三題噺
お題→黒猫、天使、オルゴール
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ある街に1匹の黒猫がいました。
その街にいる唯一の黒猫です。他の猫はどこを探してもいません。
いつも1匹ぼっちの黒猫。そんなある時、友達が欲しくなりとぼとぼと歩きだしました。
すれ違う人は黒猫に目もくれず、忙しそうにしていました。
『僕は誰にも相手にされない…。』
そんな事を考えながらとぼとぼ、とぼとぼと歩き続けました。
朝も昼も夜も、春も夏も秋も冬も、疲れては休み、また歩きを繰り返していました。
ある時黒猫は、台風にあいました。
強い雨風の中も歩き続けていました。しかし、足を滑らせて川に落ちてしまいました。
目を覚ますとあたり1面真っ白。黒猫は少し怖くなりました。
『ここはどこなんだろう…………。』
ぽつりと呟きました。すると何もない空間から女の子が現れました。
『……え??君は……誰なんだい?』
黒猫は怯えながらも尋ねました。
「初めまして。私は天使です。」
女の子はそう名乗りました。
『てん……し……?』
黒猫は全く理解できませんでした。
「そう、天使。あ、もしかして信じてないの?」
天使は少し不機嫌そうに言いました。黒猫は、状況を理解しようと頭をフル回転させました。
すると頭に鋭い痛みが走りました。
「あー、君は川に落ちて即死したんだよ?覚えてる?」
『そ……うだ、僕、川に落ちて……それで…。』
黒猫は自分が死んだということを理解して、身震いしました。
『そっか……。死んじゃったんだ、僕。』
黒猫は泣きながら言いました。天使は少し考えて、
「ねぇ、どうして台風の中歩いてたの?」
と、尋ねました。
『僕がいた街には、仲間、友達がいなかったんだ。それで別の所に行って友達を探そうとしたんだ。けれど…。』
そこまで言って黒猫は黙りました。
いっときの沈黙の後、天使はどこからかオルゴールを出して言いました。
「だったら私と友達にならない?それと、これをあげるわ。」
黒猫はきょとんとしていましたが、言葉を理解しひどく喜びました。
『本当に?!友達になってくれるの?』
「もちろんよ。天使は嘘なんてつきません。」
そう言うと天使は黒猫にオルゴールを手渡しました。
そしてオルゴールを鳴らしました。とても綺麗な音色です。
『素敵な音色だね。ありがとう………ありがとう。』
黒猫はたくさんお礼を言いながら消えていきました。
それを見届けた天使も静かに消えていきました。
白い白い空間にはオルゴールが1つ。綺麗な音色を奏でながら残されていました。