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久々に会った初恋の訳アリ幼馴染とワンナイトした  作者: テル


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第一話 ED大学生の日常

 多くの人が高校生の頃は華のある大学生活を夢見ていた人も多いと思う。

 華のような大学生活を送れているならそれでもいい。


 けれど、何も考えて生きてこなかった相京 一樹(あいきょう かずき)にとって、迎えた大学生活は華のあるものとは言えなかった。

 特に楽しくもなく、別に苦しくもない。


 高校生活は華の大学生活を夢見ていて、最初は順調だった。

 彼女もできたし、友人もできて、新鮮な毎日。

 

 けれど、途中から彼女の浮気のせいでED(勃起不全症候群)にもなって、華は枯れていった。

 あそこも枯れていった。

 さらに、元カノとはシていないのでEDで童貞という始末。


 今はお互いに唯一の友人たちと講義を受けて、空いた時間にバイトして、酒を飲んでの繰り返し。

 変わり映えがない。

 

 元カノに浮気されてEDにもなったので、二つの意味で萎えている。


 虚しいことに男としての尊厳も、華の大学生活も、一樹にはないのである。


 今日も一樹は講義を受けて、バイトをするだけ。


「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりでしょうかー」


 十九時ごろの繁盛している居酒屋にて。

 

 一樹は店のエプロンを着て、三角巾を被りながら、目の前に座っている友人二人に対して注文をとる。

 友人二人はニヤニヤとした顔でこちらを見ていた。


 バイト中の姿をわざわざからかいにきた様子である。


「ほな、ご注文は一樹くんでお願いします」

「……追い出していいか?」

「あははー、ごめんやん」

「でも今日は一樹の奢りだろ? わざわざ俺らが一樹のバイト場所に来てあげたんだから」

「お前らが勝手に来たの間違いな」


 一樹はわざとらしくため息を吐く。


 しかし、ニヤニヤとした表情を崩さない二人は大学生活でできた唯一の友人たちである。

 向こうにとってもそうなので、この三人で行動することは多い。


 関西弁を喋っているのは宇都 明(うと あかり)

 中性的で可愛らしい容姿だが、男だし、腹黒である。

 女子からモテるのは気に食わないし、経験豊富なのも気に食わないが、面白くて根はいいやつなので憎めない。


 宇都の目の前に座っているのは東雲 真斗(しののめ まさと)

 クールぶっていて普段は静かだが三人でいるとうるさい。

 こいつも変態で腹黒である。

 童貞のくせに女の子とヤることしか頭にない。


 ヤリ◯ンとEDと変態の三人組なので「俺ら終わってるなー」と互いに言い合うくらいには仲がいい。


「で、注文は?」

「じゃあ、一樹のおすすめでー」

「おすすめは唐揚げと揚げ豆腐」

「じゃあそれ二つずつちょうだい。生ビール二つと枝豆も追加で」


 俺は注文を受け取って、席を離れると、またいつもの業務に戻る。

 来た客を席に案内して、注文を聞いて回って、料理を提供しにいく。


 繁盛しているので、行ったり来たりと忙しい。

 そんな状況なので、キッチンの方は多少ピリピリしてもいいと思うのだが、いい雰囲気で包まれている。


 一樹がそんなことを考えながら、厨房で料理を受け取ると、パリンと奥から音が聞こえてくる。

 チラッと見てみると、皿を誰かが落としてしまったらしい。


 しかし、ピリついたような声は聞こえない。


「あ、すみません! 床にお皿落としました!」 

「大丈夫? 怪我なかった?」

「だ、大丈夫ですけど……ご、ごめんなさい、すぐ片付けます!」

「いいよ、今から私入って片付けるから。藤木さんはとりあえず休憩とりな」


 仲間のミスに対しても責めることなく、みんなが気遣っている。

 いい環境のバイトにつけたなと思う。


「四番テーブルの料理まだー?」

「あ、ごめん、すぐ持ってく」


 いい雰囲気とはいえ、ぼーっとしている暇がないくらいには忙しさはある。

 

 しばらく、一樹は忙しく店内を駆け回って、二十二時ごろ。


 客の数は減っていき、先程まで騒々しかった店内に今度は静けさが増していった。


「じゃあ俺ら帰るわー……うへへー、どうする? 三人でホテル行くかー?」

「うわー、一樹が美処◯に見えてきたわー」

「さっさと金出して帰れ」


 ダル絡みが酷くなった友人も帰っていった。

 それから、雑務をこなして、一樹も帰宅する時間である。


「じゃあ先にあがらさせていただきます」

「おう、お疲れー」

「私もあがりまーす」


 一樹が帰ろうと更衣室に行くタイミングで、キッチンにいた一人の女子もついてくる。

 

