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策士な王宮魔術師は撫でられたい  作者: コツメカワウソ


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 兄からのゴーが出たヒューは、物陰から飛び出すと一瞬で男達を拘束した。


「お、おい!なんだお前!」


 突然の事に男達が声を荒らげるが、ヒューはどこ吹く風だ。


「どうも~。《《ヤバい魔導騎士》》で~す」


「なっ!!」


 ヘラヘラと手を振りながらヒューは嬉々として男達を踏み付けている。

 煽り性能高めな弟を見て、ジョシュアは北方騎士団の苦労が偲ばれた。


「コイツ本当に人間か!?」


「うるせぇ!」


 口々に騒いでいるが、ヒューは涼しい顔だ。

 ジョシュアは父に魔法紙を飛ばすと男達の前に姿を現した。


「誰だお前は!」


 先程アリスを売り飛ばせばいいと言っていた男が叫ぶ。


「《《ヤバい魔導騎士》》の保護者です」


「え~保護者って何?俺成人してるけど」


 ヒューが不満そうだがとりあえず無視しておくこととする。


「保護者だったらコイツを何とかしろよ!」


「無理ですね。何とか出来るものならとっくにしています」


「え?ジョシュアひどくない?」


「ヒューうるさい。あなたの所の王家は危険性をちゃんと分かっているようですがね。さて、あなた達の目的を吐いてもらいましょうか」


「目的?たまたまここにいただけだよ」


 捕まっているにも関わらずニヤニヤと笑いながら答える男を見て、ジョシュアはブワっと魔力が漏れるのを感じる。


「そうか。ヒュー、やっていいよ。でも殺したら父さんに怒られるからな」


「オッケー!」


 そう言うとヒューは大きな水の塊と炎を同時に出した。


「ねぇ、どっちがいい?どっちも苦しいよ」


 コテンと首を傾げて子供のように笑う。


「ニ属性!?ば、化け物!」


「そうだよ。俺は、いや俺達はまごうことなき化け物だ」


 ニィっと口を横に広げてヒューは言う。


「両方だと爆発しちゃうから一つずつにしようか。それとも氷にする?」


 一人には顔に水の塊をぶつけ、もう一人には炎を当てて焦がしていく。

 ニヤニヤと笑っていた男もそんな仲間の様子を見て恐怖で顔が引き攣った。


「ああ、お前はイグニス家の娘を売ろうとしてたんだっけ?」


 男の両手両足をじわじわと凍らせながら、ヒューは冷たく言い放つ。


「待て!俺達を殺したら何をしていたのか分からなくなるぞ!良いのか!?」


「大丈夫だよ。生きてさえいれば俺が治せるから。元気になったら今度は炎にする?」


 男に話しかけながらも、他の二人を死なない程度に痛めつけているヒューを見て、我が弟ながらえげつないと思う。

 まるで獲物をいたぶる残酷な獣だ。

 攻撃魔法だけでなく治癒魔法まで使いこなし、平気で三属性を維持出来る。

 一体ヒューの魔力はどうなっているのか。ジョシュア自身も圧倒的な魔力を持っているが、ヒューは別格だ。

 そしてヒューが言っていた“化け物”という言葉。

 幼い頃から圧倒的な魔力を持った二人が度々投げられていた言葉だ。


(僕もヒューも魔力回路の治癒によって作り出された化け物だ…)


