訊ねた。


「そうだな……。うむ、それでは頼む」


 エミルは、あの食費もかからなそうで経済的に優しい、アンデッドであるスケルトンを壊してしまうのは、勿体無いと思い、少し逡巡したが、ローランドが「何やってんだ! 早く加勢しろ!」と、多勢に無勢で苦しくなったのか、必死に叫ぶのを聞き、新しいおもちゃを欲しがる子どもような考えは捨て去った。


「わかりました」


 カエデが返事をし、スケルトンの方へ向かおうとした瞬間、カエデの肩を掴んで止める者がいた。


「エミル様!」


 シルシィはカエデを抑え込みながら言った。


「あー、シルシィお前が行くか?」


 エミルは、先程のシルシィの大人げない態度を思い出し、ここはシルシィに任せた方が良いと判断した。


「はい!」


 これからモンスターを狩るというのに、とても嬉しげな表情しているシルシィに、エミルは苦笑を浮かべ、そして、カエデの方を見た。


「カエデ、そう言うわけですまないが、ここはシルシィに譲ってくれ」


 エミルは肩を竦めながら言った。


「はい……。お師匠様がそう言うなら、あたしは、それで構いません」


 子どものような姿をしながら、聞き分けの良いカエデと、大人の色香漂う美しい女性の姿をしながら、大人げない態度をとるシルシィを交互に見ながら、エミルは深い溜息をついた。


「それではシルシィ、任せた」


「御意」


 シルシィが何の魔法を使って、倒すのかと、エミルは固唾を飲んで見守る。シルシィは優雅に、一歩、一歩ゆっくりと地面を踏みしめながら向かって行く。やがてスケルトンの所まで辿り着くと、美しい表情を変えることなく、一言呟いた。


「ダブルクロス」


 シルシィは魔法を使ったのだが、スケルトンの外見には変化が見られなかった。倒れることもなく、破壊されることもなかった。

 しかし、それは表面上の変化が見られなかっただけで、内面的には大きな変化があった。全てのスケルトンが、突然、戦闘を中断し、シルシィの元へと集まり、臣下の礼をとったのだ。周りの傭兵達は何が起きたのか理解できず、唖然としていた。


「貴方達は、これよりアリアスティの兵の一員となります。恥のない働きをするように」


 シルシィが命令するように言うと、スケルトン達はざっと音をたてながら胸に手をあて頭を垂れた。


「それでは、貴方達はわたくし達が乗る馬車を外から警護しなさい」


 シルシィがスケルトン達にそう伝えると、スケルトン達は、馬車を囲むように陣取った。

 エミルはその様子を見て、怪訝な顔をした。それは、エミルの知っているシルシィの魔法とは効果が違っていたからだ。シルシィの持つ魔法のスキルは言うまでもなく、エミルが考えたものなので、把握している。


 シルシィが今使った魔法――


  【ダブルクロス】は『ブレイブ』での本来の効果は、一五秒間、対象を支配できるというものだ。

 しかし、実際には、効果が切れるはずの一五秒を優に経過したにも関わらず、未だにシルシィの命に従っている。

 

  どうやら、この世界では、『ブレイブ』での魔法の効果がそのまま現れるわけではないようだった。


  【ダブルクロス】の効果が、どの程度続くのかは、エミルの与り知るところではないが、シルシィが、これよりアリアスティの一員となると言っていたことから、恐らくは、半永久的に続くのだろうと考えた。


 何にせよ、仲間にしたいと思ったスケルトンが、仲間になって、エミルにとっては万々歳であったので、深くは考えないようにした。

 そもそも、魔法を使えている時点で十分不可思議なのだから――


「エミル様ー!」


 スケルトン達が配置に着いたのを確認し終えたシルシィが満面の笑みで、エミルの元へと走って来る。


「血を流すことなく制圧するとは流石だな」


何れにせよ、骨だけのスケルトンに流す血などないのだろが、それを考えるのは無粋というものだろう。


「ありがとうございます! エミル様がスケルトンをご所望だと、お見受けしましたので」

「素晴らしい! 流石だシルシィ」


 エミルは目を見開きながら言った。

 ただカエデと張り合ってるだけのように見えた、シルシィが、しっかりと主の意向を汲んでの行動だったのに、驚かされたからだ。


「もったいなきお言葉、恐れ入ります」


 恐縮しながらシルシィは言ったが、喜びを抑えきれなかったのか、その顔は口角をつり上げ、顔の筋肉を上下させていた。


「おいおい! 一体何が起きたんだ!?」


 全く状況を呑み込むことができない、ローランドが痺れを切らして、エミルとシルシィの会話に割って入って来た。


「スケルトンはわたくし達の仲間になりました。心配はいりません」


 シルシィは、エミルとの会話を邪魔されたのが、気に食わなかったのか、蠅を掃うかのような冷ややかな態度で応対した。


「それは見ればわかるぜ! どうしてこうなったのか訊いているんだ!」

「わたくしが魔法で仲間にしただけですが?」


 シルシィ何を当然のことを訊いているんだと、言わんばかりの態度だ。


「そんな魔法があってたまるか! どうやったらそんな真似ができる!」


 それに対してローランドは、何を馬鹿なことを言っているのだと言わんばかりの態度だ。


「事実を伝えたまでですが、何が不満なのでしょう?」

「いや、こんなのおかしいだろ!?」

「まあ、解決したのだから別に良いではないか」


 エミルは、魔法のことで、変に目立ちたくはなかったので、煙に巻くことにした。


「良くないだろ! どうして敵が仲間になるんだ?」

「それは……そうだ、これだ!」

「何だよそれ? ただの団子だろ?」

「この団子を敵に食べさせると仲間にできるのだ」

「それがか? ただの団子にしたか見えんが?」

「黙れ、これを食べると仲間になるのだ、知らないのか?」

「知るか! 子どもが考えたようなくだらんことを言うな!」


 エミルとローランドが言い合いをしていると、突然辺りが霧に包まれたように薄暗くなった。


『ほう、よもや人間を忌むスケルトンを手懐けられる人間がいたとはな』





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