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 影の陰   作者:
5/6

 一章 少年

 偉大な偉大な覇王は言いました。


『奪うけれど、決して相手を辱めるな。仲間を馴れ合いと勘違いするな。一人一人が揺るぐことのなき、信念を持て』と。


誰にでも、強く。

誰にでも、優しく。

誰にでも、光を与えた。


そんな、偉大な王様は人々の“憧れ”でした。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ここが、日本…………」


 誰が呟いたかは解らない。皆が思っていた事だから。自分が口に出したのか、それとも6人の内誰かが口に出したのか。はたまた、全員が言葉にしたのか。


ーーーー日本 東京都


 前に行ったアメリカの経済地によく似ている。無機質で冷徹なビル。胸糞が悪くなる様な汚れた空気。反吐が出そうな程の人の群れ。


「そういえば、和ちゃんと真子ちゃんは日本出身ですよね?」

「そうだけど、オレが死んだのは1164年のまだ平安時代だから、今とは全然違う」

「ウチが死んだのも1745年やし。それに、大阪出や」


 残念。宛てが外れてしまった。二人が日本の出だというのは知っていた為、湖やら神社やらの案内をしてもらおうと思っていたのに。


「いくら今と違うと言っても、地形位解るだろ?」

「悪いけど、詳しくは無理だ」


李俊の幾分かきつい口調に、拗ねた様に返す真子は、実に子供らしい。

 真子ちゃんはこれだから、可愛いと言われるんですよ。にしても、死んだのが1164年とは随分と昔だが、一体どんな罪を犯したのか。


「もう皆やる気満々なの~?ま・ず・は!本拠地に行くのが先でしょ~」


相変わらず場の締まらないオカマ口調で、一番大事な事を言う。しかも最後に李俊に向けてウィンクを飛ばす。それに李俊は鳥肌でも立ったらしく、腕を摩っている。

 憐れで可哀相で同情を禁じえません。ですけれど、助けてあげようなんて微塵も思わないのは不思議な事だ。寧ろ、くっついてしまえと少々思ってしまう。


「そうですね。じゃあ、ネルフォンスさん。案内して頂けますか?」

「あら、アタシが知ってる訳ないじゃな~い」

「え……?どういう事ですか?」


 本拠地はこれから活動する中で、とても重要になってくる物の一つだ。その場所を中心として動く。他にも使用内容は様々だが、無いと困るのは確かだ。


「誰か、知っていますか?」

「………………」


長い沈黙が流れる。誰も知らないということが容易に理解できる。


「誰も知らないみたいですね…………」

「……ほら、さっさと行くぞ」

「何や。あんた解ってたんなら早く言わんかい」


和は実力トップの者に対しても怯むことなく文句をつける。当の李俊は文句を言われて怪訝そうな顔をした。


「解らないが、とりあえず何処かに行けばどうにかなると思うのだが」

「なるかい、ボケェ!そんなんやったら、世の中誰も苦労なんかせえへんやろが!!」

「だが、為せば成ると言うじゃないか」

「だから、成らないから苦労すんやろが!この馬鹿」


まるで漫才を見ている様で面白い。和ちゃんの突っ込みに冷静にボケているのが笑いの種だ。


「意外でした。李俊殿は結構天然なんですね」


案外可愛いらしい一面もあったものだ。人は見掛けに寄らないというのは、中々上手く言ったものだな。


「もう!そんな可愛い李俊さんも好いわ~!」

「オカマの変態野郎は黙っとけ!」

「和ちゃん、ダメよそんな事言っちゃあ~。女の子はもう少しおしとやかにしないと。それにアタシは野郎じゃないわ。れっきとした乙女よ!ちょっと、話位ちゃんと聞きなさいよ!全くもう」


真子がネルフォンスを小馬鹿にした顔でソゼスに話しかける。


「あいつ、話し長すぎじゃない?というか、きずくの遅すぎだよね」

「はい。私も思います」


苦笑いで応えると、隣でリルちゃんも勢いよく、縦に首を振っている。リルちゃんは喋らないが、行動で示してくれるので助かる。


「あっ、いたいた!オーイ」

「あ゛?」


 いきなりマヌケそうな声がして、目を見やる。ビルの屋上から手を振る人影。誰だろうか。


「ちょっと私、見てきますね。此処で待っていて下さい」


そう言うや否や、ソゼスは深く膝を曲げると地面を強く蹴る。ビルの屋上から屋上へと跳びながら相手に近付く。


「うおっ!流石先輩。凄いです」

「君は?」

「ボクですか?ボクはジャン・クロードです。よろしくお願いします」


 そう名乗った少年は見た目通り阿呆そうな子だった。金色の髪は日に反射してキラキラと輝いており、肌は少し日に焼けて、いたって健康的だ。顔の造りは十人並みだが、大分童顔である。黒いティーシャツにジーパンと、ラフな格好をしていた。


「先程、私の事を先輩と言いましたが、それは一体どういう事ですか?」

「そのままの意味のつもりだったんですけど………。説明不足ですね」


少年ーーージャン・クロードーーーは慌てた様子で喋り始めた。


「つまり、私達を本拠地に案内してくれるということで良いのですか?」

「えっと、はい。そういう事になります」

「それでその後も同じ守護者として、任務に着く」

「はい!」


…………………………。どう考えても怪しい。まず現地で仲間が待っている、なんて聞いていない。


「とりあえず、皆の所に行きましょうか」

「分かりました」


念のため、ジャンに自分の先を歩かせてビルの屋上から跳び下りる。


「一応、連れてきました。彼はジャン・クロードというそうです」


さっきジャンから聞いた話しを上手く纏めて説明する。無言で終始聞いていたが、目は鋭くなる一方だ。


「成程」


李俊がそう呟くと腰にさした柳葉刀を抜き、ジャンの首の前に突き付ける。それと同様に真子と和は刀を突き付ける。


「なっ!ちょっと待ってください!どういう事ですか」

「見ての通りだけど?君はどう見ても怪しい」


ジャンは困惑と恐怖の混ざった顔で叫ぶが、真子が冷たい表情で淡々と言う。


「ジャン君。証明書を見せてください」


ジャンは慌ててジーパンのポケットから木製の印鑑の様な物を取り出した。


「ちょっと貸してください」


ソゼスはそれを入念に調べジャンに返す。


「真子ちゃん、和ちゃん、李俊殿。彼の言っていることは、どうやら本当の事のようです」

「間違いは無いのかい」


李俊の不毛な問いに、少しのいらつきを感じつつも丁寧に応える。


「勿論です。それにそんな阿呆そうな子が不信人物なんて、考えすぎです。もし何か有っても直ぐに殺せば良いだけですよ」


それに渋々李俊が納得し、柳葉刀を収める。


「君を仲間として認めよう。よろしく」


ーーーー新しい仲間。



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