第2話「私が終わる日/私が始まった日」
「先日に起きた都内高層ビルでの爆発事故について、新たな情報が入ってきました」
相部屋になったおばあさんがテレビを見てるみたいだけど、それに対してパーテーションが敷かれてるのもあって、画面は見えないまま。
でも、それが出してる光が明るいみたいで、その四角が色を変えることになって布に映ってる。それだけじゃなくて、犯人に対して看護師の人と悪口を言い合ってるのが嫌でもこっちに入って来てた。
それだけで怪我したほうはもちろんのこと、もう片方の足もそのまま延ばしたまま両方の手をそこの上に乗っけたまま、視線を横に向けることくらいしか出来ない。そっちには病院の中庭があって。そこで綺麗なヒマワリがいっぱい咲いてる様子だったり、それ以外にも綺麗にトリミングがされてる低木が植わってたり、もう花は咲いてないけどアジサイが風で葉っぱを左右に揺らしてる。
どこからか落っこちて来てると思う葉っぱを掃除してる人が、赤茶色っぽい色をしてる石畳の上でずっと箒を動かしてる。その人がおじいさんが乗ってる車いすを押してる人に対して挨拶をしてたり、言われた側の看護師もそれに対して挨拶してる。
その向こうにある真っ白な病棟の前には家族で手をつなぎながら歩いてる人たちや、母親が設置されてるブランコで子供と遊んでるのも見える。今日は天気もいいみたいで、空から降り注ぐ太陽の光が葉に付いてる水滴や向こうの建物の窓を反射してるのが見えることに。
しばらくただ電気が天井に取り付けられてはいるけど、それもパーテーションの向こうのせいでこっちにはあんまり届いてない。外の方から来る光も、こっちの建物には窓の上側に屋根が取り付けられているせいで、あまり入ってこなかった。
私のスペースの中にある物はベッドの他には誰かが用意してくれた一本だけ細い茎の花だけが透明な花瓶に垂れ下がってる。それが乗ってる棚以外で、私の周囲においてあるものなんて何一つなくて。ただその間もずっとおばあさんと看護婦が笑いながらまた別の患者の悪口大会で盛り上がってた。
だけど、それも向こう側のドアを開けたと一緒に聞こえた「失礼します」のまっすぐに伸ばすこともない女の人の声を聴いた途端、私の視線も一気にそっちの方に引っ張られて、丸まってた背筋もまっすぐにしながらそっちの方を見つめる。
それから数秒間経って、革靴が床を叩く音がリズミカルに聞こえてる時間、そっちの方で盛り上がってたおばさんたちの声が止まってるのに気づいた。
一方で、私は里香さんの姿が影になって見えてる所で私もそっちの方を見ながらただ座ってるだけにしてた所で一度だけ乾燥した喉を飲み込むみたいに動かす。
「ミュセルさん」
こっちの姿が見えるや否や、銀髪の髪の毛をそのままに頭を下げてるその人を見る。それから、私も反射的に立ち上がろうとして、足の痛さのせいでその場で顔をしかめることに。それに対して向こうも「無理をなさらずに」とだけ言いながらこっちに手の平を見せる。
その様子に一度こっちも会釈をしてからただお互いに見合うだけの時間が過ぎる。ただ、相手はまっすぐ立ったまま、ベッドの上に座ってるこっちを見てるだけ。一方で、私の方はそこから顔を斜め下に向ける。だけど、その視線の先に何かがある訳でもなくて、ただ他の場所と同じ床の冷たい白いタイルが並んでるだけ。
「お久しぶりです」
一度相手に聞こえないような大きさでため息をついてから相手の方に向き直る。数秒間だけどこっちが視界に入れてない間も、向こうはただ同じ体勢でこっちを見降ろしてるだけだった。
その様子は私とは違ってパーテーションの影になる場所じゃないから、天井に取り付けられてる光を直接に浴びてて、黒いジャケットもパンツもそのままの色を私に見せてるみたい。顔の向きは変えないまま視線だけを落っことして私のを見つめ続けてた。
もう一度相手と視線が合うよりも前にこっちが出した声はいつもよりも小さくて、その上でほんの一瞬だけ最初に言葉になってない声を出すことになる。それと一緒にさっきもしたけどもう一度お辞儀をする。
「ヒルデお嬢様が、もうすぐ亡くなられます」
こっちの顔が上がった所で里香さんが一度声を止めるけど、その時以外はさっきの話方と全く変わらない口調で私の方に声をかけてくる。でも、こっちはそれに対して何も言えなくて。ただ瞬きをしながら視線を左右に動かすことに。しばらくそれを繰り返す時間だけ過ごしてから「そうですか」とだけ伝えた。
「お嬢様が、このことをあなたにも必ず伝えるようにと言ったんです」
しばらく相手のことを見れない時間が続いてから、ふとそっちの方を見ると里香さんがほんの少しだけ瞼を落っことしながらそう喋ってた。
だけど、私も私でただ相手のことを見てるだけにしたいけど、顔の向きはそのままにしながら口元を何度も何度も位置を整えるみたいに動かし続ける。一緒に指を何度も組み替えそうになるから、1回だけにするために片方のでもう片方のを押しつぶすみたいに力を入れておく。
