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久々に会った初恋の訳アリ幼馴染とワンナイトした  作者: テル


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美月視点② 幼少期

 私が一樹を好きになったのは彼の優しさに惹かれたからだった。

 それが私の初めての恋だった。


 別に一樹を好きになった特別な出来事はなくて、思春期に入ったくらいでいつの間にか好きになっていた。

 

 一樹はどう思っていたかは知らない。

 当時の私は顔に出やすいタイプだったから、もしかしたら私の恋心に気づいていたかもしれない。


 ただ、それでも最後までお互いに大切な幼馴染で友達であることには変わらなかった。


 一樹とは同じ公園でよく一緒に遊んだ仲だった。

 元々保育園が同じで、そこから小学校も中学校も一緒だった。


「一樹、今日も家行っていいー?」

「もちろん。菓子パしながらゲームしようぜー」


 小学校に上がってからは、私が一樹の家に行くことが増えた。

 

 学童も入れさせてもらえなかった私は一人家で退屈だったから。

 

 それに母親が家にいても、浮気している現場を隠れて見てないといけなかったから。


 だから、一樹の家は逃げ場に最適だった。

 そんな私を一樹と一樹の母は受け入れてくれた。


「美月ちゃん、辛かったらいつでも来ていいからね」


 今思えば、一樹の母は私の家庭環境に薄っすら気づいていたのかもしれない。

 

 一樹の母は私に随分優しくしてくれた。

 それにずっと助けられた。


 一樹の優しさも母親譲りなのだろう。


 でも、中学校に上がってからはもう一樹の家に上がることはなくなった。

 一樹は勉強と部活で忙しそうだったから迷惑かと思って私が遊びに誘うこともしなかった。


 クラスも違ったしで、そうしたらだんだんと疎遠になっていった。

 距離は遠まっていくけれど、私の恋は大きくなるばかりで。

 

 けれど、色恋どうこう言える暇がないくらい、私の家庭環境はひどかった。


「お前、子供ほったらかしにして浮気してたのかよ!」

「はあ!? あなたも仕事ばっかりして、私と美月の面倒、全然見てくれなかったじゃない!」


 父親に母親の浮気がバレた。

 状況は最悪で家の中で毎日喧嘩ばかりしていた。


 夜遅くまでの口論になることもあって、私の居場所はどこにもなかった。


 誰にも助けてとも言えなくて、辛くて、そんな時に一樹が声をかけてくれた。


「……よっ、美月、差し入れのオレンジジュース」

「あ、ありがと……どうしたの急に?」

「なんか最近、顔色悪いから大丈夫かなと思って」

「……心配してくれてるの?」

「お、おう。なんかあったら言えよ。相談とか乗るし……」


 そこでやっぱり一樹のことが好きだなって思った。

 助けてと言えない私のことを気遣ってくれた。


「うんありがと。ちょっと元気出た」

「……今日久々に一緒に遊ばないか?」

「部活ないの?」

「あるけど……サボろうと思って」

「ふふ、私のことはいいから部活ちゃんといきなよ。先生に怒られちゃうよ?」


 でも、やっぱり私は一樹に迷惑をかけられなかった。

 一樹のことが好きだから、素直に甘えられなかった。


「ねえ……一樹」

「どうした?

「なんでさ、そんなに私に優しくしてくれるの?」

「な、なんでってそりゃあ、俺、美月のこと……」

「……電話だね、出なくていいの?」

「やべっ、チームメイトからだ。ごめん、ちょっと部活行ってくる」

「……うん、行ってらっしゃい」

「美月、なんかあったらいつでも相談乗るからな」

「うん、ありがと。一樹も部活頑張って」


 私は一樹の背中を笑顔で送り届けた。

 それが多分、まともに二人で会話した最後の日だったと思う。


 気づけば母親と父親の離婚が決まった。

 親権は母親持ち、正直父についていきたかったけれど、私には選ぶ権利がなかった。


 それに、浮気した母親の子として、父にも私は捨てられた。


 そして、私の引っ越しが決まった。

 母親の浮気相手のところに引っ越すらしい。


 一時間以上は離れている。

 中学生の私にとってそれは一樹との永遠の別れを指していた。


「……ばいばい、一樹」

「げ、元気でな」

「うん、一樹もね」


 最後に交わした会話はたったそれだけだった。

 

