第4話「初めてつながった日」
今回でラストになります。
明日g-41bにてお待ちしております。
「いいですか。お嬢様に付き添えるというのは非常に名誉なことなのです。私が幼い頃は旦那様が男子校に行かれたのもあり、私がその身の世話をすることは許されなかったのですから」
朝礼で他のメイドさんが並んでる中、呼ばれた私はお母さんの前に出て。その人たちが横一列に並んでる所の前に立って話を聞くことになる。背中をまっすぐに伸ばしたまま両方の手を体の前で組み合わせているこっちに対して、向こうは今も視線を上の方に向けながら他の人たちにも向けて話してた。
ただ、一方で私の方はただ目尻を落っことしたまま、そっちの方を見てるだけにしてて。視線の位置も変えないまま、ただまっすぐに相手の方を見つめ続ける。向こうは横に長い机の前に立ってるけど、そのさらに向こう側では今日は天気が曇ってるせいで薄暗くなってた光がこっちの方にまで届かずにいるのが見えてる。結果、どこの誰かわからない人の肖像画だったりどこの物かわからない壺が置いてあるのだったり。全部同じ色に染まりあがってる。
この部屋でそうじゃないのは窓の向こうから入ってくる太陽の光に照らされてる狭い範囲だけど、そこはテーブルと一緒にいる椅子がある場所だけ。それのせいで机の上も真ん中を通り過ぎるよりも前に止まってた。
それだけがここを照らしてるのもあって、私たちがいるこの場所全体がだいぶ薄暗いだけの状態が続いていた。それに対して、外ではたまに鳥が鳴いてる音だったり木々が風に揺れてる音が聞こえたりしてるけど、その一方でこの部屋の中で音を立ててる物は何もない。
「これはお嬢様からの評価を上げる貴重なチャンスだと思いなさい。私の娘として期待に応えてくれると信じていますからね」
その声を出す時だけ私の方を見下ろしてくるお母さんは、部屋の向こうから入ってくる光がある方に背中を向けてるまま、ただまっすぐに私の方を見下ろしてて。それに対してこっちは数秒間相手を見れずにいたけど、その途中で急にお母さんが話を止める時があって。それのせいではっとしながら相手の方を見ることになる。
目が合った後から相手はまたさっきまでと同じ感じで話を再開して。そのペースは自分の言葉が終わるまで一切変わることはなかった。
「はい」
ただ私がその一瞬だけで終わる声を出すと、口をまだ閉じられずにいて。一度だけ口からほんの少しの音だけする息を吸い込む。一方で、お母さんは私の返事を聞くや否や、手を叩いて他のメイドさんたちに仕事をするように指示をし始めてる。それに対して私はしばらくそこに立ったままいて。顔を下に向けて床に自分の影が全くない様子を眺めたまま立ってた。
それに対して、他のメイドさんたちは、みんな挨拶をしながら部屋の外に出て行ってるみたいに進んで行く。ただ、私は立ったままその足音だったり人が消えていく気配だったりだけを感じる。ドアが閉められてからはその音はどこにも聞こえなくなってて。ただ私がそこで立ってるだけになってた。
お母さんが開けてるドアにお嬢様が「ありがとうございます」って言いながら片方の足を持ち上げて座って行くのに対して、それが終わると一緒にこっちがまだ車の後ろ側でお嬢様と自分の鞄をトランクの中にしまってるのにドアを閉めてる。
だから、こっちは相手が乗ってる運転席とは別側に回ってそっちのドアを開いて車の中に乗り込んだ。一方で、お嬢様はシートベルトを弄るまま視線を下の方に向けながらそっちの方を見るだけにしてる。だけど、それが終わったと思ったら、また向こうがこっちの方を見てきてにっとした表情をこっちに向けてくる。
それに対して数秒だけその子の方を見てたけど、でもすぐに顔はそのまま自分のシートベルトに近い位置に近づける感じにしたまま視線でお母さんの方を見てると、向こうはまっすぐ前を見たまま「出発します」とだけ言ってて。でもそれのすぐ後にお嬢様がまだベルトを締め終えられなかったみたいで。向こうが体を崩しながら来て。
こっちの手で何とかそれを受け止めながら口を強く締め付けつつ目を大きくして。相手の肩を私の手で掴む状態のまま、ただ時間だけが過ぎてく。そう思ったけど、でも、私も向こうもその時は動けないでいるけれど、お互いの体は周囲の建物だったり植物だったりで影になったり日向になったりでその色が何度も変わり続ける。
少し時間が経った所で、ずっと車が走ってる音だけを聞いてるだけで。それを私の方から沈黙を破る感じで「申し訳ございません」とだけ言って相手を押し返す感じで背中を立たせてから顔を振りながら、自分の手を膝の上に乗せて足をまっすぐに並べた。
お母さんの方をすぐの勢いで見るけど、でもそっちは顔だけじゃなくて全身をまっすぐ前に向けてハンドルを握ってるだけ。
