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第十三話 後輩のこと

 十二月に入り、最高気温も一桁代が当たり前になってきた時期。

 大学で一樹はいつもの友人二人と隣り合って同じ講義を受けに来ていた。


「もう十二月だぜ。この調子だと今年も彼女はできずかあ」


 講義室、真斗はため息をつきながら机にもたれかかる。


 そんな真斗を横目に一樹はスマホをいじりながら、ふと、今年を振り返ってみる。


 もうそろそろ年が変わろうとしている。

 今年を振り返れば長いが、あっという間とも言える。


 四月ごろに彼女の浮気が発覚して、別れて、半年間引きずっていたら、初恋の幼馴染が現れて。

 なんだかんだあって同棲することになった。


 いつまでかはわからない。

 とはいえ、今年のクリスマスと年越しは美月と一緒に過ごすのは確実だろう。


「うちも今年のクリスマスは流石に彼女なしで過ごしそうやわ」

「お前は今年で彼女二人ぐらい作ってただろ。俺らで我慢しろ」

「それは嫌やな、虚しいわ」

「お前らのせいで去年は俺、クリぼっちだったんだからな!? ……一樹は今年は裏切らないよな!?」

「……」


 二人のそんな会話を聞きながら、一樹はスマホをいじり続ける。

 美月とメッセージのやり取りをしていたのだ。


『何時くらいに授業終わるの?』

『三時半ぐらいに終わるから、四時半くらいには家戻ってると思う』

『オッケー。家で留守番してるね』

『けどごめん。今日からバイト行くから。夕飯は弁当で買ってくるのでいいか?』

『そっか、言ってたね。うん、全然いいよ!』


 ただ用事を伝えるだけの連絡の取り合いである。

 けれどそんな何気ないやりとりが楽しいと感じていたらしい。


 一樹は知らず知らずのうちに笑みをこぼしていた。

 そして、その様子を友人二人にがっつりと見られていたようである。


「……一樹? 聞いてるか?」

「すまん、聞いてなかった。どうした?」


 一樹は連絡を取り終えるとスマホを閉じる。

 すると、真斗はジト目を、宇都は細い目をしながらこちらを見ていた。


「お前、彼女か? さっきからニヤニヤしながらスマホ触りやがって」

「……俺、そんなにニヤニヤしてたのか?」

『してた』


 二人は言葉をハモらせる。

 恋愛を感じ取る鼻がいい友人から女の気配を隠し通すことは完全にはできないらしい。


 ワンナイトの件も女子と同居していることも友人二人にはまだ言っていなかった。

 裏切っている気持ちにはなる。


 しかし美月のためにもどうしてもまだ言うことができていなかった。


「別に彼女じゃないぞ」

「じゃあなんだよ、いい感じの女友達か?」

「そんなんでもない」

「嘘つけ、あの子じゃないのかー?」


 真斗は確信したようにニヤニヤとする。


 美月のことがバレたと思った。

 バレるはずがないのに後ろめたい気持ちがあった一樹は心臓をドキッとさせた。


 けれど真斗が指していたのは美月のことなどではなかった。


 忘れていたわけではない。

 ただ思い出す暇がなかっただけ。


「……あの子?」

「ほら、前に一樹が相談してきたバイト先の後輩ちゃん」


 真斗がそう言った瞬間、小鈴との記憶が一気に脳裏をよぎった。

 

 今日は小鈴も来るはずなので、会うのは二週間ぶりになる。


 小鈴のことを相談したその日に一樹は美月と再会した。

 それからバイトにも行っていない。


 今まで彼女の好意に向き合う心の余裕がなかった。

 美月と再会してから、時間もなかった。


 小鈴に何も言わずにバイトを休んだので彼女は怒るかもしれない。

 それか、もしかしたらもうすでに愛想尽かされて別の男子を狙っているかもしれない。


 むしろその方が助かる。


「……その子のことはまたいつか言うから」

「えー、なんだよ、それ。教えろよー」

「いいやん、真斗。恋がどうなるか二人で気長に報告待とや」


 一樹は無理やり話を変える。

 増えた考え事はひとまず後でしたかった。


「で、何を聞こうとしてたんだ?」

「それで今年こそお前はクリぼっちだよな!?」

「……どうだろうな」

「なんだよそれ! やっぱり恋愛してんじゃねえか!」


 一樹は反応のいい真斗に笑う。


 友人と話している時は悩み事を忘れられるから楽だ。

 けれど、講義が始まって静かになった時。


 頭の中に残ったのは小鈴のことだった。


『今度、私とデートしてくれませんか? ……その、二人で』


 あの時の小鈴の赤みを含んだ笑顔が忘れられない。


 直接的に好きだと言われたわけではない。

 しかしあの状況での発言だったり、それからの行動で間接的に何度も好意を伝えられた。


 考えると言った一樹を小鈴はただ待ってくれていた。

 もしかしたら、今も待っているのかもしれない。


 同じ思考を何度も繰り返し続けて、気づけば、バイトの時間になっていた。

 

 夕方の日も落ちかけた頃、一樹は店の裏口の前で立ち尽くす。

 更衣室にはもう小鈴がいるかもしれない。


 どう言葉をかけるべきだろうか。


 久しぶり、とりあえずそんな挨拶をして、それから。


 一樹が久々のバイトに加えて、小鈴の件もあって扉を開けるのを渋っていた時だった。


 右から声が聞こえてきた。


「あ、先輩だ! 久しぶりですね!」


 声がした方に顔を向ける。


 するとそこには見覚えのある美少女が立っていた。

 けれど一樹の記憶していた姿とは違う。


 ストレートだったショートの黒髪はパーマがかけられて、似合っているという言葉以外が見つからなかった。


「……久しぶり、なんか垢抜けたな」

「ふふ、先輩にこれを見せたかったんですから」


 垢抜けた小鈴はいつもと何も変わらない可愛らしい笑顔を見せた。


 そんな笑顔は一本の矢となって一樹の胸を抉った。

 

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