2 令嬢、新天地にて生まれ変わる3
翌日の空も、晴れ渡るいい天気だった。初夏の太陽は、これからくる本格的な暑さを感じさせるものだった。
食堂での昼営業が終わり、休憩の時間になった。エルは最後の片付けを終えるとエメラルドから呼び出された。そして、硬貨を何枚か手渡された。
「はい、今月の分ね」
エメラルドに言われると、エルは目を輝かせてありがとうございます、と頭を下げた。毎月、住まわせてもらっている生活費を抜いた賃金をエメラルドからエルは受け取っている。
初めて給料を受け取った時の感覚は、エルにとって忘れ難かった。そのお金は、これまで自分の足で歩くことなく、ただただ自分の運命を周りの流れに任せていた彼女にとって初めて、自分で歩いて掴み取った尊い自由だったからだ。
エルは部屋に戻ったとき、ふと、昔のことを思い出した。
3年前、初めてエメラルドから給料を手渡された日、エルは、何か好きなものでも買ったら?と彼女から提案された。エルはエメラルドの言葉に固まった。
「……好きなもの……」
エルはそうつぶやくと黙って考え込んだ。ここへ来る前、ダニエル家にいたとき、一体自分は何が好きだったのだろう。エルは考えても考えても何も浮かばなかった。
真面目に考え込むエルに、軽い気持ちで聞いたつもりだったらしいエメラルドは笑って、そんなに考えること?と言った。
「なんでもいいじゃないか。言ってごらんなさいな。アンタは何が好き?物じゃなくてもいい。色でもいい。行動でもいい」
「……」
そう尋ねられても、エルは何も浮かばなかった。自分が一体何を好きなのか、自分のことのはずなのにエルには何もわからなかった。エルは、何も答えない自分を見て笑っていたエメラルドがどんどん表情を硬くしていくのに気がつくと、慌てて笑って、考えてみます、とごまかした。エメラルドは、そう…とだけ言うと、それ以上は何も言わなかった。
「(…エメラルドさんに、変な子だと思われたらどうしよう…。不気味だと、おかしいと、嫌がられたら…)」
エルはそんな不安をよぎらせながら、その日の食堂での仕事を終えた。あのエメラルドの表情を思い出すと、エルは過去のトラウマがフラッシュバックして胸をえぐられた。エメラルドに嫌われたらどうしよう。そう考えれば考えるほど心はずんと重たくて、久しぶりに感じる嫌なもやもやで体が沈み込みそうだった。これ以上嫌われないように、いつも以上にミスに気をつけた。だから、怒鳴られる回数は普段より少なかったけれど、動き方はかなりぎこちなかったように思う。
仕事を終えて、エルは体を洗いに洗い場へ向かった。ここでは数日に一度風呂に入るのだが、今日がその日だった。エルは脱衣場で何気なく自分の髪を触った時、ふと、とあることが思い浮かんだ。
「(…髪が短ければ、使う石鹸の量も減る。これ以上2人の負担にならなくてすむ…)」
エルはそう考えると、その後は無心ではさみを取りに行き、そして、風呂場へ戻ると、刃を髪に当てた。
「(…髪を綺麗に…伸ばしていたら…素敵な人が迎えに来てくれる……)」
思い出の中の母が、幼いエルの髪をとかしながらそう囁く。優しい彼女の声が頭の中に響く。
エルは目に色を付けないまま、唇を強くかみしめた。
「(…お母様……ごめんなさい……)」
エルはそう心の中で呟くと、ひとおもいにばっさりと髪を切り落とした。
腰まで伸びていた黒い髪は、肩につかないほどの長さにまでになった。女性は長髪が当然で、それが女性らしさの象徴だと言われ続けていた自分がこんな格好になることがとても不思議で違和感があった。
しかしそれ以上に、頭がとても軽くなった、とエルは思った。母の言いつけを破ったのに、それなのに。物理的にも心理的にも負担がなくなって、エルは心底ほっとした。
