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久々に会った初恋の訳アリ幼馴染とワンナイトした  作者: テル


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第十九話 過去の記憶

『メリークリスマス〜……ってことで、クリスマスプレゼントあげるっ!』


 何年生かまでは覚えていないが、ある小学生の時のクリスマスの日だった。

 まだプレゼントをあげられる側だと思っていた一樹はその日、初めて誰かにあげたいと思った。


 美月から初めてプレゼントをもらったのだ。

 

 今までお互いに仲は良かったが、プレゼントを送り合うことをしてこなかった。

 それはプレゼントは親からもらうものだと思っていたから。


 けれど大切な人からプレゼントをもらうことの嬉しさを初めて知った。


『プレゼント……?』

『そう、私から一樹への。開けてみてよ』

『……え、これ、すごっ! どうやって作ったの?』


 今でも覚えている。

 美月からの初めてのプレゼントは手縫いのハンカチだった。


 ピンク色でうさぎの柄が入った可愛らしいものだった。

 

 男子が使うには少々恥ずかしい。

 そんな風に周り気にする時期だったにも関わらずに、そのハンカチだけは毎日のように使ったのを覚えている。

 今でも実家に行けば大事に保管されている。


『かていか? の先生に教えてもらって一緒に作ったんだ。すごいでしょ』

『うん、すごい! ありがと』

『えへへ……喜んでもらって良かった』


 美月はそう言って嬉しそうに笑う。

 そんな美月の指にはいくつか絆創膏が巻かれていた。


 自分のことを思いながら、傷を負ってまでプレゼントを作ってくれたのだろう。

 そう思って、その事実もまた嬉しくて、その時の美月の様子は記憶に残っている。


 次の年から一樹も記念日には何かとプレゼントをあげるようになった。

 誕生日、クリスマス、バレンタインも。


 お互いにプレゼントを渡し合って、その度に嬉しかった。


 でもそれは美月だから嬉しかった。

 一樹が思っているよりもずっとずっと、過去の一樹にとって美月は誰にも変えられない大切な存在だった。

 

 ***


 朝、数秒後には忘れてしまう心地よい夢を見ていた一樹は頬の違和感で目が覚める。

 頬が誰かによって引っ張られ、突かれ、揺さぶられる感触が伝わってくるのだ。


 そんな違和感に一樹は目を開ける。


 すると視界に入ったのは寝ている一樹の横に座って、一樹を見下ろしている美月の顔だった。


「あ、起きた。おはよ」


 美月はそう言ってニコッと笑う。

 可愛らしい笑顔を朝イチで見るのは一樹にとっては刺激が強い。


 一樹が起きたことで頬いじりを止めるかと思ったが、美月は一樹の方を見たまま頬をいじり続ける。


 赤子扱いされているようでなんとも言えない感情を覚えた一樹は頬をいじる美月の手を掴む。


「……おはよう。何してるんだ?」

「起こしに来たんだけど、頬っぺた意外にぷにぷにだなって思って……私のも触ってみる?」

 

 美月はニヤニヤとしながら自分の頬を指差す。


 普段なら遠慮しているであろう一樹だが寝ぼけた頭で体を起こすと、美月の左頬に左手を伸ばす。

 そして頬に触れると、優しく引っ張ったり、揺らしたりしてみる。


 美月の頬は口の中で溶けるプリンくらいには柔らかい。

 触り甲斐がある。


「……触るんだ」

「わ、悪い、まだ寝ぼけてるのかもな」


 美月が驚いた様子でいたので、一樹は手を引っ込めようとする。

 しかし美月はそんな一樹の手首を掴んで、それを止めると、自身も一樹の頬に手を伸ばす。


 そしてお互いがお互いの頬を引っ張り合うと言う変な状況になった。


 美月が一樹の頬を伸ばすので、一樹も美月の頬を伸ばす。

 お互いに変な顔になって、二人で吹き出した。


「何やってんだろ、私たち」

「今日はイブだし、テンション高くなってるのかもな」

「あはは、そうかもね」


 今日はクリスマスイブである。


『……クリスマスは一緒に過ごさない? 二人でちょっとしたパーティでもしてさ』


 そんな美月の提案があって、今日にミニパーティをすることになった。

 必要なものをお互いに買って、夜にピザでもチキンでも頼んで一緒に過ごすのだ。


 しかし一樹は今日まで大学がある。


「……十時か」

「昨日友達と夜遅くまで飲んでたし……まだ起こさないほうが良かった?」

「いや、ありがとう。そろそろ行かないとだからな」


 一樹が起き上がると、美月は一樹の部屋から出ようと背を向ける。

 しかし何かを思い出したように振り返ると、一樹に言う。


「今日楽しみだね。授業頑張って」


 美月はニコッと笑った。


 その笑顔は再会した時の笑顔よりもずっと柔らかくて、自然な可愛らしい笑顔だった。


 美月と同居するようになってから一ヶ月が経った。

 まだ一樹は美月のことを何も知らない。

 苦しみ逃げた先の酒と性に包まれて、美月を傷つけた後悔もある。


 でも、もし目の前の笑顔が本物なら。


『メリークリスマス〜……ってことで、クリスマスプレゼントあげるっ!』


 ふと、一樹はそんな過去のワンシーンを突然思い出す。

 ずっと前のことだけれど、鮮明に思い出に残っているのは大切な人から始めてくれたプレゼントだったから。


 十数年経った今、一樹がプレゼントをあげたら美月は喜んでくれるだろうか。

 

 あの時、一樹は心の底から嬉しかった。


 クリスマスプレゼント、買わないとな。


 目の前の笑顔を見て、一樹はそう思った。

 

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