時は戻らない
子供が好きか嫌いかと聞かれたら、私はきっと好きだと答えるだろう。
それでは、あの子供のことも愛せるかと聞かれたら、やはり私は微笑みながら頷くに違いない。
窓の下に広がる庭園から、きゃっきゃとはしゃぐ子供の甲高い声が聞こえる。
貴族たちに開放されているとはいえ、お供をぞろぞろと従えて城の庭園を駆け回ることができる子供は、今のところ彼一人だけだ。ましてや、この国の王に抱きかかえられる子供など他にいやしない。
栗色の髪を揺らして父の腕の中に飛び込んだ彼を、同じ髪の色をした王が低く魅力的な笑い声をあげながら受け止め抱き上げる。
けれどあの少年は王妃である私の子ではない。彼のくりくりとしたつぶらなエメラルドの瞳は、王のそばで微笑んでいる美しい女性譲りのものだ。
三年前、私がこの国に嫁いできた時には彼女の腹にあの子が宿っていた。たいした後ろ盾もない女官だったというけれど、私が正式な妃となっても扱いが悪くなることはなく、むしろ子を産んだ後はますます王の寵愛が深くなった。彼女への王の愛は、疑いようもなく真実で誠実なものだ。たとえ神と国が認めた妃である私がいるとしても、王と彼女は間違いなく夫婦だった。むしろ、初めての謁見で肖像画より実際の容姿が大きく劣ることを指摘されたあげく、以来一言も言葉を交わしていない私が妻と名乗るべきでない存在かもしれない。
とはいえ、会って早々に拒絶された夫に対してこちらもなんの愛情も持ち合わせていない。政略結婚の相手に対して容姿を期待していたことや、それを公の場で本人に告げたこと、そして正妻を差し置いて堂々と愛人とその子供を囲うなんて、王としてもどうかしている。
だから私は、あの子供を愛することができる。彼のことを素直に可愛らしいと思っているし、彼の母も美しく好ましい人物だと思っている。
私はただ、政略のためにこうして城で暮らしていればよいだけだ。逆に考えれば跡継ぎの心配がいらないこの上なく気楽な暮らしだ。
それでも、こうして仲睦まじい彼らを、我が子を慈しむ王の優しい眼差しを目にすると、ついつい呟いてしまうのだ。
ああ、あなたを愛してみたかった、と。