序章 幕開け
「移動、ですか…………」
上司に言い渡された転勤命令。
「そう。真子と一緒に人間界に行ってくれ」
「嫌ですよ!!何でこいつと一緒何ですか!?」
「ソゼスの実力を考えると、これが妥当なんだよ」
納得出来ずに反論を並べる彼ーー真子ーーはとっても、生真面目な性格をしている。対して、けなされている身であるはずの、ソゼスーー本名をソルソナーゼス・ギルナ・マッドドレアス・ザンビアニ・ルーシャ・キンビスというーーは妙に涼しげな顔で、他人事の様にそれを眺めていた。
「此処まで言われているんだ。君も何か、言ってやったらどうだ?」
そこで始めて、自分の事を言っているのを知ったかの様に、何ですか?と問い掛ける。その反応は、両者共予想外であったらしく、呆れた顔で彼女を見つめる。
「あっ、じゃあ一つだけ。何故私が人間界に行くメンバーに入れられたんですか?」
「………………」
話が噛み合わない。
「文句や反論の一つでも言ったら?」
「そんなの無いですよ?真子ちゃんが言ってたのは、ちゃんと自覚してますし」
「…………あっ、そう。その真子ちゃんって言うの、止めてくれない?不愉快なんだけど」
真子は思いっきり顔をしかめて不満を述べる。が、ソゼスの方は、自分に言われているのが解らないかの様な表情(顔)をしている。その鈍感過ぎる態度に、真子のイライラは募る一方だ。
「とにかく!こんなぬけてる奴と一緒に仕事とか、オレは絶対に嫌だからね!」
「そんな事言うなよ。だいたい、もう決定事項だし」
困り顔で真子を宥めるのは、上司の弓竹 戒席官。部下の信頼も高い上に、実力も相当ある。そんな好い人の下でソゼスと真子は仕事をしているのだ。
処で、ソゼスや真子の仕事については今から説明しようと思う。
仕事内容は実に単純で明快だ。派遣された世界の守護。簡単に言ったらそれだけだ。
まず、神界、天界、精霊界、霊界、人間界、下底界の六つの世界が存在する。その内の下底界はソゼス達、守護者や死神、悪魔が住まう場所である。
神界はその名の通り、神の住まう世界。天界は龍や麒麟、天使の住まう世界。精霊界も名前の通り、色々な精霊の住まう世界。霊界と人間界もまた同様である。
今回は人間界だが、これが一番辛い仕事だったりする。まず、人間は弱い。次に、地震や台風といった自然災害は神や龍に麒麟、精霊の仕業だったりする為、時にはそれらを相手にしなくてはならない。しかも、人は死ぬと霊に成るのでその処理もする。これらをこなすとなると、相当な労力と戦闘能力が必要だ。
「こんなマヌケには重責なんじゃない?」
真子はソゼスを馬鹿にする様に、顔を歪める。嘲笑されれば誰だって怒るか、泣くかの態度をとるものだが、ソゼスの場合は全く正反対の態度であった。
「そうですね。真子ちゃん、よろしくお願いします」
そう言ってニコッと笑う。侮辱されてもこの態度、鈍感と言うには些か度が過ぎている。真子はその反応に言葉を失い、絶句してしまった。
「…………頭、おかしいんじゃないの?」
その可愛らしい顔に目一杯に胡乱な表情をつくる。まるで、不審者でも見るかのように。当の本人は全く解っていない。
ソゼスは何時も、ニコニコしているが何を思っているか、解らないところがある。
ーーー私、人間は嫌いなんだけどな。
こうして、前途多難な物語りが幕を開けた。