一方で、里香さんはさっきまではずっと私のことを見下ろすみたいにしてたのに、今は自分の口の辺りに手を近づけながら、力を入れないで握った手の人差し指関節を親指で押してた。
里香さんがドアを閉じた音がしてからもしばらく私はただ背筋をまっすぐに向けたままそっちを見てることしかできなくて。それからは外の足跡が聞こえる訳でもないのに鼻から息を吐きながら顔を前に向けつつ背中をゆっくりと曲げてそのままベッドの上に寝転がらせる。
それからは、天井に何かがある訳でもないのに、ただ瞼を落っことしながらそっちの方を見つめるだけ。周囲では私や里香さんのことをひそひそ話だけど確かに聞こえる声でこっちに向けて話してるのが聞こえて来てた。
退院する時に渡された、皐月宮の残骸から出て来た私の私物の中に、お嬢様の写真は入ってなかった。
バスに乗ってる間、私の体はその動きに合わせて左右に揺れ続ける。それのタイミングとは全く関係ない所で人たちが話声をしてるのが聞こえてきたり、エンジンの音だったりがする。その一方で、バスが進んでる歩道の脇には大きな木が植わってて。それのせいで私の体だったり周囲の椅子だったりは光と影の色を入れ替えてるみたいになってる。
その中で、こっちはただほとんど力も入れないまま両方の手でスマホを持ってて。親指で画面を触ってはいるけれど、デフォルトのままのロック画面が表示されてるだけ。でも、そっちの方を見ないでずっと窓の向こうに流れてる風景だけを眺めてる。
一方で、そっちの方では私のいつもよりも狭めに開いてる目の姿が反射して映ってて。向こう側はこっちの色よりも薄くなって見えてる姿を一切隠そうとはしない。だけど、それに対して何をする訳でもいないまま、ただバスの流れに身を任せるだけにしてた。
皐月宮学園前のバス停に到着すると、運賃を箱の中に投入する前に手を止めて小銭に触れてるのか触れてないのかの状態だけが続く。そこでふとした瞬間にスマホを見てたはずの他の乗客の人がこっちをチラチラ見てるのに気づいて。「すみません」って軽く挨拶してからスイカで支払って段差を大きめの音を立てながら降りた。
足を進めてる間、素早く進んでたのもあって意識がそっちの方に向かっちゃってたのもあって、ずっと下を見てた。でも、ふとした時に上を見上げたら、私たちがいつも使ってた校舎の入り口全体が黒く燃やされた跡が出来上がってて。だけど、他の部分はいつも通り綺麗な窓や壁の様子が太陽の光を浴びて光ってるのを一切隠さない。
元々入り口だったところは屋根も含めて崩れてそこにあった物で穴の中に落っこちてない物は崩れた瓦礫の下敷きになってる。その一方で、そこは教室や訓練施設が並ぶ高層ビルの間になってる通路だから、部屋だったり建物だったりの被害はなくて。
だけど、テープだったり職員だったりの外側から見ると、大きく出来た穴の中の様子は見えないけど、でも突然大きな音がしたと思ったら、瓦礫の山の反対側から大きな音と砂煙が一気に上がるのが見てて。それに対して私はただ首を持ち上げることしかできなかった。
学生寮にある自分の部屋に戻ってそこにあったキャリーケースの中に洋服を畳んで入れたり、ノートや筆箱とかまだ余ってる日用品とかを閉まっていく。だけど、それで窓のすぐ横の所を歩いたタイミングで、足を止めることになって。数秒間そこで背中を少しだけ丸めた状態で、薄暗く電気も付いてない部屋の中で立ったまま何も見ないでいる。
その状態でも、遠くの方で数秒間に1度くらいのペースで建物が崩れる大きな音がしてた。だけど、それが終わったと思った次の瞬間には、外の廊下を大きな声で笑いながら歩く女子二人の声がこっちにまで籠った感じで聞こえる。
自分の両手で抱きかかえるみたいにしてたのが学校で着てた体操着で。それをぐっと自分の体に押し付けてて。一緒に自分の顔を少しだけ角度を変える。一方で、その頃には辺りから聞こえる音がどこにもなくなってて。その静かな時間を過ごしてる間だけは上の唇を下ので覆う感じにしながら上の瞼を落っことす。
その間も雲の上に隠れた太陽の光がまた現れることはなくて。鼻から息になるのかならないのかというわずかな音だけを感じる。一度瞬きをしてから視線を横に向けて。顔を振るみたいな動きで足を素早く動かしてほんの少しだけ足でカーペットを踏む音を立てて進んで。気づいたらクローゼットの前にまで来てそこを開けてた。
しばらく顔を下に向けたまま視線を自分でも動かしてるのかそうじゃないかのかを繰り返してる私に対して、そっちの方では何も起きてない。まだ袋に入れっぱなしになってるメイド服があって。それの前でただ立ってるだけにしたままいれたのも数秒間。すぐにまた部屋の方に戻って行く動きと一緒にそこのドアを閉めた。
一瞬だけだけど、風で揺れて袋同士が擦れ合う音が聞こえてた。