第二話
受験で更新は遅いです。
ご理解を方をお願いします
ハールミル大陸
最西端部
獣魔国ケルンベルク
ハールミル大陸五大国の一角を占める、亜人国家ケルンベルク。
その領土はハールミル大陸最西方部に位置している。
獣魔国ケルンベルクが軍用公道の一つとして整備した、海沿いに走るラスティーユ街道。
そしてラスティーユ街道から少し外れた所に、人の気配を感じさせない小さな砂浜に変化が訪れた。
「浮上開始」
「ヨウソロウ。浮上開始、前部タンク排水始め!」
「前部タンク排水。アイ!」
透明で透き通った青色をした海の中から、幾つ物の魚群を掻き分けて鈍い灰色の鯨が、躯を震わせてゆっくりと上に動き始めた。
天井から狭く暑苦しい部屋を明るく照らす電球に、目を向ける者はいない。
彼らは前部タンクから海水が排水される音を聞きながら、自分達の目の前ある様々な、本艦に必要不可欠な計器を見ていた。
「現在の深度、50m」
「トリムは5度で安定しています」
順調に浮上をしているのを、艦長は満足そうに頷いた。
「コノママ浮上スル。ソナーハ反応ガアルカ?」
「いまんところは、反応ないす。強いて言えば、海の生き物の声が聞こえるくらいす」
「分カッタ。副長、コレカラ我等ガ王二、モウスグデ到着スル事ヲ伝エテ来ル、暫ク頼ム」
「了解しました」
敬礼する人族の副長に答礼をしてから、アルテミス皇国では竜人族の一つとして記されている、リザードマンの艦長は発令所から臨時に設けられた貴賓室へ歩きだした。
貴賓室に向かう途中、思う思いに休憩していた乗組員達からの敬礼を一つ一つ、丁寧に返して行く。
直ぐに貴賓室の前に着いた。
艦長は扉の前で、自分の服装に乱れがないかチェックする。
こういう時に、自分の種族の特徴であるその長く伸びた口を気にしてしまう。
リザードマンは竜人族の一つではあるが、身体的特徴はワニに近い。
体全体が鱗に覆われ、爪は太く鋭い。口からは隠しきれないギザギザのノコギリの様な牙が覗かしていた。目は爬虫類系に見られる鋭い目付き。
艦長はリザードマンの中でも珍しい砂漠地帯の生まれである為か、普通の緑色ではなく、明るく灰みの黄色である。
「失礼シマス。我等ガ王ヨ」
扉を開けて中に入ると、質素な椅子に座っているその人物...魔王アルテミス・リク・エルザは笑顔で艦長を迎えた。
「すまないな、艦長。私の用事で本艦を動かして」
そう言うと、申し訳なさそうな顔をする。
艦長は慌てそれを否定する。
「イエ、我等ガ王ガ本艦二乗ッテ頂ケルダケデモ、胸ガ感動デ小躍リシテイマス。マシテ王ノ為二役立ッテイルト事二対シテ全テノ乗組員ガ最上ノ喜ビヲ感ジテイルノデアリマス」
「そうか、それはよかった」
魔王は胸に手を当てて、ホッ、と安心する様に息を漏らした。
それを見て、艦長も思わず安心してしまう。しかし直ぐに姿勢を正して用件を伝える。
「間モナク本艦ハ、予定上陸地点デアル、ラスティーユ街道付近ノ海岸二到着シマス。恐レナガラ準備ヲオ願イ致シマス」
艦長が申し出ると魔王はクスクスと控えめに笑った。
「心配してくれてありがとう、艦長。だが私は既に準備を整えてある」
無造作に手を伸ばすと、手首には銀色に光り輝くリングがある。
アイテムボックス。
そう呼ばれる魔道具だ。
魔道具の中でもアイテムボックスは重宝され尚且つ貴重である。なぜならアイテムボックスを作れる者が極端に少ないからだ。
そもそも魔道具を作るにはある程度の才能が必要だ。
例えば、普通の剣や弓矢に炎の術式を刻み込む場合、炎つまり火の魔法に精通していなければならない。それは風や水と言った別系統の魔法もである。
その中でもアイテムボックスは、空間魔法等の特殊魔法を使いこなすだけのセンスも必要とされる。
だから作れる人数は限定されてしまう。
そしてアイテムボックスを作ろうとすると、極めて高値の値段が付いてくる。
「必要な荷物や食料は全てこの中に入っている。だから心配する必要はないぞ艦長」
こちらを安心させる様に笑みを作る魔王に、艦長は頭を下げる。
「王ヨ、デハ発令所マデオ越シクダサイマセ。浮上ヲ完了シタラ成ルベク早ク、再ビ潜航シ身を隠サナケレバナリマセン」
「分かった。少しだけ待ってくれ」
「ハイ」
魔王は立ち上がると壁に掛けてあるローブを取ると、それを着た。
ローブは上半身の部分が、金色の糸を使い桜模様を縫い込んであり、下半身の部分は、銀色の糸で複数の魔法陣が作られている。
この魔法陣は一つ一つに強力な防御能力が施されており、その効果をローブに与えている。
「では、行こうか」
「御意」
魔王は艦長の先導の元、発令所に向かった。
艦長が魔王を連れて戻って来ると、副長が歩み寄る。
「艦長。本艦はあと30秒程で浮上します」
「ヨシ、後部タンクヲ含メタ全バラストタンク排水。浮上時二艦ノ姿勢ヲ完全二水平二シテ迅速二次ノ行動二移レル様二スル」
「ヨウソロウ、全バラストタンク排水!浮上後は速やかに魔王様を送り出し退避する!」
「了解、現在の深度は10...9...8...7...6」
深度を表す計器盤を食い入る様に見る、水兵が呟く。
「モーター停止セヨ」
「モーター停止、アイ!」
モーターが止まるのと一緒に、それまで海水を掻き回していた二基のスクリュープロペラがゆっくりと止まる。
「浮上します」
たくさんの海鳥達が餌を求めて空を自由に飛び回る。
まだ朝日が昇ったばっかりであるが、餌である魚の群れは既に寝床兼隠れ家である海藻や岩場から出てきている。
1羽の海鳥は仲間が魚を啄み、巣に持ち帰って行くのを、横目に見ながら飛んでいた。
...?
突然、海面に大量の泡が溢れてきた。海鳥達は最初は警戒して離れたが、直ぐに戻って来た。
よく、この海岸を離れて遠い場所まで餌を探しに行った時、自分達より遥かに大きい黒い生き物が、魚を食べると何故かその前に泡が大量に海面中に溢れているからである。
海鳥達はそれと同じだと思い、おこぼれに預かろうと泡の上を飛び回る。
しかし
海の中から現れたのは、海鳥達が目にしてきた物とは全く違っていた。
海中から浮かび上がって来たのは、鋼鉄で作られて、先端部に強力極まりないモヤイを持った灰色の鯨であった。
その船体で最も目立つ艦橋には、その艦の船籍番号が書かれていた。
〈イ112〉
アルテミス皇国軍統合総司令部
直轄
第五潜水艦隊旗艦
これがアルテミス皇国軍が初めてハールミル大陸に対して行った、作戦行動であると、後の軍事研究家は語る。
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