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★サクラとユキのゴカイゴカイなテロ事件

 アリシア国の王宮。そよそよと生暖かい風が吹く中、中庭には複雑な経緯を経た人間が集まっていた。

 黒目黒髪をした、東洋人の少年少女。

 金髪碧眼、妙に鋭い三白眼の男。

 銀髪巻き毛、紫の目を持った二人組。

 わけもわからず集結した五人。その中心で、戸惑ったように視線をうろうろさせていたユキ。ごほん、と場をまとめるように軽く咳払いした。

「ええっと……状況を整理しますと、ユキは銀髪巻き毛の方を、この人と捜していた、と」

 この人、のところで、自分の隣に立つ男性を手で示す。長めの銀髪を一つに括った、紫の目をした男性である。絶やすことのない笑顔。どことなくユキが、先程まで相対していた姫君と似通った鼻目立ちだ。

「その通りだべ。もっとも、リオンはもう見つけちゃったみたいだけど」

「はっはっは。残念だな、使用人の君。俺の勝ちだ!」

「おお! 驚いたことに、ちょっと悔しいべ」

 何の勝負をしていたんだろう、という疑問が脳裏をかすめるが、そんなことをいちいち追及していたら話が進まない気がする。質問を飲み下し、それでは、とユキは少女の方に向き直った。先程まで、ユキが褒め倒そうとしていた姫君だ。

「貴方が――クレーネ様が、こちらの方――リオン様が探していた、銀髪巻き毛、ということで良いでしょうか」

「ええ、そうよ。まったくもう、お兄様ったら……」

 やれやれ、と困ったように頬に手を当てるクレーネ。紫水晶を思わせる大きな双眸を、悩ましげに瞬かせた。

 輪から一歩引いた場所で、つんつんとレイモンドがサクラの肩を叩く。振り返ったサクラに、じっとりとした視線を向けた。

「おい、私が探していた銀髪巻き毛というのは、この男――リオンのことだぞ」

「ありゃ、そうだったんだべか?」

「俺は銀髪巻き毛としか言わなかったからなあ。こんな誤解を生んでしまって、実に愉快」

 はっはっは、と豪快に笑うリオン。誰ですか、この人を食ったような男は、とサクラに目くばせするユキ。知らねーよ、と手を横に振るサクラ。笑顔キャラというのは時と場合によって、好感度が下がることがある。

「そうそう! リオンに会って思い出したんだけど、さっき不審者が城壁を上って侵入して来てたべ。通報した方がいいべか?」

 ぽん、と手を打って、遅すぎる報告をするサクラ。そんなもん見たらすぐ通報してください! とユキは内心で盛大に突っ込んでいたが、上流階級の人々の前で王女が漫才するのはいかがなものだろうか、と控えておいた。

 サクラの言葉に、ああ、と納得したようにレイモンドが口を開く。

「その侵入者というのは、リオンだ。こいつは他国の王子のくせに、変なところから城に入ってくるからな……」

「お兄様、もう二度としないでくださいまし! 王子として恥ずかしいですわよ!」

「はっはっは。そうは言ってもな、俺は堅苦しいもてなしは肌に合わんのだよ。王子の自覚とやらは、もう少し後になったら身につけるさ」

「お兄様!」

 溜息をつくレイモンド。悪びれもせず笑うリオン。それを嗜める妹クレーネ。

 ほっと表情を緩めたユキは肩の力を抜き、微笑みながらサクラを振り返った。

「何はともあれ、探し人が見つかって何よりです。ねっ、ユキ。……ユキ?」

 サクラは一人、何か考え込むように腕を組んでいた。視線を落とし、従者服がしわになるのも構わず指を白いあごに当てる。奇妙に思ったユキが首を傾げた頃、もっと奇妙そうな顔をして顔を上げた。

 怪訝そうに眉を吊り上げ「あのさ」と一同を見回し、リオンを指差す。

「こいつ、誰だべ?」

「だから、侵入者で他国の王子の……」

「じゃなくて。

 オラが見たのは、コイツじゃなくて黒づくめの男だべよ」

「は?」


 一瞬凍りついた空気。それをぎざぎざと切り裂くように、甲高い悲鳴が上がる。大きな黒い影。そこから延びた手が、クレーネのか細い喉に回された。

 呼吸すらできない緊張が走る。誰もがその状況を理解したのは、クレーネのこめかみに黒光りする鉄が当てられた後だった。


「てめぇら! 一歩でもそこから動いたら、姫様の頭をぶち抜くぞ!」

 大柄な、無精ひげを生やした男。毛深い腕が少女の首に回されている。押し当てられた拳銃。侍女に自分の状況を理解し、血の気が引いていくクレーネ。

 人質を抱えた男が、武器をもって脅しかけている。こんなところでこんな暴挙を行う人間の目的が、金なわけがない。

「テロリスト、か――?」

 サクラが無意識にこぼした言葉に、レイモンドの目がハッとしたように見開かれる。体が硬直する。ユキは体中の穴という穴から嫌な汗が噴き出すのを感じた。

 ハッタリなんかじゃない。あれは、間違いなく人を殺せる道具だ。本物の拳銃だ――!

「誰も手を出すんじゃねえぞ! 早く馬を用意しろ!」

 低いがなり声を上げて、男が周囲を威嚇する。そんな男に拘束されたクレーネ、腕の中でじわじわと紫の瞳が恐怖に揺らぐ。白く美しい肌は、今は青白いくらいだった。

 そっと、サクラとユキは目くばせする。サクラは自分の手元を見た。ユキも彼女の手元を見た。絡み合う視線。小さな頷き。

「この姫様の命が惜しければ、早く馬を――――!」

 男が再度怒鳴った瞬間。

 男は、草木の香りで目を覆われた。




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