風呂場から戻ったエルを見たエメラルドとダンは、絶句した。エルは短くなった髪を指に絡めると、ど、どうでしょう…、とぎこちなく尋ねた。しかし、エメラルドもダンも、口を開けて固まったまま何も言わなかった。
2人の様子にエルが困惑していたら、ようやくエメラルドが口を開いた。
「アンタ、それ……」
「あ、あの、…邪魔だなって、思って…。長くても手入れが大変だし……」
「本当のことを言いなさい」
エメラルドが怖い剣幕でそうエルに詰めた。エルはそんなエメラルドに体を震わせたあと、あの…と震える唇を動かした。
「か、髪の手入れにも石鹸を使うし、…あの、負担になりたくなくて…これ以上、お二人の、邪魔に、なりたくなくて……」
「………」
エメラルドは、エルの言葉に俯いて黙り込んだ。両手で握りこぶしを作ると、その手を震わせた。そして、勢いよくエルの方に歩いてくると、大きく大きく息を吸った。
「このっ…、大馬鹿者ーーっっ!!!」
それは、エルがここにきて落とされたなかで一番の雷だった。
「アンタを邪魔者扱いするくらいなら、最初からアンタを拾ってない!!アタシをバカにすんな!!」
「ごっ……ごめんなさい……」
ものすごい剣幕のエメラルドに、エルは完全に怯えてしまった。縮こまるエルに、エメラルドはゆっくり手を伸ばした。そして、短くなった黒髪に触れた。
「こんなんにしちゃって……色んな思いで伸ばしてたろうに……」
エメラルドは、そう呟くと、エルを思い切り抱きしめた。エルは、そのあまりの強さに息苦しくなる。エルはなんとか呼吸をしようとしたときに、エメラルドが鼻を啜る音が聞こえた。
「(……泣いてる…)」
エルは、彼女の様子に息を呑んだ。自分を哀れんで泣いてくれる目の前の人に、エルは、なんで自分なんかに、と不思議でたまらなくなる。
「(…ずっと、いなくなれって、周りから望まれてたのに……)」
エルは、エメラルドが自分を思って泣く姿にひどく動揺した。エルは胸の奥の温度がどんどん高くなり、そのせいで苦しくなるのを感じた。胸が締め付けられて痛いほどに苦しくて、涙があふれそうになるけれど、それは決して傷つけられたからではなかった。
「…エメラルドさん、私、ここにいてもいいんですか?」
「良いに決まってる。好きなだけいな。ずっといてもいい」
間髪を入れないエメラルドの答えに、エルはエメラルドに抱きついた。エルはとてもとても久しぶりに、自分はこの人が好きだという感情を抱いた。
それからしばらくして、エルが食堂を掃除していると、エメラルドが楽しそうな様子で彼女を呼んだ。
エルが向かうと、エメラルドがきれいな箱を持っていた。中には色々な種類のお菓子が入っていた。
「うわあ…綺麗…」
「前にここへ来た行商人がね、あんまりうちの料理が美味しいもんで、そのお礼にってくれたんだよ。王都で手に入れたものだってさ」
こんな上等なもの、こんなとこじゃなかなか手に入んないよ、とエメラルドは笑う。エルは、この町に来て初めて見るこういったお菓子に懐かしさを感じた。
「(昔はお茶の時間に食べてたりしてたな…)」
「食べようよ。って、アンタ甘い物好き?」
「甘い物……」
エルはゆっくりと自分に尋ねる。笑顔のエメラルドに、エルは胸の奥がほぐれる。
「…はい、好きです」
エルは、自然にそんな答えが出た。エルは自分が甘い物、特にクッキーが好きだったことを思い出す。自分で作ったりもした。そんなことすら、エルは忘れていた。
「(…そんなことも、考えることが出来なかった。周りに嫌われて、そのことで頭がいっぱいで、自分が何が好きなのかすら、わからなくなっていた…)」
過去の自分を思い出して、エルは、一人で立ち尽くす昔の自分を見つめる。ただただ笑顔を作って、これ以上嫌われたくないと、思い詰める自分。1人の部屋ではずっと真顔で、表情すらなかった自分。色のない重い世界に身を置くしかなかったあの過去。
