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久々に会った初恋の訳アリ幼馴染とワンナイトした  作者: テル


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第二十五話 友人との再会と不穏な噂

 お酒が飲める年齢、要するに大人になって、かつての同級生や友人と出会ったらすることは決まっていると思う。

 地元に帰省しているので余計にそれを考えないことはないわけだ。


 今回は時間がないので遠慮しようと思っていたが、ばったりと会ってしまえば仕方がないというもの。


 夜の居酒屋にて、一樹はかつての友人である翔とカウンター席に隣り合って座っていた。

 

「いやー、でも本当にまさか一樹とここで会えるなんてなー。死んだかと思ってたわ」

「勝手に殺すな……っていうか、こっちのセリフでもあるんだが」


 酒を飲んで、揚げ物を頬張りながら、二人で話をする。

 

 明日帰るのでそこまで飲まないつもりだが、何せ久しぶりの再会で翔と初めてのサシ飲みなのだ。

 気分が上がって、多く飲んでしまわないように気をつけないといけない。


 翔は中学一年生の頃に同じクラスで仲が良くなった。

 そこから六年間同じ学校で、三回も同じクラスになっているので大学生になってからも連絡は取り合っていた。

 けれど新生活に慣れれば連絡を取る頻度が減るのは当然のこと。

 

 そうして久しぶりの再会だというのに気まずさは一切ない。

 お互いにあまり変わっていないからなのか、それとも話している間だけ学生時代に戻っているからなのか。


 ともかく、死んだと思っていたなどと冗談を言い合うほど、楽しくて仕方がないわけだ。


「翔の最近の調子はどうなんだ? 父さんの仕事継いだんだっけ?」

「継いだっていうか、大工になるために修行中の身。そのうち継ぐことになるだろうけど、まだまだだなー」

「大工か……かっこいいな」

「そうか? まー、やりがいはあるかなー。それに親父に叱られる毎日だし、メンタルは鍛えられてるぞ」


 翔はニコッと笑って白い綺麗な歯を一樹に見せる。

 

 変わっていないところもあれば、当然変わっているところもある。


 翔は自分の夢があってそのために自分から努力をしにいっているらしい。

 そんな姿は廊下を叫びながら走り回っていた学生時代の翔からは考えられない。


「そっちはどう? 大学生活エンジョイしてるか?」

「ぼちぼちって感じだな。思ってた大学生活とは違ったけど、悪くはない」

「大学生活ってどんな感じ?」

「授業は高校よりも圧倒的に難しい。けど、自由時間が多いな。友達と飲みにいったり、バイトしたり」

「女の子連れ込んだり?」

「……してる人もいるんじゃないか?」


 女の子を連れ込んだことは事実なので、一樹は目を逸らしながらあたかも自分のことではないように言う。

 

 そんな一樹との会話に翔はクスッと笑う。


「いいなあ。楽しそうだなー」


 翔は前を見ながらもどこか遠くを見ている。

 そしてビールを一口飲むと、一樹を見てまた笑った。


「俺バカだからよ。受験勉強途中で折れて大工継いだから……かっけえな」


 そんな翔の言葉は今までかけられたことのない言葉だった。

 自分ではかっこいいつもりも頑張っているつもりもなくて、むしろ何も考えずに生きてきた。


 勉強もなんとなくで頑張った。


 むしろ夢や目標が決まっている翔の方がかっこいいと一樹は心の底から思っている。


「……一人前の大工を目指して頑張ってるお前の方がかっこいいけどな」

「お、照れること言ってくれるじゃねえか」


 翔はそう言うと持っていたジョッキを一樹のところまで持っていく。

 

 それに合わせて一樹もジョッキを持つと、もう一度杯を交わした。


「……俺、お前みたいに将来の夢とかないんだよな。大学生活、そんなに充実させてこなかったから」

「一樹は……あれ? 今何年生だったっけ?」

「三年生で、今年の四月から四年生だな。就職のこともそろそろ考えないといけないんだけど……どこで働きたいとかないんだよな」


 一樹は自分のこれまでの大学生活に対して笑いながら、密かに抱えていた悩みを打ち明ける。

 将来のビジョンが見えないから今かなり不安なのだ。


 翔はそんな一樹をまじまじと見ると、なぜか急に笑い出した。


「ぷっ、ふふ……あはは」

「……なんかおかしいこと言ったか?」

「いやー、悪い悪い。高校の時まで何も考えてなさそうな性格してたのに、急に色々考えるようになったんだな」

「俺だって成長する」


 一樹は少しだけムッとするが、翔は笑顔を崩さない。

 

