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第四話 初めての快楽と嘘の味

『乾杯ー!』


 夜の一樹の部屋にて。

 リビングのテーブルを囲う座布団に隣り合って座った一樹と美月は二人で酒缶を合わせた。


 それも二人ともレモン味のストロング缶、アルコール度数の高いビールである。


 しかし気にせずに二人はそれを一気に口の中に流し込む。


「ぷはー、スト缶やっぱり一気にいけちゃうなー」

「そうだな。けど、度数高いから怖い」

「ふふ、たしかに。すぐ酔っちゃうかも」


 美月は一樹の顔を見ながら魅惑的ない微笑みを見せた。

 そんな何気ない動作に一樹は男心を刺激されると同時に、嬉しさも感じる。


 こうしてかつての幼馴染と飲むのは楽しい。

 もし一人で飲んでいたら、今頃虚しくなっていただろう。


「そういえば一樹って、お酒強い方なの?」

「普通よりちょっと強いくらいじゃないか? まあ、まだ酔い潰れたこととかないし」

「そっか。じゃあ今日はどっちが先に酔い潰れるか勝負する?」

「遠慮しとく。そう言う美月は強いのか?」

「んー、私もまだ酔い潰れたことないから分かんないや……でも、今日はなんかすぐ酔いそうだな。もし私が酔い潰れても、襲わないでよ?」


 美月は一樹をからかうようにそんなことを言う。

 しかしそこに真面目な雰囲気はなくて、一樹のことを警戒すらしていないようにも感じる。


 一樹は苦笑いしながら、言葉を返す。


「襲うわけないだろ。久々に会った幼馴染なんだし、ゆっくり話したい」

「それは……私に魅力がないってこと?」

 

 美月のそんな言葉に釣られて一樹は一瞬だけ視線を下に向ける。

 

 ぶかぶかのシャツを着ているにも関わらず、胸のラインはわかりやすい。

 そして少し前に屈んだだけで、その中は見えそうになる。


 ブラジャーなどのインナーを着ていないが、その中は透けていそうで透けていない。

 けれど時折見える美月の肌色は刺激的としか言いようがなかった。


 一樹はすぐに視線を戻したつもりだった。

 しかし視線を戻すと美月がニヤニヤとしていた。


「……今、一瞬見たでしょ。一樹もやっぱり男の子なんだね」

 

 どうやらまた一樹をからかったつもりらしかった。

 視線の動きを見られていたのである。


 一樹はそんなやり取りに思わず笑ってしまう。

 昔のことを思い出したからだ。


 当時もよく美月がからかって一樹がそれに引っかかっていた。


「昔もこうやってからかってきたよな。変わってない」

「だってからかうと面白い反応するんだもん。一樹も今でも変わってないよ」


 けれど当時と違う点はある。

 それはからかいに性的な刺激が増していることである。


 お互い幼かったのでそういうからかいはなかったが、今は違う。

 少し過激だし、軽率だ。


 最初から警戒心がないなとは思っていたが、他の男にもこう言うことをして、もしかしたら……。

 そう思うと初恋相手だし、幼馴染としても複雑だ。


 二十歳を超えているし、そう言うことを経験していても別におかしくはないのだが、心境は複雑である。


「でも、男子と二人きりなのに無防備すぎないか?」

「幼馴染なんだし、いいじゃん。それに襲わないんでしょ? ……私は別に何されてもいいけど」


 可愛い女の子に二人きりの状況でこんなことを言われても一樹のあそこは反応しない。

 まず、童貞なので襲う勇気もない。


 それを薄らわかっているのか、美月もからかいを続けている。

 男として見られていないのだろうか。


 そういえば、元カノに浮気されたのもそれが原因だった気がする。


『ごめん、男として見れないから。もう私も浮気してるし、別れよ』


 美月がからかっているのも男として見られていないからなのかもしれない。


 そう思って、一樹はハッとする。

 元カノのことを忘れるはずが思い出してしまっているではないか。

 