「先輩、お疲れ様ですっ!」


 一樹のことを先輩と呼ぶショートカットのこの女子は藤木 小鈴(ふじき こすず)

 キッチンで皿を割っていたドジっ子である。

 

 一個下の後輩で、このバイトも一樹の方が半年長い。

 なので先輩と呼ばれている。


 ちなみに喋らなければ可愛い。

 大学ではかなりモテているらしくよく男と遊んでいる。

 彼氏はいないのだが、その理由がもっと遊びたいからだとか。


 けれど、喋ればうざい。


「……お疲れ」

「なんか今日、返事が淡白じゃないですかー?」

「やっとバイトが終わったと思ったらお前から絡まれそうで嫌気がさしてる」

「いいじゃないですか。EDの先輩はどうせ……」

「黙ってくれ」


 小鈴は一樹が気にしていることを平気でいじってくる。

 彼女に浮気された時に相談したのが小鈴だったので、相談する相手を間違えたと今では思っている。


 更衣室に行くと、一樹は上を脱いで、パーカーを羽織る。


「あ、先輩、私も今日はパーカー着ます。ペアルックですね!」

「パーカー脱ごうかな」

「えー、私とペアルックがそんなに……」

「めっちゃじゃないけど、ちょっと嫌」

「……私は嬉しいのになー」

「なんでだよ」


 思わせぶりな言動を取って、実際には反応を見て遊んでいるのが小鈴である。


 一樹は小さくため息をつくと、更衣室のソファに座ってスマホを開く。

 すると、その横に小鈴も座ってくる。


「何見てるんですか? えっちなのですか?」

「違うわ。メール返信してるだけだ」

「ま、そうですよね。EDですし、えっちなの見ても勃ちませんよね!」

「……あのな、EDいじりしてくるけど、これでも結構悩んでるんだぞ」


 一樹はチラッと自分の息子の方に視線を移す。

 彼女に浮気されたのが半年前なので、もう半年間ズボンにテントが立っていない。


「先輩、そんなに悩んでるんですか?」

「当たり前だろ。男としての尊厳がないわけだし」

「じゃあ、先輩……私が先輩のED治してあげましょっか? 今、更衣室には二人だけですよ?」


 小鈴は一樹の顔を覗き込むと、ニヤッと笑う。

 

 しかし、可愛い容姿をしている小鈴にそんなことをやられても、一樹の息子はびくとも反応しない。

 そもそも何も思わない。


 小鈴にとってはまた先輩で遊んでいるだけで、それをわかっているからこそ余計に勃たない。


「タイプじゃないから無理」

「ちぇっ……先輩のタイプってどんなのです? 前の彼女さんみたいなロングヘアの人ですか?」

「別に容姿のタイプはないけど……性格のタイプだと普通の女の子」

「……普通とは?」

「俺が相手に合わせる必要がない、みたいな子」

「難しいですね。親しみやすいみたいな感じですか?」

「多分そう」


 一樹は自分でも何も考えずに生きてきたと自覚している。

 だから、性格が違ったり、話が合わなかったり、そういう人は苦手だ。

 わざわざ考えて相手に合わせたくない。


 そういう意味で俺にとっての普通の子がタイプなのだ。


 だからこそ彼女に浮気されたりするのだろうけど。


「初恋の子も……そうだったな」

「前の彼女が初恋じゃないんですか?」

「あれは初カノ」

「先輩の初恋の話、聞きたいです」


 一樹は人生の中で二回恋をした。


 二回目は前の彼女で、相手の方が先に好きだったから付き合ったけれど、最中で恋の感情は間違いなく芽生えていた。

 そして初恋は中学一年生の時。

 保育園の頃から中学までずっと同じで、仲の良かった幼馴染がいた。


 一樹はそんな幼馴染に恋をした。

 特に理由はなくて、なんとなく好きだった。


 けれど、親の都合で転校して、告白もできずに恋が終わった。


「別に聞いたってつまらないぞ」

「えー、余計気になります」

「……中学生の時に幼馴染に恋したけど、その子が転校して、恋は儚く散ったって話」

「その子も一樹くんのこと好きだったら、切ないですね」

「どうだろうな。そういう素振りなかったし……まあ、とりあえず帰るぞ。駅まで送るから」

「ありがとうございます。駅まで先輩と一緒ですねっ!」


 大学の友人に、バイト先の可愛げのある後輩。

 何も考えずに生きてきた一樹だけれど、なんだかんだ今の生活に不満はないかもしれない。

 華も尊厳もないけれど。


 彼女の浮気はEDという形で残っているが、それでも彼女という存在を忘れて生きていけるくらいにはなった。


 当然、この時に話した儚く散った初恋の話も今更引きずっていない。

 誰かに話してと言われるまで脳裏にもよぎらない。


 けれど、その次の日のことだった。


 初恋の幼馴染とワンナイトした。


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