一四、ゴブリン強襲
モンスター領域内は、セルディアン王国よりも広大だ。人間達の手によって狭まれたものの、それでもつつがなく暮らしていける程には広い。
そこでは、ヴァンパイアが地下帝国の築き、一番の勢力を誇っているが、他の種族を支配するようなことはしていない。
ヴァンパイアが敵視するのは人間だけであり、他のモンスターとは共存しているのだ。また、ヴァンパイアのように、全部のモンスターが、人間を敵視しているかというと、そうでもない。亜人種といった、知能がある種族は静かに暮らしいる。領域内での、代表的な亜人種は、ウェアラット、ハーピー、リザードマンあたりが有名だ。エルフや、ドラゴンも昔はこの辺りを住処にしていたが、今は別のところに移り住んでいる。
そんな領域内の大森林を、エミル達が乗る馬車が進んで行く。向かっているのは、ヴァンパイアである、アンドレアの住処だが、どうやら、地下帝国には住んでいないらしく、森林の奥深くに居を構えているという話だ。
エミルが、ヴァンパイアなら日光が苦手なのかと、地球産のヴァンパイアの知識を呼び起こしながら、ぼんやりと考えていると、外で傭兵の騒ぐ声が聞こえてきた。
「モンスターだ! モンスターが現れたぞ!」
声に反応し、エミルが馬車を飛び出した。続いて、カエデとシルシィも馬車から降りた。
どんなモンスターがいるのかと、エミルは興味津々だったが、どうやら、それはゴブリンのようだった。体長は一00センチ前後、茶色い体色をしており、鼻と耳が異様に尖っている。まさに、エミルの脳内に入っている、地球産のファンタジー知識を体現したかのような見た目をしていた。
マンティコアもそうだったが、どうやら、この世界のモンスターは、エミルの脳内に入っているファンタジー知識とあまり違わないようだ。
「くそっ!」
傭兵達は一0体もいるゴブリンの軍勢に苦戦しているようだ。ゴブリンの鋭く尖った爪の猛攻を、剣で上手くさばきながら、攻撃を躱しつつ、反撃しているが、一人あたり、2匹のゴブリンを相手にするのはどうやら、厳しいように見える。しかし、ローランドも加勢し、ローランドは電光石火の早業で、ゴブリンを一匹仕留めた。
セバスサンは王女と馬車の中に待機し、周りを警戒している。
そんな中、エミルは、本当にファンタジーの世界に来たんだな、と感慨に浸りながら、呑気にその様子を眺めていた。
「ゴブリンは強いのか?」
誰に問いかけるわけでもなく、エミルはぼんやり呟いた。
それに答えたのはカエデだった。
「モンスターの中では……弱いです……。でも、人間よりは少し強いですね……」
「カエデ、倒せるか?」
「は、はい……。できます」
「じゃあ、片付けてくれ。ああ、变化はなしにしてくれ。後々面倒になりそうなことはできるだけ避けたい」
「わかりました」
そう言うと、カエデは目にも留まらぬ速さで、ゴブリンの前に到達し、何かを呟いたようだった。
すると、地響きとともに、カエデの立っている前方の地面が崩れ、土が一箇所に集まり、大きな手の形を作った。その手がゴブリン全員を捕らえ、一気にに飲み込みんだ。ギャーギャーとゴブリンは鳴き叫んでいるが、カエデは、いつものような、おどおどしたような様子ではなく、異様に冷たい目で見据えていた。それは、さながら狩りをする狼のような姿に見えた。
土で作られた手は、握り潰すような手つきをするかと思えば、そのまま地面に帰っていった。何事もなかったように、地面は綺麗に戻った。ゴブリン達を連れて――
地中へと引きずり込まれた、ゴブリンの鳴き声はもう聞こえてこなくなり、静まり返る。
「おお! 嬢ちゃん、ちっこいのにやるな! エミルの仲間だけはあるな!」
ローランドはカエデを賞賛した。他の傭兵達も騒いでいる。
「そうかな……? ありがとう」
先程の様子と一転し、カエデはおどおどしたいつもの姿に戻っていた。そして、カエデはエミルの元へそそくさと戻って行く。
「素晴らしかったぞ、カエデ」
エミルも素直に賛辞を呈した。エミル自身も魔法は使ったが、こうやって、魔法を使った戦闘を目の当たりにするのは初めてであり、感激だったのだ。最早、エミルにとって、この世界で起きる一つ一つが新鮮であり、感銘を受ける。
「ありがとう……ございます」
カエデは頬を赤く染めながら言った。
「エミル様! わたくしもあの程度、造作もございません!」
シルシィは興奮気味だ。
「そ、そうか。ああ、そうだな」
エミルは、シルシィの大人気なく迫る態度に気圧され、尻込みした。そして、エミルはさっさと馬車の中に戻った。カエデもエミルの後を追う。
「お見事でした。魔法兵団にスカウトしたいくらいです」
カエデが馬車に戻るなり、カタラーナが言った。
「魔法兵団?」
疑問符を出したのはエミルだ。
「はい、一応わたし達の国にも魔術師がおりまして、その兵士の集まりを魔法兵団と呼んでいます」
「そのようなものがあるのですね」
「ただ、我が国は、魔法に特化した教育機関などがありませんので、他国と比べると、魔法の力で劣るのですけどね。我が国は、白兵戦を得意としていますから」
カタラーナからの話で、エミルは『エタニティ』、に書かれていたことを思い出した。
隣国で、最も魔術師の層が厚いのは、シルドニア教皇国で、魔法学院がいくつかあり、そこには魔法を学ぶために他国からも来るのだが、それは片道切符で、魔法学院に一度入学したら、情報漏洩の観点から、強制的にシルドニア教皇国の民として徴兵される仕組みになっている。もし、情報を漏らしたり、逃げようとしたならば、死という結果が待っている。
魔法学院で魔法を学ぶ場合、シルドニア教皇国の国民になるしかなく、一度踏み入れてしまったら、他国にいる家族にはもう二度と会うことは叶わない。そうやって、シルドニア教皇国は兵力を増やしているのだ。
そのような体制で、反乱が起きないのは、教皇の魔術師としての才が、あまりにも桁外れで、逆らう気力さえ奪ってしまうからとのことだ。
「魔法はそんなに重要なのですか?」
「魔術師の数が戦の勝機を左右すると言っても過言ではありませんね。やはり、攻撃範囲が違いますから」
剣で戦う場合、間合いに入らないと、戦えないが、魔法は遠くからでも攻撃ができる。流石に近距離での戦いは剣の方が有利だが、距離を取られたら、剣士にはどうしようもない。
この世界で生きて行く最低限の力を持っていることに、エミルは安堵していると、急に空気が変わったような感覚に襲われた。
冷たく、凍るような雰囲気が車内に伝わる。
カタラーナは先程まで凛々しく話していた姿が嘘のように、青ざめた顔になっている。彼女はそれを必死に隠そうとしているようだったが、体全体が震えていて、どうにもならないらしい。
「ここからはアンドレアの領地です」
セバスサンが告げた。
ご愛読ありがとうございます。更新が遅れていて申し訳ございません。次回の投稿は未定ですが、出来る限り早く投稿できるよう努力致します。




