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久々に会った初恋の訳アリ幼馴染とワンナイトした  作者: テル


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小鈴視点 初恋の終わり

 藤木 小鈴。

 苗字の語呂と漢字の画数が縁起の良いものだったからこの名前にしたらしい。

 考案者は父だそう。


 そんな名前を授かって生まれてきた私だけれど、名前に小さいがつく通り昔から小心者だった。

 人見知りで、人と会うのは怖かったし、まずまず外に出るのが怖かった。


 幼少期はずっと家の中で遊んでいて、友達なんていなかった。

 それに加えてドジだし、あんまり頭は良くなかったし、良いところより悪いところの方が多いと思う。

 

 高校卒業までそれは変わらなかった。

 人見知りはマシになっていたけれどキラキラとした学生生活とは程遠かった。


 友達は学年に一人、二人くらいで、クラスメイトにも名前は覚えられていないくらい。

 自由席の時はいつも気まずかった。


 そんな陰キャライフを送っていた私だがキラキラとした学校生活には憧れがあった。

 クラスの端っこから見るいつも笑顔の人たちに私は惹かれていた。


 素で人生を楽しめるような人になりたいな。


 大学に合格してからその思いは一気に強くなった。

 そして憧れは決意に変わって大学デビューするぞと入学前から色々と頑張った。


 無頓着なファッションの勉強をしたり、人間関係に関する本を読んだり。

 

 私のそんな努力は大学に入学して結ばれることになった。


「小鈴ー、講義終わったら一緒にこのカフェ行かないー?」

「いいね、それ私も行きたかったやつ! 行こいこ」


 身なりと話し方を意識して、自分からも積極的に話に行った。

 大学デビューを頑張っている風にも見られたくなくてあくまでも自然に。


 幸いにも私の高校時代を知っている人もいなかったので自由に陽キャを演じられた。


 そうしていると友人たくさんできて、遊びにも誘われるくらいになった。


「小鈴、合コン参加しない? かっこいい子いっぱいいるよ」


 ついには合コンにも参加するようになった。

 そこで男遊びというものを知った。


 私は男の人たちから見ると容姿がいい方らしく、合コンに行けば注目を浴びた。


「小鈴ちゃん、可愛いよね。今度二人で遊びに行かない?」


「やっほー、小鈴。もしかして授業終わり? ご飯とかどう?」


「小鈴のこと結構前から好きでさ。だから、付き合ってください」


「めっちゃタイプで、前から可愛いって思ってたから、俺と付き合わね? どう?」


 そうして合コンに行き始めた頃に男子たちとの関わりが増えた。

 頻繁に告白されるようになって、その度に私は今までの私とは違う、そんな誇りが持てた。


 私に取り巻く男性が多ければ多いほど、友達が多ければ多いほど箔がつく。

 