 このまま美月にからかわれ続けるのも癪なので、一樹は話題を変える。


「とりあえず食べないか? コンビニで買ってきたやつ」

「……うん、そうだね。電子レンジあるなら借りていい?」

「ああ、大丈夫。俺やってくるから」


 それから、二人で飲みながらコンビニ飯も食べて、一時間ほどが経過した。

 ちょうど酔いも回ってくる頃で、一樹は体が熱くなっていることを自覚しつつも、スト缶をまた一本開ける。


 一方で美月はお酒が強いのか少し頬が赤くなっている程度だった。


「今はそれであそこの大学通ってるんだよね。すごいじゃん。勉強頑張ったんだ」

「ああ、華のある大学生活を期待してちょっと頑張ったんだけど……意外に華も何もないな」


 昔話をしつつ、今の話もする。

 お互いのそれからを語り合うのは面白いし、だからビールにまた手が伸びる。


 しかし美月はというとあまり自分の話をしようとしなかった。


「美月は? 転校した後、どうしてたんだ?」

「私は……あ、あっちで高校は卒業して、い、今は女子大通ってる」

「転校先ってここの近くだっけ」

「う、ううん、大学入るからって今は私も一人で暮らしてるから……そ、それよりさ、一樹の恋愛とかどうなの? 教えてよ」


 美月に話を聞いてもはぐらかされる。

 そして一瞬だけ顔を暗くするのだ。


 それが気になりつつも、酔いが回っていたのもあって、一樹はあまり深く詮索はしないことにした。


 しかしその結果、話題が忘れたかった恋愛の話になってしまう。


「……恋愛、なあ」


 一樹はため息をつくと、開けたスト缶を一気に喉に流し込んだ。


 それを見た美月は心配そうな表情で一樹を見る。


「い、一気にそんなに飲んで大丈夫?」

「……すまん、酔わないとやってられないっていうか」

「ふふ、どうしたの? もしかして最近失恋でもした?」

「最近っていうか、半年前に失恋したから……恋愛のことは結構引きずってる」

「あ……そっか、ごめん。お詫びじゃないけど、私でよかったら、愚痴でもなんでも話聞こっか?」


 元カノのことを思い出して落ち込んだ気分を上げるために、今日は飲むつもりだった。

 しかし飲めば飲むほど反対に過去の傷が抉られていく。


 美月に愚痴って、スッキリできるならしたい。

 ただただ過去のことを忘れたい。


 そうして酔いでふらふらとしている頭を押さえながら、一樹は美月に語る。

 

 大学に入って初めて彼女ができたこと、けれどその彼女に浮気されたこと。

 

 美月は話を遮らずに話を聞くだけだった。

 でも一樹にとってはそれがありがたかった。


「浮気された挙句に、振られた側だし。だから大学生活はまだいいことないな」

「……そっか」


 やがて一樹は全てを話し終える。


 そこで美月が気まずそうな表情で一樹を見ていて、空気が重くなっていたことに気づく。

 少し愚痴りすぎたかもしれない。


「振られたときに男らしくないって言われてな。実際に浮気されてからEDになったし、男らしくないよな」


 一樹は自分のことを笑いながらそう言う。

 

 しかし美月はまっすぐな目で言った。


「……ううん、会って思ったけど、一樹はだいぶ男らしくなってるよ?」


 励ますためのお世辞であることはわかっている。

 

 けれど美月の顔は真剣で、その言葉は嘘でも嬉しかった。


「で、でも、EDで童貞だし、男らしいわけないだろ」

「ふふ、童貞なの?」

「……悪いかよ」

「ごめんごめん、別にばかにしてるとかじゃなくて、勘違いしてたから笑っただけだよ」

「勘違い?」

「うん……ふふ、やっぱり昔から変わんないや」


 よくわからないが美月は先ほどから笑っている。

 

 とはいえ、たしかに一樹は昔と何も変わっていないと思っている。


「そうだな、変わんないかもな。何も考えずに生きてきたし」

「でも、かっこいいよ、一樹は」

「お世辞はいらないんだが……美月も俺を男として見てないだろ?」

「なんでそう思うの?」

「……さっきから無防備な体勢だし。自分の体使ってからかうのも男として見てないからだろ?」


 いくら真剣な表情をしても美月の言葉をどうしても信じられなかったのは、美月の態度である。

 一樹なら襲われないからからかっても大丈夫。

 

 事実だが、美月のそんな考えが垣間見える。


 けれどそんな一樹の推測は大きく外れることになった。


「ふふ、やっぱり何も変わってない。じゃあなんで私がこんなことしてると思ってるの?」


 美月はそう言うと一樹を押し倒す。


 柔らかい座布団と硬いカーペットの感触が背中から伝わってくる。

 視界が反転して、気づいたら美月が上に乗っている。


 一瞬の出来事に一樹は何が起こったのか理解できなかった。


 そして美月の顔が近づいたかと思うと、唇に柔らかい感触が伝わる。


 脳が理解する前に体は反応した。


「美月……?」

「……ふふ、ED治ったじゃん。じゃあこのまま童貞捨てちゃう?」


 美月はもう一度顔を近づけて、口付けしようとする。

 しかしその前に一樹は体を起き上がらせると、強引に唇を奪って今度は一樹が美月をそのまま押し倒した。


「い、今なら酔いの勢いで済む話だ……いい、のか?」

「うん、いいよ。電気……暗くして。もう何も考えないでいいから。私も、何も考えたくないから」


 一樹はリビングの電気を暗くする。


 そしてまた一樹は美月にキスをすると、今度は舌を入れる。

 一樹が下手な手前、美月の舌遣いはなぜか上手で、ただ、それを気にしないほど、一樹はただただ美月を求めた。


「ぷはっ、激しすぎっ。ちょっとキス下手だね」

「……うっせ、慣れてないんだ」

「ふふ、そっか。初めてだもんね」


 その発言から美月が経験豊富だと思った一樹は美月の首元にキスをする。

 目の前にいるのはかつての初恋の相手、それでも独占欲が湧いてしまったのだ。


 そんな身勝手も美月は静かに受け入れる。


「……美月は経験豊富そうだな」

「ううん……私も、初めてだから」

「そう、なのか?」

「……うん、だから、優しくしてね」


 美月はそう言うと一樹の首に腕を回す。

 そして美月は引っ張って自身の唇まで持っていくと、一樹の首元にキスをし返す。


「知ってる? 初体験って嫌でも忘れられないらしいよ? 一樹に全部あげるから……だから、全部一樹で満たして」


 その日の夜、一樹はEDを治して童貞を卒業した。

 お互いにお互いを求めて、お互いを満たしあった。


 その相手は初恋の幼馴染だった。


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