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▼サクラは歌って踊った

「シャ、シャ、シャ、シャララ、シャララッ、イエイ!」

 歌を歌いながら、城内をご機嫌で散策するサクラ。その姿は傍目から見るとただの奇行に走る少年であり、その正体が王女だなんて夢にも思われないだろう。

「シャ、シャ、シャララ、シャララ、いえっい!」

 気分が乗ってきて、ついに歌に振り付けまでつけるサクラ。それを見ていた城の人々は、一歩だけ少年サクラから距離を取った。しかしサクラは彼らに構わない。否、ドン引きされているとも気付かないほど有頂天だった。

 もともと、堅苦しい礼儀作法や貴族間の見栄、悪魔のようなコルセットを嫌っていたような王女である。そのすべてから解放されて、喜ばずにはいられなかった。

 ふと思いつき、サクラはその場にゴロンと寝転がる。

 横たわったまま、芝生の上をごろごろと転がって行進。頬をくすぐる芝生や、植物の青い香りに思わず笑みをこぼす。サクラはとても気持ちがよかった。芝生で寝転がるなんて、ドレスなんか着ていたらできないことだ。

 年頃の娘なのだから綺麗なドレスは嫌いではないが、やはり堅苦しさはぬぐえない。何より、ドレスは窮屈だ。

 それに対して、従者服のなんと着心地の良いことだろう。胸を締め付けるコルセットもなく、長すぎるスカートもない。サクラはこれ程までにゆったりとした服は寝間着以外に知らず、またそんな着心地のいい服で外に出たこともなかった。歌って踊りたくもなるものだ。

 今頃はコルセットとお茶会に苦しめられているだろうユキに黙祷しつつも、彼女は自由を謳歌していた。

 芝生を転がるのに飽きたのか、サクラはぴょこんと芝生から跳ね起きて、手で体についた草を払う。大きく深呼吸した。

「よっしゃ、次は城の裏を見て回るべ!」

 うんとのびをして、そう宣言するサクラ。そして、少し首をかしげた。

 サクラはしばらく、自分がなぜこんな大声で独り言を言ったのか分からなかった。しかし、理由がすぐに思い当たる。ユキだ。サクラは、ユキに言葉を向けたのだ。

 二人はいつも一緒だったから、ついつい話しかけてしまったらしい。それも無理もないだろう。自分を心配する幼馴染が隣にいないというのは、サクラにとっては初めてのことだった。

 ふーん、と空を見上げる。城壁に切り取られた四角い青空を見上げ、サクラは今、自分が一人だと理解した。

 そっかぁ。ユキは今、オラになってお茶会に出てるのかぁ。

 胸をつく寂しさ。サクラは自分の内側から湧き上がってきた感情に、戸惑う。

 自分の右隣がからっぽでつめたいのを居心地悪く思い、サクラはそそくさとその場を後にした。



 先程よりも気落ちした様子で(良く言えば、落ち着いた様子で)城壁に沿ってサクラは歩く。さすがは大帝国の王宮と言うべきか、どこまで進んでも角にぶつからない不思議。自分の住んでいた城と比べて、少し落ち込んだ。

「……いやいや、敷地面積と家畜の数なら負けないはずだべ!」

 対抗してみた。しかし、よくよく考えたらただの田舎自慢だった。深く落ち込んだ。しかも一人芝居。もう顔が上げられない。

 そうやって、俯いて歩いていたせいだろうか。肩を落として歩くサクラの視界に、きらり銀色に光るものが一つ。「ん?」不思議に思って、足を止める。

 屈みこんで見ると、芝生の上に落ちていたのはスプーンだった。銀製の、ずいぶん上等なスプーンだ。

 城の裏でスープでも飲んだのだろうか、と思いつつ、スプーンを拾い上げて何気なく顔をあげる、と。

 壁には、大きな穴が開いていた。

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 とりあえず、くぐろうか……」

 体を伏せて、城壁の穴をくぐるサクラ。サクラよりも少し大きな誰かが掘ったらしい穴は、小柄な彼女が匍匐前進すれば難なく通った。土をパンパンと払い、ぐるりと辺りを見回す。

 すると城壁のすぐそば、地面に乱暴に突きたてられた棒に繋がれた、馬を発見した。毛並みのいい立派な黒馬に、どっさりと荷物が括りつけられてある。

「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 とりあえず、乗ろうか……」

 もはや完全に何かを悟ったサクラは馬に近寄り、よしよしよし、と首をさすってやる。が、プライドが高いのか、馬わはサクラの手を嫌がった。育ちのよさそうな馬だ。貴族の馬だろう、とサクラは見当をつける。

 馬は山ほどの荷物を背負わされたのが不服そうな顔をしていたので、サクラは積荷の紐をほどいて降ろしてやることにした。紐を手早く解くと、地面に荷物が土ぼこりをあげて落ちる。重たい塊から解放されて、満足そうに鼻を鳴らす馬。それを懐かしそうに見るサクラ。

 サクラ、再び馬に手を伸ばす。積み荷から解放してもらったことで警戒を解いたのか、今度はサクラの手を拒んだりなどはしなかった。鞍に足をかける時も、為されるがまま。無事に馬に乗ることができたサクラ、「よし、タロー!」と勝手に名前をつける。

「はいヤー、すすめ!」

「ちょ、ちょっと待てそこぉおおおおおおおおっ!」

 突然の怒声に、サクラだけでなく馬までもが体をびくりと震わせる。あちゃー、と小さく呟いた。

 恐る恐る、声のした方を振り返る。



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