第3話「なんでもない日の思い出/なにがなんでもな日の思い出」
両方の手でお盆を持ったまままっすぐに歩くお母さんの姿。それを少しだけ見上げる感じのまま見つめるけど、そっちはただ進行方向の方を見てるだけ。顔をまっすぐにしたままただ先に向けてる。
その眼鏡ですら、こっちから見ても色が付いてるのはこのお屋敷の通路と同じ様子。それでも、こっちは両方の手を前後に振りながらその後を少しだけ早歩き気味で追いかけていくようにする。
私たちは赤いカーペットの上を歩いてるせいもあって、足音はほとんど聞こえてないけど、開けたままになってるドアの向こうからは、他のメイドさんたちの話声が聞こえてて。そっちでは相手の体を軽く叩くみたいにしながら体を前のめりにして笑ってる声がしてて。
そっちの方は見えないけど、お母さんが通る時に大きな服同士が擦れる音と一緒に大きく挨拶をしてる声がした。声に引っ張られる感じでそっちの方を見たら、横に並んでたメイドさん2人が張った肩を落っことしながら鼻から息を吐いて見合ってた。
でも、見てる間足を少しだけ相手よりも遅らせてたせいで、気づけばもう先の角の所をお母さんは進んで行ってて。私も小走りでそっちの方を追いかけることに。だけど、その瞬間にそっちにある彫刻とその台座にぶつかっちゃって。低い音を立てながら後ろに数歩よろけながら下がることになる。
だけど、それで頭の痛みに片方の手を当てたまま目を閉じてたのも数秒間だけ。すぐにはっとするような勢いで顔を持ち上げたら、一度ため息をつきながらお母さんが近くにあった棚のスペースにお盆を置くと、こっちにさっきよりも少し早いくらいのペースでこっちに近づいてきてた。
「何度も言わせないで」
立ったままこっちを見降ろす体勢で私の方を見て来てるそっちの姿に対して、私は口を少しだけ開けたまま声にならない声を出す。そのまま、ただ相手のことを見上げてることしかできないこっちに対して、向こうも見てるだけだった。
と思ったけど、次の瞬間にはもう私の方を見てなくて、また来た道を戻ってお盆を持って歩き始めてた。
「この家にある物は全て私たちの物じゃないの」
その話をしてる間、向こうが私に対して視線を向ける訳でもなくて、ただまっすぐに歩きながら自分の進行方向を見てるだけにしてる。その間、こっちはただ口元を整えられないで何度もその位置を変えるみたいにしてる。
今私たちが歩いてる通路は片方の壁が窓になってるのもあって、交互に向こうが太陽の光に触れてる間こっちは影になって、またその間向こうは影の窓同士の間の影の所にいる。
ただ、それでも私がいる太陽の光が伸びてる所ですら、窓が格子になってる場所があるせいで、顔や髪の毛に影が入り込んでた。だけど、それも数秒間経った後にはもう完全に体が影に入り込んでてて。それに対してお母さんは次の窓がある場所で太陽の光を浴びたまま歩いてた。
「怪我はない」
「はい」
お互いにただ一瞬だけで終わるような話し方をした後はまたお互いに歩くだけの時間が過ぎる。どこからか話し声が聞こえることもなくてただ足音だけが聞こえてる中で、先にその沈黙を破ったのは相手の方。一度空気を飲み込むみたいにしながら顔を横に向ける。
ドアの前に立ってるお母さんに対してこっちは何も言わないまま窓から太陽の光が入り込んでる場所にいた。でも、それでも日差しが熱くてさっと横の方にずれた。だけど、それを向こうが待つこともなくてすぐに話をまた始めた。
「旦那様の物に傷が付いたらそれは私の責任なの。それをわかって頂戴」
私が返事をするよりも先にもう目の前にある自分の身長よりも全然大きいいドアを開けて中へと入り、「失礼します」と言うお母さん。それから先はもうこっちがまだ入ってないのにそれが閉まりそうになってて。慌ててそれを止めるために体を前のめりにしながら両手でそれを抑えることにする。
口を強く紡ぎながら体を前のめりにして進んだこともあって、そっちに対して声を出すのを忘れてたけど、続けて小さな声を出しながら「失礼します」とだけ言いながらどこに見えるかもわらかないままドアに向けて頭を下げた。
それから足をスライドさせる感じで部屋の中に入ると、今までの通路と天井の高さが変わらないけどその奥行きが広い上にほとんど汚れもないカーペットの上でお母さんが旦那さんにコーヒーを差し出してる。
ちいさな、出来るだけ音を立てないようにする歩き方で壁のすぐ前の所をスライドする私に対して。向こうはずっとお母さんの方を見てるだけ。だけど、私も私で一瞬だけ目を反らしながら背中を壁に預けようとしたけど、手を重ね合わせつつ後ろに下がったところですぐに元に戻して、何度も服を叩くみたいにした。
だけど、それで下を向いてる間、急にドアが高い音を立てながら少しずつ押されたところで、それのほんのわずかな隙間からも声がして。私はそっちの方に視線を向けながら顔も横に傾けることに。