 最初は友達が欲しくて、コンプレックスを治したくて大学デビューをしたけれど、気づけば承認欲求に変わっていた。


 特に男の人といるとき、私は承認欲求含めた欲を全部満たせた。

 男の人はチョロい。

 私が可愛いってだけで少し気を見せれば堕ちるし、いつも優遇してくれた。


 そんな考えになり始めた頃から、彼氏は月一で取っ替え。


「別に好きな人ができたからさ、ごめん別れよ」


 今では思う。

 私は本当の恋を知らなかったのだ。

 彼氏は今まで自分の欲求を満たすための道具でしかなくて、その欲求の中に恋から生じたものは一つもなかった。


 けれど私は最近になって本当の好きを知った。


 バイト先の先輩に私は恋をした。

 多分、それが初恋だと思う。


 その頃、私はバイト先でミスばかりしていた。

 皿を落としたり、挙げ句の果てには落とした皿で怪我をしたり。


 鍛えたコミュ力で嫌われないように努力したけれど、ドジで不器用だった過去の自分を思い出すからバイトが嫌になっていた。

 それに周りのみんなが優しいから自分の汚さも浮き彫りになった。


 小遣い稼ぎに来ただけだから迷惑をかける前にもうやめよう。


 周りの優しさに当てられた私はそう思って、落ち込んでいた。


 そんな時期に私は初めて先輩と話した。


「指大丈夫か? 必要だったら手当てするけど」


 第一印象は優しくて頼れる異性の先輩。


 口調も本気で私を心配していて、そこに性欲は一切なかった。

 後から聞いた話、当時の先輩には彼女がいたからそんな目で私を見なかったのかもしれない。


 そして先輩は優しくするだけじゃなくて、励ましてくれた。


「ミスなんていくらでもしたらいいだろ。俺も良くするし、皿割ったくらいで誰も怒らない」


 過去の私を肯定してくれているみたいで嬉しかった。


 私はそこから先輩と仲良くするようになって、そして、気づけば好きになっていた。

 きっかけは知らない。

  

 先輩の優しさ含めた先輩自身に私は少しずつ惹かれていった。


 私が自分の恋に気づいたのは九月くらい。

 先輩ともっと一緒にいたいな。

 そう思い始めて、先輩のことを考えると胸のドキドキが止まらなかった。


「……先輩、夜遅くて怖いので駅まで送ってってもらえませんか?」


 私は何回も先輩の優しさに漬け込んだ。

 先輩が私と接する時間を増やそうとした。


 ……本当はもっと私が一緒にいたかった。

 

 思わせなぶりな言動も取って、先輩を堕とそうとした。


 ……本当は自分の恋に気づいてほしかっただけ。


 けれど先輩のガードは堅かった。


 だから勇気を振り絞って、デートに誘った。


『今度、私とデートしてくれませんか? ……その、二人で』


 そうしたら先輩はずっとずっと複雑そうな表情をしていた。

 もう無理かなって思った。


 それでも諦めたくなくて、もっと一緒にいたくて、諦めずにアタックし続けた。


 ただ、先輩には別に好きな人がいるみたい。


 先輩は優しいからこそ振る時まで言ってくれなかったけれど、私は振られる前から負け戦だってわかっていた。

 バイト終わり、最近の先輩はスマホのメッセージを打ち込んでいる時、すごく楽しそうな顔をしている。 


 一樹さんを恋に落とした画面の向こうの女の人はどんな人なんだろう。


 けど、きっと先輩が恋するくらいだから私より素敵な女性で、なら私は引かなきゃダメだよね。


 私が男遊びしてなかったら、先輩は信用してくれたのかな。

 恋する時期が違ったら、私を選んでくれたのかな。


 先輩は私にいろんなことを教えてくれた。

 

「……クリぼっち、か」


 クリスマスの日、私は映画を見ながら家で一人ジャンクフードを頬張っていた。

 まだ、失恋の痛みは消えない。


「……友達に誘われてたクリスマスパーティ、行けばよかったかな」


 しかしどちらにせよ虚しいことに気づいて、私はそんな後悔を捨てる。


 今頃、先輩はあの女の人と過ごしているんだろうか。

 私がその隣に立ちたかったな。


「……未練たらたらじゃん、私」


 映画の内容は全く頭に入ってこない。

 けれど映画をつけっぱなしにでもしていないと泣きそうなのだ。


 毛布を体に包んだまま、立ち上がると、窓を開ける。

 そうして外の空気を吸うためにベランダに出ると、凍てついた外気が私を包んだ。


 裸足のままだから、足裏も冷たい。


 息を吐けば白い煙が上に上がって、そして消えていく。


 息を吸えばひんやりとした空気が脳を冷やしてくれて、心地がいい。

 目を瞑って呼吸に意識を集中させていると、私の目元は気づけば熱くなっていた。


 何も考えていないはずなのに、涙が止まらない。

 悲しい気持ちが収まらない。


 何度も目を拭って、私は目を開けた。


 すると、無数の白い小さな結晶が外を舞っている様子が私の視界に入る。

 今年初めて降ったそれはあまりに綺麗で、あまりにも残酷だった。


 私は空中に手を伸ばしてみる。

 外を舞っているいくつかのそれは私の手に落ちてきて、すぐに体温で消えてしまう。


 けれど私の心に降り積もっているそれはなかなかに消えてくれない。

 心をずっと温めながら、冷やしてくる。


 温度差で風邪をひきそうになる。


「……メリークリスマス」


 私はそう小さく呟いた。


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