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2014年/短編まとめ

漫画家さんと担当さん

作者: 文崎 美生

物心つく前からしてきたのは描くこと。


ただひたすらに描き続けること。


私にとってはこの漫画の世界が全てだったのだ。


昔から側にあって手にとってきたから、それが自然なことだった。


こうなることが当然だった。


漫画家という職についてそれで生活を立ててゆく。


それを当然のようにやってきた。


でも中途半端な気持ちじゃない。


漫画を描くことが好きだ。


それに私の漫画を見て共感してくれる人、喜んでくれる人、感動してくれる人。


沢山の人がいる。


それが何より嬉しくて原動力になっているのだ。


私がそう語れば目の前の彼は頷いて聞いていた。


この一年間の漫画家生活は彼と共に歩んできたもの。


今回の原稿を渡す際に、思いついたように問いかけられた「なんで漫画家になろうと思ったんですか?」という言葉。


意外な質問に一旦フリーズしてしまったが、コーヒーを入れながら話し始めた私の経緯。


それを彼は真面目な顔で、出したコーヒーに一切手をつけずに聞いていた。


話し終わると一つため息をついて、冷めてしまったコーヒーに口をつける。


「意外と淡白な動機だったんですね」


ふふっと楽しそうに笑った彼。


まぁ、確かに動機としてありきたりでアッサリしている。


彼は一体どんな動機がよかったんだか。


「じゃあ、逆にどんなきっかけで編集部に入ったの?」


今度は私が問う番だ。


編集はそれなりの大学出じゃないとつけない仕事だ。


要するに彼も大学を出ている。


他にも就職先はあったはず。


なのに編集部に入った理由とは何なのか。


彼はコーヒーカップを片手に視線を天井へ向ける。


「まぁ、僕もありきたりですよ」


照れくさそうに笑う。


「単純に才能がなかったんです」


漫画家になるっていうのは簡単だろう。


担当が付けばとりあえず漫画家なのだから。


でも自分の描く漫画で生活ができて本当の漫画家なのだ。


漫画家になれるのはほんのひと握りだけ。


口で言うほど簡単なことじゃない。


描きたい、それだけでなれるものじゃない。


「僕は漫画家になりたかったんですよ。でも才能がなかった」


そんな人は五万といる。


売れていくには努力だけでは追いつかないこともある。


努力だけで全ての才能を超えられるわけじゃない。


漫画は読者の評価だから。


「それでも僕は漫画が好きです。自分で作れないのなら、それを作る人の支えになりたいと思ったんです」


だから編集部に入ったんです、と笑う彼。


漫画家は担当と二人三脚だ。


作れないのなら作る人のそばに。


なるほどなと私も笑う。


だから彼はきっと漫画に真摯なんだろう。


そんな人が担当で良かったな、私。


「あ、次の作品は漫画家になりそこねた主人公とプロ漫画家はどうですか?」


ぽんっと手を打ち新しい案を言うと苦笑された。


それは流石に…、と言った様子だ。


いいと思うんだけどなぁ。


実体験も描いてみたいと思う今日この頃。

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