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イジメ開始(上)

 「何してんの? 」相も変わらない愛想のない質問だった。

 「別に」

 「今野さんと喧嘩したんでしょ。なんか今野さん教室戻ってきたとき怒ってる感じだったもん」

 「・・・・まあ、そんなとこ」今野さんとは、洋子の上の名前だ。

 「もうチャイム鳴ってるよ」素っ気無く言いながら個室に入っていった。

 涙を拭いて顔を水で洗い、トイレから出て行った。でも授業を受ける気にはなれなかったので保健室に向かった。

 保健室には当然ながら先生がいた。机に向かって何か書き物をしている。私は保健室に入り、ものすごく痛そうな顔で先生に「整理痛がひどいんで休んで良いですか」と言った。

 「あらほんと?とりあえずそこ座って」そう言って、書き途中のペンを置いて立ち上がった。

 手に錠剤を二つとコップを持って私の前に来た。

 「これ飲んで、一時間休んでだめそうだったら、早退する? 」

 「や、とりあえず休んで、平気そうだったら教室戻ります」

 「そうね。とりあえず、ベットに横になってなさい」そう言って書き物の続きをやりだした。

 私は手渡された錠剤を水で流し込んでコップを流しに戻してベッドに向かった。ベットが硬いのを除けば最高の空間だ。

 ベッドの中に入ったら急に泣きたい気持ちになった。不甲斐無さ?この先の不安?色々なものが大きく見えて、それをひとくくりにした良い説明が思い浮かばないが、無性に悲しくなった。けれど、涙は堪えてとりあえず寝よう。それが結論だった。

 別にすごく眠かったわけではないが、上下のまぶたをくっつけたら直ぐに優しく何かが私の手を引っ張って、静かな真っ白な心地良い空間にストンと落としてくれた。

 そして、次の瞬間にはもう保健の先生が私を揺り起こしていた。

 「どう?授業出れそう」

 「や・・・ちょっと、今日はダメそうですね・・・」本当に痛そうな感じに顔を歪ませて言った。もちろん嘘だ。

 「そう。じゃあ、今日はもう帰る?三時間目だけど」

 「はい。そうします」あくまでつらそうな顔で。

 「じゃあ、早退届け書いておくから上行って荷物とって来なさい」

 「はーい」そう言ってベッドから這い出た。

 階段を三階まで上って、A組の教室に入る。

 「あれ?栞どこ行ってたの」

 まだ、黒板の板書を書き写していた志保がきょとんとした顔で聞いてきた。

 「保健室。今日はもう帰るのさ」

 「え!なんで!? 」

 「なんか今日、学校だるい」机の中から教科書を出しながら言った。

 「あのひと、どんな理由でもすぐ帰してくれるよね。真面目に仕事やる気あるのかね? 」

 「そう?私的には直ぐ早退させてくれる先生なんて最高だと思うけど」

 志保みたいな真面目学生にはこの素晴らしさは分からないのだ。

 「じゃ。また明日ね」

 「うん。じゃーね」

 荷物を詰め込んだカバンを持って再び一階の保健室に戻り、早退届けの紙をもらって、担任の前島に出しに行く。

 「失礼します」

 教員室の立て付けの悪い扉を開けた真正面の席が前島も席だ。

 「お、真鍋どうした」

 「早退するんで、この紙」

 早退手当てを前島に手渡す。

 「おう、わかった。気を付けて帰れ」

 「はい。失礼します」

 再び、立て付けの悪い扉をゴロゴロと閉める。

 下駄箱に行き靴を取り替え、外に出る。午前中なだけあって日差しが心地良い。

 ふとグラウンドを覗いてみるとC組が体育をしていた。思わず洋子を探してしまう、今日は五十メートルのタイムを計る日だ。ざっと探した感じ居なかったので恐らく、洋子は走るのが苦手だからきっと適当な理由で見学しているのだろう。

 目線を前に向けて校門を目指す。と、校門の近くで二人の女子が居るのを見つけた。

 歩を進めるごとに不安は大きくなり、まさか・・・という不明確な憶測はしっかりとした形へと変わって行った。洋子とミカの顔がはっきりと認識できる距離まで来ると目頭が熱くなってきた。

 「さぼりかよ」

 とんがった言葉を先に投げてきたのはミカだった。

 「それとも」

 洋子が声を発する。胸がキュっと締め付けられる。

 「自分がどれだけ不要な人間か気が付いちゃった」

 ミカよりも尖っていて、刺々しい言葉を洋子はぶつけてきた。

 あくまで平静を保って何もなかったように洋子たちの前を通り抜け、校門を抜けた。我が家がもう直ぐそこなのが嬉しくて仕方がなかった。気を抜くとまた目から涙が溢れてしまいそうだった。

 いつものように階段を上がり、家の鍵を開けて家に入る。「ただいま」と呟く。

 そうした瞬間に堪えていたものが目から溢れ出来た。玄関にしゃがみ込んで泣いた。

 どれだけ時間が経っただろうか、携帯電話のバイブレーションが鳴ったので顔を上げた。きっと現実の世界では五分程度なのだろうが、私の中では十五分にも三十分にも感じられた。

 ポケットの中から携帯電話を取り出しディスプレイを見ると、洋子からのメールだった。少し固まって考えたが、大体の内容の見当がついたので見るのを止めた。

 靴を脱ぎ自分の部屋に入る。妙な懐かしさと安堵感が私の胸の穴を吹き抜けていく。

 カバンとブレザーの上着を適当なところに置いてベットの上に横になる。

 さっきの洋子の言葉を噛み締める。頭の中では根を下ろしたはずの「なぜ? 」が再び舞い上がり「どうしよう」という戸惑いと共に脳内を駆け巡っている。考えれば考えるほど悪い方向に進んで行き、また涙が溢れてきた。「死」について考えた時の気持ちにちょっぴり似ている。考えれば考える程わけが分からなくなってきて、いたずらに恐怖という実態のない存在がどんどん肥大していく。

 

 知らない間に眠ってしまっていた。

 時計に目をやると時間は二時を少し過ぎたところだった。

 ブレザーの中で携帯電話わやかましく音を立てていた。ベットから降りてカバンの側にあるブレザーの中から携帯電話を取り出す。

 着信履歴三件。Eメール件数三十二件。

 胸の穴を風が寒々しくすり抜ける。しっかり携帯電話を握り締めていないと落としてしまいそうだった。

 念のため送信者をチェックするとほとんどが当然ながらミカと洋子だった。その中にポツンと志保からのメールが二件来ていた。

 「しね」

 「早く成仏してください(>_<)」

 当たり所が悪く床に落ちた携帯電話から電池パックが弾け飛ぶ。

 よろよろとベッドの縁に座りこんなに私って涙腺弱かったっけ?志保は洋子のこと嫌いなはずなのになんで?と疑問ばかりが頭の中で渦を巻いていた。

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