エメラルドは、エルの答えに嬉しそうに口角を上げた。
「そう!なら食べな!ダンに、お茶頼んでくる」
「あっ、私いれてきます」
「いいからいいから。ダンは甘い物食べらんないからさ」
エメラルドはそういうと、エルに椅子へ座るよう促した。エルは言われるがままに座ると、また箱の中を覗いた。
「綺麗ですね…」
「ホントよね、こういうの見てるとときめくわよね」
エメラルドは、そう楽しそうに笑う。彼女は声も大きいし性格は豪胆だけれど、可愛いものや美しいものを好む。
エルは笑うエメラルドの横顔を見つめてつられるように微笑んだ。そして、そんな自分に自分で驚く。
「(…嬉しいから笑う、なんて、一体いつぶりだろうか…)」
「見てるだけにもいかないわね、さっ、食べましょ」
エメラルドにそう勧められて、エルは、はいと頷く。それぞれ食べたいものを手に取って、お菓子を口に運んだ。エルは、久しぶりに口にしたクッキーに驚くほど感動した。
「お、美味しい…甘い……!」
クッキーを持つ手を震わせて感動するエルに、エメラルドは声を上げて笑った。
「アンタ本当にクッキーが好きなのね。ほかには?どんなものが好きなの?」
「ええと…本が好きでした」
「本?」
はい、と頷いてエルは、幼い頃から読んでいた本を思い出す。
「恋愛小説とか、ミステリー小説とか…たくさん読みました」
「へえ、アンタ字が読めるんだね」
驚いた顔のエメラルドに、エルはきょとんとする。
「え?」
「ほら、この町にはそういう人少ないから」
エルはエメラルドの言葉に驚く。エメラルドは当然のように文字を読んでいるのを見ていたから、彼女にそんな反応をされたことに動揺した。しかし、エメラルドはそれ以上は特に気にした素振りもなく、教育熱心なご両親だったのね、とだけ言って終わった。エルはそんなエメラルドに心の中でほっと胸を撫で下ろした。
「アンタのことが知れて嬉しい。ほかにもないの?好きなもの」
エメラルドはそう言って、エルの瞳を見て目を細めた。エルは、そんなエメラルドに照れくさいような、くすぐったい気持ちになる。
「私、エメラルドさんとダンさんのことが好きです」
「あら、上手じゃないの」
エメラルドはそう言うと声を上げて笑った。そんなエメラルドを見て、エルは込み上げる嬉しさを噛み締める。エメラルドは、食堂に戻ってきたダンを見つけると、ねえお茶が飲みたいんだけど、と声をかけた。ダンは楽しそうにお菓子を囲む2人に気がつくと小さく口元を緩めて、おう、とだけ言うと、キッチンに向かった。
エルは、3年ほど前のことを思い出して、なんとも恥ずかしいような、そして胸が熱いような気持ちになった。
あのあと、ばっさりと切り落としただけの髪をダンが綺麗に整えてくれた。あんな事があったけれど、結局エルは短いほうが気に入ったので、ずっとダンに髪をこの長さで整え続けてもらっている。
エルは一度自分の部屋に戻ると、エメラルドから受け取った硬貨のほとんどを部屋の隅の木箱にしまい、そして外へ出かけた。
港町であるこのあたりは、海岸線にたくさんの船がみえる。人の数もそこまで多くなく、都会のような華やかな雰囲気などとは無縁なところだけれど、エルはとても気に入っていた。鳥のなく声、聞こえてくる人々の笑い声。その生活の一部としてエルを溶け込ませてくれるこの町の空気が、これまで世界からのけ者にされてきたエルにはあたたかくて居心地がよかった。
太陽の光が反射してきらきらと輝く海と隣り合わせに、エルは、エメラルドからお金をもらった日に必ず訪れる小さなパン屋へ向かった。そこでエルは、このパン屋で一番安い小さなクッキーを一枚だけ購入した。毎月の恒例行事のため、パン屋の主人はエルを見ると、今月もがんばったね、と笑いかけた。エルは頬をゆるめて、はい、と頷いた。このクッキーを食べることが、月に一度、エルが自分にするご褒美だった。