そのままそっちの方を見つめてたら顔を横からひょっこりだしてくるみたいな感じでお嬢様が顔を出してて。すぐに「お父様」って言いながら話してた。
さらに、私が手伝ってドアが開くのを押さえつけるみたいにしたら、それと一緒に向こうはすぐ部屋に入ってくると、私に向けて「ありがとう」ってだけ言って旦那様の方に向かってった。
歩くよりほんの少しくらい早いペースで進んで行くお嬢様の様子に、手が少しだけ出そうになってもう片方ので抑え込む感じに。それから勝手に上の瞼を降りてくるのをそのままにさせてた。
「この屋敷に子供が他にいるなんて知らなかった」
いつの間にかまだ旦那様の膝の上に座ったまま足と体を横向きに向けてる状態でこっちの方を見てるのに気づいて。
しばらく視線を外してた状態で静かになったから、そっちにはっとする勢いで視線を向けたら、その子だけじゃなくてまだ顔だけだけど、お母さんや旦那様まで視線を向けてる。それを見てるだけで、視線を泳がせながら言葉にならない声を何度も口にすることになった。
「たまにお母さんに連れられて見学とかさせてもらっています」
言葉を取り出すたびに声が止まっちゃってて。自分でもどこを向いてるのかわからない状態で話を進めてたけど、最終的に顔を下に向けてる状態になって言葉を終えてた。
その時、お母さんがまた私に対してため息をついてたのだけが聞こえて来てて。ただ自分のメイド服の前側のスカートを握り締める私も、それで目元に強い力を入れることになる。
だけど、相手がだいぶ私に近づいてた所で、その足音がしてたのに気づいて顔を上げたら、私の方をお嬢様が見て来てるのに気づいて。一緒にお母さまが鋭い声でこっちの名前を呼んでるのが聞こえて来てた。
だけど、旦那さんが「まぁいいじゃないか」とだけ言うと、それと一緒にお母さんは目線を左右に動かしながらも、下の唇を上のに押し込みながら一歩後ろに下がってた。
そっちの方をしばらく見るだけにしてから相手とまた視線を合わせる。そしたら向こうは私に対してただ唇の下のを押し込むみたいにしながら端っこの両端を持ち上げるみたいにしてた。
おままごとの人形の赤ちゃんに「お茶が入りましたよ」って言いながら寝転がったまま小さいティーセットで遊んでるお嬢様は、片方の手で頬杖をつきながら足をばたつかせてた。一方で、私は中庭のマットの上で正座したまま少しだけ吹いてる風にメイド服の端っこの方と髪の毛だけが風に揺れるままにさせて背筋をまっすぐにして正座してる。
だけど、そこの足元が痛くて、その場所を何度も動かし続けて微妙な範囲で足の位置を変え続けてた。だけど、その間もお嬢様は「お客様の役やって」って言ってて。私もそれに「かしこまりました」とだけ言うと、お嬢様の人形を取るために一度「失礼します」と言って頭を下げながら、それを手にして頭を下げさせて相手のと机を挟んで座らせた。
続けてお嬢様もこっちのに対応しておままごとの世界でメイドさんごっこをしている間、言葉をゆっくり伸ばしながらそれを動かしてるだけにしてて。それを見てるだけでただ上の瞼を降ろしながら、両方の手を組み合わせては何度もそれを組みなおしたり戻したりを繰り返してる。
その一方で、その間も向こうはキッチンセットに付いてるポットをコンロの上に乗せて数秒間。それだけで「ハイ出来上がり」って言いながら物同士が擦れる音をだけを私に聞かせながら持ち上げて、何もでないままのそれをカップに向けて傾けてた。
「ここは子供帝国だから。大人は進入禁止なの」
それだけ言うと、そっちで見張ってたメイドさんは手を口元に当てて左右に視線を泳がせながらその場にいて。それから数秒後に「申し訳ございません」って言いながらお母さんの部下だった人は、そそくさとちょっとだけ前のめりにしながら肩を縮めて、屋敷の中に入って行ってた。
その間も、お母さんが二階のベランダのその向こうから私の様子を見降ろしてて。視線を前にあるおままごとセットに戻そうとするところで視界がぶつかる。汚れてるわけではないけど、間にある光の反射で向こうだからその表情は全然見えないどころか、顔の様子も全然見えなくなってた。
「ミュセルも、ここは子供帝国だからね」
お嬢様がその言葉を発してる間。私の正面にまた寝転がって、そこで足をばたつかせながら声を出して寝転がってる。
「はい」
ただそれだけ答えてから私は、ずっと自分のメイド服を握り締めながら唇の両方を押しつぶす感じにしてて。それ以外はただ両方の目を落っことす感じにしながら軽く息を吸う。
でも、向こうは私が使わされてる人形のお着替えをさせようと自分のおもちゃ箱の中から何着も服を取り出したところで、口に入れてた力を軽く抜きながらそこから息を吐きつつ目の両端を落っことすことになっちゃってた。
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