 今まで何も考えなかった奴が急に考えるようになったら少し変かもしれない。

 そう思ったものの、一樹の数少ない自尊心が気持ちのモヤモヤを生む。


「まあ、でも、そこまで考えなくていいんじゃないか? 給料と職場環境のいいところでも探して、とりあえず就職しとけばいいだろ」


 一方で、翔はそう軽く言った。

 一樹が重いと思っていた物を軽く蹴り飛ばすような、そんな言葉は一樹をハッと目覚めさせる。


「……たしかに、やりたいこと云々は後回しでいいかもな」

「おう、やりたいことなんてそのうち見つかるから……ほら、とりあえずじゃんじゃん飲もうぜ」

「明日戻るから飲みすぎないようにしないといけないんだが」

「いいだろ。飲んじゃえ飲んじゃえ」


 新年から大きくなった将来への不安は翔の言葉によって今はパッと消え去る。

 酔いが回ってきたのもあって、余計にそんな不確かな未来のことはどうでも良くなる。


 久しぶりに会った友人とサシで飲みにいって、主にする話とはやはり昔話である。


「……それでさ、結局、普段何も考えてないお前はそんなことしてないだろうってなって謎に反省文免れたの覚えてるか?」

「ああ、授業中も休み時間も昼寝してたしな。返事はうっすだけ。今思うと舐めてるな……本当はあれの主犯格、俺だったのにな」

「懐かしっ。あれいつだっけ? 中一?」

「じゃないか? 怒られてる時、美月と目が合って気まずかったの覚えてるし」


 ふと、一樹は美月の名前を出す。

 頭の片隅にあった記憶をそのまま掘り出したのだが、言い終えてから美月のことを覚えているかと疑問に思う。


 翔と美月は別クラスのはずだ。


 しかし一樹が思っているよりも、美月の印象は強かったらしい。

 翔は分かりやすく美月という言葉に反応する。


「ああ! 懐かしい。かぐや姫じゃん。あの可愛かった子だろ?」

「中学は一年しかいなかったのに有名なんだな」

「そりゃあ、あの容姿は思春期中学生にとってはかなり刺激的だったからな。マジで高嶺の花って感じだったよなー」

「……今、何してるんだろうな」


 一樹はまるで美月の今を知らないかのようにそう呟く。


 また翔は軽く『知らね』とでも言って、昔話の続きでもするのだろう。

 そう思っていた。


 けれど、翔はその呟きを拾うと、なぜか複雑な表情を浮かべる。


「あー、お前知らない?」

「……な、何を?」

「あの人、今、グラビアやってるとかなんとか」


 翔が放ったその言葉は一度右耳から左耳を通り抜けて、また戻ってくる。

 言葉が何度も頭の中で跳ね返って、初めて理解できた。


 美月が、グラビア?


 一樹が理解できないでいると、そんな一樹を見て翔はフォローする。


「すまんすまん、噂だからあてにすんなよ。でも、本当なら興奮ものだよな。かぐや姫とか呼ばれてた人が自分の裸見せてるんだから」

「所詮は噂……だよな。流石にな。ち、ちなみに名前は?」

「月乃とかいう名前でやってた気がする。見てみるか?」


 一樹が頷くと、翔はスマホを開けて検索にかける。

 すると、一番に出てきたのが月乃に関する記事だった。


『活動休止中のグラビアアイドル月乃、枕営業か』


 そんな記事を見てどこからともなくやってくる不安と焦燥感に襲われる。

 早く美月に会いたい、けれど今は会えない。


 今帰らないとまた会えなくなってしまいそうで、何も知らないまま美月とお別れすることになりそうで。

 

 確かめたい。

 

 しかし今すぐにそんなことはできないから、深く息を吐いて一度気持ちを落ち着かせる。


「こういうの昔から多いからなー……あ、顔はこんな感じ。美月と似てるかと言われれば似てるけど……似てるか?」


 一樹はこの女性を見たことがあった。

 グラビアアイドルとしてもどこかで見たことがある。


 その時に気づかなかったのは多分、美月のことをまだ何も知らなかったからだ。

 美月と同居して、美月のいろんな顔を知った今だからわかる。

 

 一樹には画面の先の女性が美月にしか見えなかった。


「年齢とか、出身地とかは?」

「それが不明なんだよな……ま、これが本当に美月だったら普通に何回もお世話にならせてもらうけどな」


 翔の笑いながら放った下ネタは一樹の耳には届かなかった。


 当然、翔にとって、噂はただの冗談に過ぎない。

 しかし一樹はそれを冗談と受け止められるほどの余裕はなかった。


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