1、空からダイコン
「ルンルンルーンだわん」
黒魔女サキューラが、真っ黒の皮のボンデージでルンルンお買い物。
でも膝上までの長いピカピカ真っ黒ブーツにピンヒールは、ちょっとスキップしにくい。
ゆっさゆっさと胸が揺れ、お腹から胸まで編み上げた紐がピンピン跳ねる。
大根が刺さったお買い物袋は昔ながらの買い物かご。
カゴを持っていくと、毎回一個ずつはんこが貰える。
カードいっぱいためると百円だ。
んー?と振り返ると、十人ほど怪しい男達がこそこそ隠れながら追ってくる。
いやんとTバックのお尻をぷりぷり。
ドッと鼻血を出して、半分が脱落した。
「いやん、あの方達がお家まで来たら、一太に怒られちゃうん」
バサッと背中からコウモリのような羽を出し、バサッバサッと飛び上がる。
家に向かって飛んでいると、ひゅーっと風が吹いてカゴから大根が落ちた。
「あらん」
ピューッと白くて立派な青首大根が落ちて行く。
やがて一人の男のジャケットのフードに、ボスッと見事ジャストミートして突き刺さった。
あまりの衝撃に、首を押さえて男がしゃがみ込む。
バッサバッサと男の顔を窺いながらサキューラが降りてきた。
「やっだあん、落としちゃったわん」
頭上から、声が聞こえる。
男は浪人の受験生だ。今は図書館の帰り。
神経が最近些細なことでもイライラする。
こっのおー……
男はむかつきながら、怒鳴ってやろうかと大根をフードから抜いてバッと顔を上げた。
「このっ……」
目前にはキラキラうっふんな、サキューラの妖艶な顔。
ツヤツヤの黒髪をサラサラなびかせ、真っ白な肌に黒いまつげがバサバサのちょっと垂れ眼。そしてツヤツヤした真っ赤の燃えるような厚い唇。
男は言葉を失い、そしておずおずと大根を差し出した。
「お嬢さん、落としましたよ」
「あらん、かわゆいオ、ト、コん」
チュッと頬にキスされた。
ぽうっと頬が赤くなり、久々の異性の色気にクラッとめまいがする。
ああ、早く大学に入って遊びたい。
「坊やん、お名前は?」
「あ、あの、山田太郎です」
「はん?」
「太郎」
ドキーンとサキューラが目を丸くする。
居候先の親玉、中学生の一太郎にダイコンとカラシを急いで買って来いと、頼まれていたのを思い出した。
「きゃーん!大変よ!やっだーん」
バサッバサッバサッと風を巻いて羽ばたき、慌てて家に飛んで行く。
太郎はその、きわどいTバックに見とれながら、頬にバッチリキスマークを付けて呆然と立ちつくしていた。