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▼サクラは不審な笑顔キャラと出会った


 茂みに落ちた男の姿を見て、サクラは青ざめる。

「うわあ……侵入者だ、噂の変質者だ!」

 持っていた竹刀を取り落とし、おろおろとその場を歩きまわる。一人で頭を抱えて右往左往するその姿は不審そのものだったが、とがめる人は周りに誰もいない。

「どうしよう……近衛兵呼ぶか……? それとも、オラが華麗に成敗した方がいいべか……?」

 もちろん、近衛兵を呼ぶべきである。

 迷う余地がないはずの選択肢で苦悩していたサクラはふと足を止め――いそいそと竹刀を拾い上げた。ぎゅっと竹刀を握りしめ、顔を上げる。

 そうだ、ここで悪漢を成敗し、サンリアの評判を上げるのだ!

 ただでさえ先日の騒動のせいで悪評が広まっているんだ。名誉挽回、ここでやらねば男がすたる! 

 本当は女の子だということをすっかり忘れ、物騒なことで汚名をそそごうと意気込むサクラ。

 の、後ろで茂みが揺れた。

「うひゃあっ!」

 不意打ちのように聞こえた音に、再び竹刀を落っことす。頭からつま先まで、ザザザ、と血の気が引いていくのを感じた。

 うそうそうそ、早すぎだろ悪党! まだ準備ができてない、心の準備ができてない! ていうか、さっき城壁から落ちたのにもう背後に回ってるの!? 変質者が予想以上の猛者だぞ!

 それでもとりあえず間合いを取り、竹刀を大きく振りかぶる。街で発生するという変質者が怖いから目はつぶったまま、己の勘のみを頼りに竹刀を振りおろした。

「せ、成敗っ!」

「うおっ!」

 どうやら、変質者を驚かせたようだ。しかし手ごたえはなく、避けられたらしい。変質者の悲鳴があまりにも間が抜けているので、サクラは恐る恐る瞼をひらいた。

 眩しい視界に目をちかちかさせながら、ゆっくりと変質者の姿を捉える。……若い男が尻もちをついて、頭をガシガシとかいている。精悍な顔立ちをしている、青い服を着た男だ。あいててて、と腰をさする彼の姿に、サクラは肩透かしを食らったような気分になった。

「なんだ。変質者って、間抜けな優男のことを言うのか。拍子抜けしたべ」

「変質者って……ひどいな、オイ」

 そう言いながらも、精悍な顔立ちをにへら、とゆがめる男。ますます優男の印象が強まった。怪訝な顔をする彼女に、変質者に対する恐怖は既に一片も残っていない。むしろ、なんだこいつはという疑念がむくむくとわき上がる。

「いやあ、驚いた。この城に突然襲い掛かってくる使用人がいるとは思わなかったぞ」

「背後からいきなり出てくるお前が悪いんだべ。さっき、そこの城壁に侵入者が居たから、そいつかと思って……」

「侵入者? ああ、城壁を乗り越えてきたやつのことか?」

「その通りだべ。近衛兵に連絡とかした方がいいべかな?」

「いや、そんなことはしなくていいぞ。気にするな」

「気にするな!?」

 城に入ってきた危険人物を気にするなって……こいつ、何者!?

 少し警戒するサクラをよそに、青いマントについた砂ぼこりを払っている男。ああ、と思い出したようにサクラの方へ向き直った。胡散臭いぐらい屈託のない笑顔だ。成人男子がここまでの無邪気さを保有してるとか怪しい。怪しいというか、変だ。偽りの可能性が大。

「自己紹介が遅れたな。リオン・クアルファだ。以後よろしく」

「こちらこそ。オラはここに滞在している姫の従者をやってる、ぇっと……ユキだべ」

「ところで、従者という職業は姫を放っといて素振りしてて良いのか?」

「いいんだべよ、オラは」

「おまえ、大物だな」

「なにが?」

 首をかしげるサクラに何が可笑しいのか、はっはっは、と笑うリオン。ずっと笑みを絶やさないことから、笑顔キャラだと推察する。ますます怪しい。笑顔キャラは腹黒いと相場が決まっている。腹の中でどす黒いことを考えているに違いないぞ。

 警戒心を強めるサクラの前で、「そうそう」とリオンが手を叩いた。

「少し人を探してるんだ。使用人の君よ、やたらと目つきの悪い金髪を知らないか?」

「やたらと目つきの悪い金髪……」

 脳裏をよぎるのはレイの顔。金髪に、きつい三白眼を思い出す。

 しかし、王子に向かってこんな傍若無人な口をきく奴はさすがにいないよな。例えばリオンは他国の王子で、レイとは昔から交流がある幼馴染の友人同士だとかでもない限り、こんな言い方はできないだろう。彼の言う目つきの悪い金髪とは、別人かもしれない。

 そう思ったサクラは、ふるふると首を振る。

「残念ながら、知らないべ。オラ、ここに入ってまだ日が浅いから」

「そうか……では、銀髪の巻き毛はどうだ? 紫の目をした美人なんだが、そいつも探してるんだ」

「銀髪の巻き毛に、紫の瞳……ご兄弟か何かべか?」

「そんなところだ」

 ふうん、と相槌を打つサクラ。先程も言ったようにサクラは城に入って日が浅く、そんな人物はもちろん知らない。しかし、そろそろ素振りにも飽きてきた頃だ。そして、人が困っているときは助けるべきだ。

 竹刀を城の壁に立てかけ、砂ぼこりにまみれた手を払う。従者服で泥をぬぐいながら、パンパンと手を叩いた。

「そんな奴は知らないけど、なんなら手伝ってやってもいいべよ。どうせ暇だし」

「おお! 助かるぞ、使用人の君!」

「さっきから思ってたけど、使用人の君って……まあいいや。

 よし。それじゃあオラは城の東側を探すから、そっちには西側をお願いするべ」

「了解!」

「見つかっても見つからなくても、一時間後に中庭に集合だ!」

「合点承知の助!」

 腹黒い(推定)くせにノリのいい奴だ、と思うサクラ。……ちょっと、試してみよう。

「ヤンボー!」

 突然諸手を挙げて叫んだサクラに、おっ、という風にリオンが唇の端を釣り上げた、

「マンボー!」

「てんきよーほー!」

「ふーたりあわせて」

「ヤンマーだー!」

「きーみとぼくとで」

「ヤンマーだー!」

 うわうわ、たーのーしーいっ! こいつ、たーのーしーいっ!

 笑顔キャラに対する偏見は流星の如く砕け散った。やべぇ、オラこいつと親友になれるかも。

「それでは、生きてまた会おう!」

「おおう! さらばだ、中二病!」

「うっせえべ!」

 無駄にかっこいいことを言ってみたいお年頃なんだよ!

 ちょっとだけ傷つきながらも、サクラは銀髪巻き毛を探すべく歩き出した。



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