しばらくその背中を見てる間も車の動きに合わせて私もぐらぐら揺れる感じにしてるけど、それから視
線を瞬きと一緒に一瞬だけ横に向ける。それと一緒にこっちは口の下にえくぼを作る感じにして顔を少しだけ下に向ける。
でも、そっちのほうにはただ前の席の椅子があるだけ。私の手が乗っかってる膝と少しだけ隙間がある。同じ方向を見てるのも数秒の間だけ。またお嬢様の方を見たら、窓の方を眺めてるみたい。だけど、こっちからだと向こうの方には本人の顔が反射してるの以外に見える物はなかった。
お母さんが開けたドアの方から降りてくお嬢様の様子に対して、ただそれだけで自分の側の喉を掴みつつ振り返りながらそっちの方を見つめてる。気づいたらお母さんがドアを閉めるから、それのせいで私がいる方は急に周囲が暗くなるみたいな感じになる。一方で、こっちは少しの間だけ車の中にとどまってるけど、その間二人が話してるのを籠ってるまま聞いてる。
しばらくしてから顔を下に向けて一瞬だけど目を瞑りながら顔を上げて外に出る。それから息を吐いて車を回って二人の方に行くと、同じタイミングでお嬢様がこっちに振り返りながら口元を両方の斜め上に持ち上げて。一緒に目を細めてた。
その顔は私の方にまっすぐに向けてるから、お母さんの方には完全に髪の毛を向けてるだけにしてるし、そっちはすぐにそのはためく姿もすぐに終わって髪の毛の動きが止まってた。
「さて、行きましょう」
向こうの方から顔を回すような勢いで早々に歩き出してた。お嬢様と目線を合わせるけど、それは一瞬だけ。すぐに学校の門に向けて歩いて行ってて。そのまま他の女子生徒の中に紛れていく姿を見てると、私もそれに続く感じで少しだけ早歩きでその後を付いていく。
でも、それから私が後ろの方からついていくけど、その間も他の人と同じくらいのスピードで歩いて行ってて。それは学校の校舎を沿う感じで歩くところまで続く。
それで一瞬見えなくなるけど、私も一回だけ足を強く踏みつけてから歩き出そうとしたら、曲がったところですぐにお嬢様がいて。すぐに追いつこうとした私は体がぶつかりそうになって、声を出しながら下がってバランスを崩してしまったのを整える。
手を小さく動かしながら声を出してたのも数秒。すぐに頭を下げながら「申し訳ございません」と体の動きと同じくらいの勢いになるすごい早口で言った。
「ずっと後ろにいられたら困るわ」
その言葉がするなり私は首を伸ばして後ろの方を視線を向けて、さっき曲がった曲がり角の方を見る。そしたら、お母さんがいた校門からもだいぶ遠くなってて。もう車もいなくなってるし、そっちで歩いてる人たちもだいぶ遠くなって小さく見えてるみたい。それにそっちから聞こえてくる音もだいぶ小さい。
すぐ横はちょっと大きめで二人の背よりも高い垣根があるし、その反対側の校舎の廊下には明かりがついてないせいで、私たちがいる場所はだいぶ薄暗いだけになってる。
でも垣根のほんのちょっとした隙間から木漏れ日みたいに薄い光が少しだけ零れ落ちてて、両人の服を照らしてた。
「はいこれ」
しばらく周囲の様子をきょろきょろしてた私の前に、いきなり手が出されたと思ったら、いつの間にかお嬢様も頬っぺたの片方だけだけどそこを膨らませてて。それを見てるだけでこっちは口を軽く膨らませながら息を吸って目を開けてたけど、相手は鼻から息を吐きながらこっちに出した手をもう一回だけ動かすだけ。
しかも、それと一緒にお嬢様はもう片方の手でくしゃっとした包み紙を芝生の上に音もなく落っことしてた。一方で、こっちはそれを視線で追いかけようとしたけど、でも向こうがこっちを催促するみたいに足を軽くばたつかせたらそれで見えなくなってた。
ただ、私もそれだけ見たらそれを受け取って咄嗟に中身を自分の口の中に入れて。
それだけじゃなくて何度も歯にそれを当てるために左右に動かし続けて。それから顔を上に向けたまま、校舎同士の間に見える狭い空の様子を眺めてた。
「これであなたも共犯だから」
お嬢様が発したその声は、ちょっといつもより低い物で。向こうが体を前のめりにしてるから私を見上げるみたいな感じになってる。それに対してこっちが、「はしたないですよ」って言ったけど、でも、それはいつもよりも声に余計な抑揚がつく上に、最後の方は伸ばした感じになってた。
それと一緒に下を見ながら両方の手をお腹で挟む感じにしてたら、お嬢様の方から私の肩を手のひらで押してきて。こっちもそれをやり返す。それだけじゃない。何度も同じ行動を繰り返すことになってて。予鈴の時間が来た時に向こうの方から「やば」って声がするまでそれがずっと続いていた。
読了ありがとうございます。