一章 少年
偉大な偉大な覇王は言いました。
『奪うけれど、決して相手を辱めるな。仲間を馴れ合いと勘違いするな。一人一人が揺るぐことのなき、信念を持て』と。
誰にでも、強く。
誰にでも、優しく。
誰にでも、光を与えた。
そんな、偉大な王様は人々の“憧れ”でした。
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「ここが、日本…………」
誰が呟いたかは解らない。皆が思っていた事だから。自分が口に出したのか、それとも6人の内誰かが口に出したのか。はたまた、全員が言葉にしたのか。
ーーーー日本 東京都
前に行ったアメリカの経済地によく似ている。無機質で冷徹なビル。胸糞が悪くなる様な汚れた空気。反吐が出そうな程の人の群れ。
「そういえば、和ちゃんと真子ちゃんは日本出身ですよね?」
「そうだけど、オレが死んだのは1164年のまだ平安時代だから、今とは全然違う」
「ウチが死んだのも1745年やし。それに、大阪出や」
残念。宛てが外れてしまった。二人が日本の出だというのは知っていた為、湖やら神社やらの案内をしてもらおうと思っていたのに。
「いくら今と違うと言っても、地形位解るだろ?」
「悪いけど、詳しくは無理だ」
李俊の幾分かきつい口調に、拗ねた様に返す真子は、実に子供らしい。
真子ちゃんはこれだから、可愛いと言われるんですよ。にしても、死んだのが1164年とは随分と昔だが、一体どんな罪を犯したのか。
「もう皆やる気満々なの~?ま・ず・は!本拠地に行くのが先でしょ~」
相変わらず場の締まらないオカマ口調で、一番大事な事を言う。しかも最後に李俊に向けてウィンクを飛ばす。それに李俊は鳥肌でも立ったらしく、腕を摩っている。
憐れで可哀相で同情を禁じえません。ですけれど、助けてあげようなんて微塵も思わないのは不思議な事だ。寧ろ、くっついてしまえと少々思ってしまう。
「そうですね。じゃあ、ネルフォンスさん。案内して頂けますか?」
「あら、アタシが知ってる訳ないじゃな~い」
「え……?どういう事ですか?」
本拠地はこれから活動する中で、とても重要になってくる物の一つだ。その場所を中心として動く。他にも使用内容は様々だが、無いと困るのは確かだ。
「誰か、知っていますか?」
「………………」
長い沈黙が流れる。誰も知らないということが容易に理解できる。
「誰も知らないみたいですね…………」
「……ほら、さっさと行くぞ」
「何や。あんた解ってたんなら早く言わんかい」
和は実力トップの者に対しても怯むことなく文句をつける。当の李俊は文句を言われて怪訝そうな顔をした。
「解らないが、とりあえず何処かに行けばどうにかなると思うのだが」
「なるかい、ボケェ!そんなんやったら、世の中誰も苦労なんかせえへんやろが!!」
「だが、為せば成ると言うじゃないか」
「だから、成らないから苦労すんやろが!この馬鹿」
まるで漫才を見ている様で面白い。和ちゃんの突っ込みに冷静にボケているのが笑いの種だ。
「意外でした。李俊殿は結構天然なんですね」
案外可愛いらしい一面もあったものだ。人は見掛けに寄らないというのは、中々上手く言ったものだな。
「もう!そんな可愛い李俊さんも好いわ~!」
「オカマの変態野郎は黙っとけ!」
「和ちゃん、ダメよそんな事言っちゃあ~。女の子はもう少しおしとやかにしないと。それにアタシは野郎じゃないわ。れっきとした乙女よ!ちょっと、話位ちゃんと聞きなさいよ!全くもう」
真子がネルフォンスを小馬鹿にした顔でソゼスに話しかける。
「あいつ、話し長すぎじゃない?というか、きずくの遅すぎだよね」
「はい。私も思います」
苦笑いで応えると、隣でリルちゃんも勢いよく、縦に首を振っている。リルちゃんは喋らないが、行動で示してくれるので助かる。
「あっ、いたいた!オーイ」
「あ゛?」
いきなりマヌケそうな声がして、目を見やる。ビルの屋上から手を振る人影。誰だろうか。
「ちょっと私、見てきますね。此処で待っていて下さい」
そう言うや否や、ソゼスは深く膝を曲げると地面を強く蹴る。ビルの屋上から屋上へと跳びながら相手に近付く。
「うおっ!流石先輩。凄いです」
「君は?」
「ボクですか?ボクはジャン・クロードです。よろしくお願いします」
そう名乗った少年は見た目通り阿呆そうな子だった。金色の髪は日に反射してキラキラと輝いており、肌は少し日に焼けて、いたって健康的だ。顔の造りは十人並みだが、大分童顔である。黒いティーシャツにジーパンと、ラフな格好をしていた。
「先程、私の事を先輩と言いましたが、それは一体どういう事ですか?」
「そのままの意味のつもりだったんですけど………。説明不足ですね」
少年ーーージャン・クロードーーーは慌てた様子で喋り始めた。
「つまり、私達を本拠地に案内してくれるということで良いのですか?」
「えっと、はい。そういう事になります」
「それでその後も同じ守護者として、任務に着く」
「はい!」
…………………………。どう考えても怪しい。まず現地で仲間が待っている、なんて聞いていない。
「とりあえず、皆の所に行きましょうか」
「分かりました」
念のため、ジャンに自分の先を歩かせてビルの屋上から跳び下りる。
「一応、連れてきました。彼はジャン・クロードというそうです」
さっきジャンから聞いた話しを上手く纏めて説明する。無言で終始聞いていたが、目は鋭くなる一方だ。
「成程」
李俊がそう呟くと腰にさした柳葉刀を抜き、ジャンの首の前に突き付ける。それと同様に真子と和は刀を突き付ける。
「なっ!ちょっと待ってください!どういう事ですか」
「見ての通りだけど?君はどう見ても怪しい」
ジャンは困惑と恐怖の混ざった顔で叫ぶが、真子が冷たい表情で淡々と言う。
「ジャン君。証明書を見せてください」
ジャンは慌ててジーパンのポケットから木製の印鑑の様な物を取り出した。
「ちょっと貸してください」
ソゼスはそれを入念に調べジャンに返す。
「真子ちゃん、和ちゃん、李俊殿。彼の言っていることは、どうやら本当の事のようです」
「間違いは無いのかい」
李俊の不毛な問いに、少しのいらつきを感じつつも丁寧に応える。
「勿論です。それにそんな阿呆そうな子が不信人物なんて、考えすぎです。もし何か有っても直ぐに殺せば良いだけですよ」
それに渋々李俊が納得し、柳葉刀を収める。
「君を仲間として認めよう。よろしく」
ーーーー新しい仲間。