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 影の陰   作者:
6/6

 一章 苦手なもの

 思い出すのは、決まった光景。


 雲一つ無い蒼空。

 楽しそうな笑い声。

 酒特有の独特な香り。


 なにもかもが懐かしい。



 あの頃に戻りたいと、何度思ったことか。


 そんな叶うはずの無い願いに想いを馳せた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ジャン君。私はソルソナーゼス・ギルナ・マッドドレアス・ザンビアニ・ルーシャ・キンビスといいます。ソゼスと呼んで頂いて結構ですよ」


 ソゼスは何時もの様に、優しい笑顔を向けて挨拶を交わす。ジャンはやはり馬鹿っぽく返事をする。


「では早速ですけど、案内して貰って良いですか?」

「はい」


真子と和、李俊とリルは未だに警戒をしている様で、特に李俊はジャンを睨みつけている。その視線にはきずいているらしく、時折李俊を振り返り気まずそうに肩を竦める。そんな行動ができるだけでも、馬鹿そうだがソゼス程鈍感ではないようだ。


「ジャン君。君の武器は一体何なのですか?」


 そんな事を聞かれて易々と答える奴はいない。武器を明かすのは、自分の弱点を教えているのに匹敵する。武器は自分の素性を明かすヒントにもなってしまう。また、守護者になると個人個人に特殊能力が分け与えられる。故に、そんなに易々と答える奴はいないのだ。だが、ジャンは素晴らしい程に予想を裏切ってくれた。


「ボクの武器はバタフライナイフとサバイバルナイフです。先輩は?」

「まだ内緒です」


ソゼスは聞くだけ聞いておいて、自分のは明かさなかった。

 ソゼスのジャンを見る目が一瞬、真剣なものになる。

 この子、自分の武器を明かすなんて随分と常識外れな事をする。ただの阿呆か、それともーーー

ーーー相当のやり手か。

 本人には悟るれないよう、すぐに笑みを作る。


「とりあえず、何処に在るのか位教えて下さい」

「あっ、それオレも知りたかった」


 いつの間にか真子も加わり、会話に入る。他の者は会話には入らないものの、遠巻きにこちらの様子を見守っている。やはり、知らん顔をしていても、気になるものは気になるのだ。


「本拠地は伊豆という所に在るそうです。皆さん知ってます?」

「伊豆!?凄い良いじゃん!」


歓声を上げる真子。普段の大人びた態度と違い、年相応で子供らしい。彼にしては珍しいものだ。


「真子ちゃん。伊豆ってどういう所なんですか?」

「もう、すっごく綺麗で、空気が澄んでて清らかな場所なんだ」

「へえー、美しい所なのかい?」

「勿論。そんなの当たり前でしょ」


綺麗という単語が聴こえて来たからなのか、シューベルが話し寄って来る。最初の自己紹介からそうっだが、やはり綺麗やら美しいやらには敏感らしい。


「お城もお寺さんも在るし、温泉もいっぱい在るよ!」

「温泉?」


和と李俊、ジャン以外の全員が首を傾げた。

 日本と中国では、温泉というものが昔からあり入っていたから、和と李俊は知っているのだろう。だが、何故ジャンは知っているのだろうか。


「ジャン君も知ってるの?」


ネルフォンスが皆の疑問を代表して聞く。


「何言ってるんすですか!そんなの当たり前に知ってますよ。何せボク、今時の子なんで」


言い方が何だかムカつく。私達を時代遅れと言っている様にしか聞こえないのは、私の性格上の問題だろうか。


「よし!じょあ伊豆の本拠地に行って、パーッと楽しくお酒でも呑みましょう!」

「好いですね。宴会と行きましょうか」


ネルフォンスの粋な提案に、快く賛同する。何せ私はお酒が好きだから。


「さあ今夜は多いに盛り上がりましょう~!」

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!」


勢い良く皆で賛成の意を示した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「李俊殿、私と飲み比べでもしませんか?」

 

 李俊よりも酒を飲んで、いろいろと腹のうちを探ろうという魂胆のもと、飲み比べに誘う。彼は結構飲めそうだから、先に自分が酔ってしまわないかが心配だが。


「あっ、ああ」

「……?」


思っていたものとは別の、歯切れの悪い返事が返ってきた。見ると、顔も僅かに引きつっている様子だ。


「李俊殿?どうかしましたか」

「いや、何でもない」


それ以上問うても得るものは無いと判断し、他の皆にも声をかける。他はついでだが、いろいろ知っておいて損はないだろう。


「ええ、勿論良いわよ~!」

「じゃあ、僕も御一緒させてもらおうかな」


ネルフォンスは思った通り、快く了承。シューベルも意外とあっさり了承してくれた。


「では、誰がお酒買いに行くか決めません?」

「あら、分けるの?皆で行きましょうよ」

「え……」

「確かにネルフォンス君の言う通り、皆で行った方が良いな。酒の好みもあるし」

「……」


私の意見はネルフォンスとシューベルの前で、呆気なく簡単に散った。


 今、私達の服装は奇怪なものだ。まあ、私達と言っても私と真子、李俊とあと…………ネルフォンスもか?他人ひとの趣味にとやかく言うつもりは無いが、男であの格好で外を出歩くのは、いただけない。


 とりあえず、可笑しいのだ。時代遅れ、若しくは変質者。後者にだけはごめんである。それを防ぐ為には、今の時代の服を身につけなければならない。


「どうしたの。固まってるけど?」


真子が私の顔の前で手を振る。


「え、ええっとそうですか?」


とっさに笑顔を取り繕ってごまかす。が、意外にも真子は鋭かった。


「何。嫌な事でもあったの?それとも気掛かりな事とか?」

「いえ、まさか。何も無いですよ」


 そう真子に言ったが、私は今の時代の服が苦手なのだ。やけに不必要な装飾品やらがあり、動きずらい。そのくせ耐久性が低く、丈夫でないのだ。あと、無駄に軽くて私には不安感を煽る。


「じゃあ、まずは本拠地に行って、着替えて、荷物取って、買い物に行きましょう~!」


一人テンション高く、盛り上がるオカマ。皆は普通のテンションで返事をした。




ーーーそして、私は嫌な目にあってしまう。




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