幼馴染の伯爵令息が仕組んだ甘すぎる雨宿り
春風が心地よい昼下がり、私は花が咲く街の通りを急いでいた。
「困ります! 今、仕事中で……!」
「いいだろ減るもんじゃなし」
「困った顔も可愛いね」
さっきから男二人に絡まれて、身動きが取りづらい。
今日は働いている店のオレンジを、常連のおばあさんの家に届ける日。
「いい加減にして!」
「あ、美味そうなオレンジ! 一個ちょーだい」
男の一人が、抱えたカゴのオレンジに手を伸ばす。
だめ!!
叫びかけた時、男の腕を誰かが掴んだ。
(エミリオ!)
そこに立っていたのは、幼馴染の青年。
「よろしければ、ナンパの極意を教えてさしあげますよ?」
彼は静かなのに有無を言わせない声で言った。
「だ、誰だ!」
「突然名前を尋ねるのもいけてない」
形の良い顔で爽やかに微笑むエミリオ。
彼は私の手を取ると、男達から軽やかな仕草で引き離した。
「エスコートはスマートに。デートに誘いたいなら、女性が嫌がることはしないこと」
「邪魔する気か」
「ご明察」
くくっ、とエミリオは笑う。
「貴方達がこの子に惹かれる気持ちは分かりますけど。ああ、嵐が来ますね」
エミリオが鋭く空を見上げた。
ゴロゴロ、という音がする。
「今すぐ帰った方がよろしいかと」
ザァ!!
一気に降り出した雨に、男達は悲鳴をあげて走り去る。
私は焦って、エミリオと近くの家の軒下に入った。
水魔法はエミリオの一族の専売特許だ。
「降らせるなら『今から降らせる』って言ってよ!」
思わず叫ぶ。
横殴りの雨に、通りを歩いていた人々が散り散りに去っていった。
誰もいなくなった通り。
「もっと普通の雨じゃダメだった?」
不満を言う私が抱えたカゴにふと目を遣り、エミリオは口を開いた。
「ハダニって知ってる?」
「……突然何?」
「柑橘類に付く小さな虫。ダニと言ってもクモの仲間で、放っておくと最悪植物を枯らす」
「そ、それで?」
エミリオの話の意図が掴めない。
「ハダニを追い払うのに必要なのは、嵐のように激しい雨と風」
エミリオは私を覗き込んで言うと、さりげなく唇を重ねてきた。
しまった。綺麗な瞳に見惚れていた。
「エミリオ!」
「セレナ、早く僕のプロポーズを受け入れて。君には虫が沢山寄ってくるから、僕も気が気じゃない」
「私は柑橘類ですか」
エミリオは私の頬を撫でた。
彼の熱を伝えてくる長い指先。
ふ、と彼が微笑む。
「僕の嵐で君を守らせて」
降り注ぐ雷雨の中、軒下に2人きり。
再び彼の唇が近付く気配に、私は躊躇いながら瞳を閉じた。
お読みいただき、ありがとうございました!
先日、3年育てた柚子がハダニによって枯れました。ゲリラ豪雨や台風が多い九州や四国などで元気に実る柑橘類に思いを馳せました。いえ私の管理が悪かっただけだと思いますが…
字数に制限があり、泣く泣く色んなものを削ってしまったのですが、少しでも楽しんでいただけましたら、ブックマークや☆での評価をいただけますと嬉しいです!
こちらの作品は『導きましょう、死の運命から幼馴染を救う婚約破棄を〜転生した庭師、気まぐれに伯爵様を籠絡してみました〜』の番外編にあたる物語です。
エミリオの両親の物語になります。
エミリオの性格や能力の理由が分かるかも?な作品です。読んでみてもいいよ〜、と言う方がいらっしゃいましたら、是非シリーズから飛んで、お楽しみください。