 まだ一樹のことを好きだった私は思いを伝えようとした。


 まだまだずっと一樹と一緒にいたかった。


「ねえ、一樹、あのさっ……!」


 私は勇気を振り絞って、一樹の方を見てみた。

 そうしたら、そこにはもう昔の一樹はいなかった。


 体は前より逞しくなっていて、顔つきも大人っぽくなっている。


 かっこいい、そう思ったと同時に余計に思いが伝えづらくなった。


 これからモテるんだろうなって思った。

 彼女も作って、この学校できっと青春を送るのだろう。


 だから、私の好意は邪魔になると思った。


 それに私は一樹を見ていても、一樹は私を見てくれなかった。


 (今までまともに話してなかったんだし……そうだよね)


「……ど、どうした?」


「ううん、なんでもない。今までありがとうね」


 ***


 朝、私は鼻を掠める料理の匂いと何かを焼いている音で目を覚ます。

 

 私はゆっくりと目を開けた。

 すると、どこか見覚えがある、だけれど知らない天井が視界に映る。


 私は体を起こす。

 寝ぼけた頭で辺りを見渡すと、私はベッド以外に何もない質素な部屋にいるようだった。

 しかし部屋の素材や構成にはやはりなんとなく見覚えがある。


 私は昨日の記憶を掘り返す。


「そっか、昨日……私、一樹と会って、それで……」


 一樹と話している途中に雨が降ったと思ったら、気づけばここである。

 そこからの記憶がない。


『……じゃあ、一生家泊めてよ』


 私は確かそんな無茶なことを言った気がする。

 それに対して一樹はもっとあり得ないことを平然と言った。


『別にそれくらいなら、いいぞ』


 一樹の優しさは久々に会っても変わっていなかった。

 バカみたいにお人好しだ。


 でも、そんな一樹を傷つけた私はもっとバカだ。


 私は大きくため息をつく。


 (……荷物持って、もう出ていこう)


 一樹に迷惑をかける前に、出ていってしまった方がいい。

 

 頼ればいいのに、一樹の優しさに当てられた私はこれ以上罪悪感に耐えられる自信がなかった。

 一樹が見ず知らずの男の人ならよかった。


 それなら素直に頼れた。


 私はそんなことを考えながら、部屋のドアを開けた。

 リビングに行くと、キッチンで一樹が朝食を作っているようだった。


「おはよう、美月」


 私に気づいた一樹は手を止めないまま、そう挨拶する。

 

「あ……お、おはよう」

「アレルギーとかないよな?」

「え? あ、うん、ないけど……」

「まだパンとか焼けてないし、お風呂入ってていいぞ。昨日、入ってないだろ」


 ちゃっかり朝ごはんも用意してくれて、お風呂まで促してくれる。


 優しいを通り越して、お人好しを通り越して、やっぱりバカだ。


「……ねえ、一樹、なんでここまでしてくれるの?」


 昨日と同じような質問を私は一樹にした。

 やっぱり訳がわからなかった。


 本当に何も求めずにここまで与えられると怖くなる。


「なんでって、そりゃあ……」


 一樹は何かを言いかけて、口ごもる。

 

 しばらく悩んだ後にこう答えた。


「……って、優しくするのに理由なんているか? 見るからに困ってそうだったし」


 今までずっと私に本当の意味で優しくしてくれる人なんていないと思っていた。

 だから私はずっと私を売って生きてきた。


 でも目の前の彼は困っていそうという理由で手を差し伸べてくれた。


「それにワンナイトだけの関係とか嫌って言っただろ。また昔みたいに……っていうか、昔以上に仲良くしたいんだよ」


 やっぱり一樹はよくも悪くも昔と全然変わっていなかった。


 そんな一樹に私は救われた。


「……じゃあ、お風呂入ってくるね」

「そういえば、下着とジャージ、俺のだけどよかったら使ってくれ。今日買いに行くから」

「本当……ありがと、一樹」


 私はシャワーを浴びながら、涙を流した。


 本当に初めてがこの人だったらよかったのに。

 

 でも、一樹との、初めて気持ちよかったな。

 行為って本当はあんな感じなんだろうな。

 

 そんなことを考えながら、体が内部からも熱くなった私は自分で自分の手を汚そうとした。

 けれど、すぐに我に帰った私は考えるだけに留めておいた。

 

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― 新着の感想 ―
ちょっと、マジで読んでてしんどい。でもハッピーエンドを期待して読み続けるぞ~ 一樹と美月、しあわせにしてくだせえ~
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