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久々に会った初恋の訳アリ幼馴染とワンナイトした  作者: テル


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第二十三話 正月の夜

 一樹の実家は今住んでいるアパートの最寄駅から電車で三時間くらいである。

 近いわけでもないがものすごく遠いかと言われればそうでもない。


 一樹の生まれ育った街は小田舎といった雰囲気だ。

 山に囲まれていて、自然豊か。

 けれど車で少し移動したところには並の街以上に賑わっているところがある。


 住むのにちょうどいい地域なのだ。


 一樹はわずか三時間の電車旅を終えると、思い出を思い出しながら家へと向かう。


 毎度帰るたびに、その道中で一樹は過去を振り返ってにやけていた。

 地元の友達の今を想像したり、まだ地元に残っている友達に会いたいな、などと考えたり。


 しかし今回の帰省では美月のことばかりを思い出していた。


 (……この公園でよく美月と遊んだよな)

 

 昔はずっと隣に美月がいた。

 そして今もそうなっている。


 だからなのか一樹の思考の半分は美月のことで埋め尽くされている。


 新年だから余計にその思考が加速していていた。

 これからどうしようと考えるばかりなのである。


 あと少しすれば大学三年生も終わり。

 将来のことをそろそろ考えて就職活動に忙しくなる。

 でも何をするかなどは決まっていなくて、だから不安になる。


 美月との生活もずっとは続くわけではない。

 それまでに一樹は美月のことを知って、しっかりと自分の思いを伝えられるようになるのだろうか。


 今、思いを伝えるのは怖いのだ。

 振られたとして関係が壊れるのも怖い。

 成功しても浮かれてあの日のように何も知らないまま酒と性に支配されて美月をまた悲しませるかもしれない。

 

 今のままの関係が一樹にとってちょうどいいのだ。


 もし進めたいのなら、美月のことをもっと知らなければならない。


 そんな考え事をしているうちにもう実家の前だった。

 今まで遠く感じていた道だがボケーっと歩いていたからだったのかもしれない。


 一樹の家は住宅街から少しだけ離れて、家が数軒だけ建っているような場所に位置している。

 標高の高い場所なので、家の前からでも一樹が歩いてきた道を見ることができる。


 左隣は空き地になっていて、右隣が木造建築の古い家。

 その間に位置するのがシンプルで白い外装の一階建ての家である。


 車を止める車庫があって、庭は十分広くある。

 家の周りには母の趣味である綺麗な花が植えられている。

 何の花かは知らないが、白い冬の花が凍り切った空気の中で懸命に咲いていた。


 一樹が庭に足を踏み入れて、扉の前まで歩いていく。

 すると一樹がインターホンを押す前に家のドアが開いた。


「おかえり、一樹。久しぶりね」


 家の中から現れたのは半年ぶりくらいに会った母だった。

 普通の中年女性という雰囲気は特に変わっていない。


「久しぶり、ただいま。あとあけましておめでとう」

「あら、そういえば新年だったわね。あけましておめでとう……寒かったでしょう。ほら、中に早く入って」


 半年ぶりに会う母の姿も約一年ぶりに帰る実家も何ら変わっていなかった。

 けれどなぜだろう。


 一樹は何となくの違和感を覚えている自分に気がついた。


 ***


 一樹がかつて使っていた部屋は高校時代、もっといえば中学時代から変わらない。


 正月の夜にそんな部屋で一人、食事もお風呂もすべきことを全てを終えた一樹はスマホをいじっていた。

 

 午前は三時間移動で午後からは親戚みんなでの初詣に強制参加、そして外出先での夜ご飯。


 正月にもかかわらずハードなスケジュールだった。


 けれどそこでたまった疲れも美月と電話している今は不思議と感じない。


『どう? 久しぶりの地元は?』

「地元を楽しむ間もないくらいに疲れたな」

『あはは。お疲れさま……私も久々に帰ってみたいな』

「一緒に来ればよかったのに」

『ううん、流石に部外者の私が行くのは迷惑だしね』


 迷惑だと感じるなら、部外者ではなくなればいいのか。

 そんな思考が頭に浮かんだが、すぐに頭の中から消す。


 こうして美月と話しているとき、たまにそういった関係になった未来を想像してしまう。

 とはいえ、美月には失礼だと思うから想像しても当然すぐにやめる。


「……なあ、美月」

『どうしたの?』


 今年は美月に思いを伝えられるだろうか。

 

 初恋の時も伝えられなかったこの思いを。


「……帰ったら初詣行かないか?」


 一樹は美月にそう提案する。

 デートのお誘いのようで、一樹は若干の緊張があった。


 しかし電話からはなぜか美月の笑い声が聞こえた。


『ふふ……いいよ』

「な、なんか変だったか?」

『ううん、私も誘おうかなって思ったから……誘ってくれて嬉しい』


 美月のそんな言葉に安心すると共に、気分が高揚する。

 

 今だけは一人であることを忘れられる。


『……ねえ、一樹』

「どうした?」

『家の中一人だと広すぎて、いつまでも慣れないや』


 美月はそう笑いながら言った。

 けれど胸が痛んだ。


 一人であることを忘れられても、周りを見渡せば一人。

 そしてそれは美月も同じ。


 一樹は美月が一樹の家のソファに座ってリビングで一人電話している姿を想像してみる。

 するとまた胸が痛んだ。


 けれど多分それは共感したと言うよりも、いつまでも美月の隣に立つことができなかった未来の自分を想像したせいなのかもしれない。


 だからこうして話す時間は、美月が今、隣にいるという錯覚を感じさせるから好きなのだ。

 しかし楽しい時間はいつまでも続かない


『じゃあ、一樹。私そろそろお風呂入って、寝るね』

「ああ……おやすみ」

『おやすみ。景色の写真とかまた送ってね……帰り待ってるから』

「……わかった。お土産も買ってくるから、楽しみに待っててくれ」


 そうして美月との電話は終わった。

 電話時間は一時間くらいだった。


 長いようで短い。


 狭い部屋に再び静寂が訪れたことで寂しさが増す。

 一樹は壁にもたれかかると、ため息をついた。


 感じていなかった疲れも一気に押し寄せてくる。


 眠くはないが何もする気も起きないので寝ようかと迷っていた時だった。

 ぼーっと前を眺めていた一樹の目線の先には『おもいで』という見出しが書かれたアルバムが本とともに棚に並んでいた。

 その存在に一樹が気づくと、立ち上がって何となくそれを手に取ってみる。


 開いてみれば、美月と一樹が二人写った写真が何枚もオシャレに貼り付けられていた。

 ペラペラとめくっていくと、それは数ページ続いていた。


「……ああ、そういえば美月とこんなアルバム作ったな」


 写真はほとんど母が撮ったもので、小学校の頃に美月と作ったのだ。

 

 二人で砂遊びをしている写真、プールで遊んでいる写真、ケーキを食べて口の周りが二人ともクリームだらけになっている変な写真。


 さまざまな写真があって、それを見るたびに忘れていた思い出が蘇ってくる。

 思っていたよりも一樹は美月と仲が良かったらしい。

 そして思い出がたくさんあった。


 アルバムのほとんどは小学校の写真だった。

 中学生になってからは遊ぶ機会がほとんどなくて、疎遠状態になっていたので当然である。


 そして最後のページに一枚だけ貼られた写真は他のものとは一つだけ異なっていた。

 いつ貼り付けたのか忘れたが、一樹が勝手に貼ったものだった。


 美月はこの写真のことを知らない。


 それは浴衣姿の美月が頬を赤ながら一人で神社の鳥居の前で立っている、そんな写真だった。

 

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