 ヒューの戦う姿を見たら、大抵の人間は戦意を喪失するだろう。

 現にフードの男達は繰り返される痛みと死の恐怖でガタガタと震えている。

 それでもヒューは攻撃の手を緩めない。

 アリスを売ると聞いて思わずジョシュアの魔力が漏れた時、イグニス家の娘が兄の想い人であると気づいたのだろう。

 やり方は残酷だがヒューはジョシュアにとって兄想いの可愛い弟だ。


「ヒュー、弱らせたままで。もうすぐ父さんも来るから」


「そうなの?俺まだ出来るけど」


 三人とも痛みでぐったりしている。

 ジョシュアは手足を凍らされたままの男に近づいた。


「そろそろ話す気になりましたか?」


「話す!話すから!」


 話が終わる前に気を失っても困る。

 ジョシュアは少しだけ男に治癒をかけた。


「デメル人がここで何を?」


「こ、この山にはドラゴンが居るんだ!ソイツを捕えてローウェンを襲わせようとしたんだよ!」


「なぜ今になってそんな事を。デメルとは友好を結んでいるでしょう?」


「デメル王家はローウェンに対して消極的だ!お前らみたいな化け物がいるからな!でもカーティス公爵はそれを良く思っていない!」


(デメルは一枚岩というわけではないのか…)


 少なくとも、王家としてローウェン王国に攻め入るつもりはないのだろう。しかし筆頭公爵家はそれをよく思っていない。


「一昨年の水害もお前達が?」


「ああ、そうだよ!ドラゴンを捕まえようとしたら暴れ出して、急に大雨を降らせて川が氾濫した!あいつは水龍だ!」


「そうか…」


 やはりイグニス領の水害は人災だったのか。

 エリオットの言った通りだ。人災であれば先見は出ないと。


「元イグニス男爵令嬢を狙った理由は?」


「テール山にドラゴンがいるっていうのはずっと言われていたんだ!自分の領の事だから、操る方法か何か知ってるはずだろう!?でも北方騎士団の目が厳しいから家族を連れ去ることは出来ないからな。娘が何か知っていれば吐かせればいいし、知らなければどっかにー」


「どこかに売り飛ばせばいい、と?」


 自分でも驚くほど冷たい声が出た。

 そんな事のためにアリスを連れ去ろうなど、出来るならばこの場で殺してしまいたいとジョシュアは思う。

 それと同時にジョシュアの体から冷気が溢れる。


「あ…あぁ…」


「そうか」


 自分はもう、この男達に聞く事は無い。


「ジョシュア、コイツら王都に連れて行く?」


「待て。父さんが来てから決めるから」


「ジョシュア…聞いた事があるぞ…もう一人の北の英雄の息子か…」


 二人の会話を聞いていた男が、声を震わせた。


「そうですよ。ヒューは僕の名前を何度も言っていましたよ。敵の情報にすぐに気づけないのは致命的ですね。まぁ、僕達二人に目をつけられた時点であなた達に勝ち目はありません」


 ジョシュアはそう言って三人の男達を眠らせた。

 逃げる事は出来ないだろうが、暴れようとされても面倒だ。


 静かになった洞窟に、ジョシュアのため息だけが響く。


「ねぇ、元イグニス男爵令嬢ってジョシュアの恋人?」


「…友人」


「ふ~ん」


 そう言ってヒューは地面に座り込む。


「好きなら好きって言わないと、逃げられちゃうよ?」


「…僕は嫌われているから、多分」


 想いを伝えるような事は憚られた。

 どう考えてもアリスは、ジョシュアに対して一線を引いている。

 無理矢理防御魔法をかけたことだって、断りきれなかっただけだろう。


「好きになってもらえるように頑張ればいいのに」


 俺みたいに、と言ってヒューは笑う。

 執念で初恋を実らせた弟の言葉は重い。


「彼女が元気で暮らしていけるなら、それで良いかなって。それに僕も、今の関係が心地良いんだ」


 嘘だ。

 本当はアリスの事が知りたくてたまらない。

 いつもかけている眼鏡を外した素顔を見たい。

 笑うと深くなる片方の笑窪に触れてみたい。

 出来るなら、小さな彼女の体を抱きしめたい。


「彼女が安心して暮らすためにも全ての不安要素を取り除きたい。ここにはドラゴンが居るらしいから、僕はそっちを見てくるよ」


「…分かった。父さんが来るまで俺がコイツらを見てるね」


「頼んだぞ、ヒュー」


 ヒューに告げると、ジョシュアは一人洞窟の奥へ向かって歩き出した。





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