ここに来るまでエルは、自分が昔から甘い物、とくにクッキーが好きだということをすっかり忘れていた。自分で作るほど好きだったはずなのに、あの頃は、周りからの視線に疲弊して、自分が好きなものすら忘れていた。それをようやく、エルはここにきて思い出すことができた。
自分が働いたお金で自分の好きなものを買う。初めてそれを実行したときは、途方もなくエルの心を感動させた。何の役にも立たないようにも思えた自分にもこんなことができたのかと、エルは嬉しくて泣きたくなるほどだった。あの頃は消え去りたいとばかり思っていたけど、この世界にこんなに感動することがあるのなら、そんなことにならなくて良かったと、エルは心から思えた。
そして、それ以外のお金のほとんどは貯金していた。エルは、特に何が欲しいわけではないけれど、初めて給料をもらったとき、エメラルドに大事にするんだよと言いつけられていたので、言われたとおりに大事に貯めていた。
エルがパン屋から出たとき、仕事が終わったらしいケインとたまたま出くわした。昨夜のことがあったため、エルはなんとなく気まずい気持ちでいた。それはケインも同じのようで、エルから視線を外して頭をかいていた。
「昨日のことだけど、悪かったな。気にしないでくれ。あんなに冷やかしてきた親方たちも、今朝にはすっかり忘れてたよ。困るよな、ああいう酔っぱらいってさ」
ケインがなんともやりにくそうに言った。エルは彼の言葉に苦笑しながら、はい気にしていません、と返した。そんなエルを少しだけ見つめた後、なあ、とケインが話し始めた。
「お前ってそういえば、そういう話全然聞かないよな」
「え?」
「誰と付き合ってる、どころか、仲良くしてるとか、そんな話を聞かないから。よそ者だからって気にしてんのか?」
相談ならのるぞ、とケインが少し心配そうにエルを見る。エルは、少し目を丸くした後、いえ、と手を振った。
「お気遣いありがとうございます。でも私、とってもよくしていただいていますから」
「…その返答も余所余所しいよな」
「えっ?あっ…ご、ごめんなさい…」
「まあ、いいけどさ。なあ、お前は気になるやついないのか?ジョンか?イーサンか?俺が話つけてやってもいいぜ」
あんなに昨日冷やかした親方のことを迷惑がっていたのに、こういった話題で楽しそうにそうエルに尋ねるケインに、エルは苦笑いを漏らす。もちろん、エルにこの町に気になる人などいない。(ケインは農場で働く少しだけ年下の女性が気になっているという話は聞いたことがあるけれど。)エルは小さく笑って、いませんよ、と返した。
「ええ?つまんねえやつだな」
「あ、あはは、ごめんなさい…」
「普通は1人や2人、いるもんだろうにな。昔もそういうことがなかったのか?」
ケインの言葉にふと、エルは過去の自分を思い出した。あの日、火事に巻き込まれた後、エルは助かったにも関わらず、あの家には戻らずにこの町に来た。
逃げたのだ。あの生活から、アランの婚約者という肩書から。一心不乱になって逃げ出したのだ。
「(…アラン様)」
アランの顔がふっとエルの脳裏によぎった。彼はいまどうしているのだろう。王都の話などこんな田舎に届くわけがなく、そして、知るすべもない。
「(…彼はこの国の王子なのだから、きっと他の誰かと結婚することになっているはず)」
エルは、浮かんだアランの顔を忘れるように小さく頭を振る。エル・ダニエルが死んで、もう3年は経つ。きっと、彼の周りの何もかもがエル・ダニエルのいない生活に変わり、そして彼もそれに順応しているに違いない。そうはいっても、エルに向けていたアランの過去の愛情を思うとエルにはどうしようもない罪悪感が湧き上がる。
「(…考えないようにしてきた。だって、戻っても殺されるだけと言われたんだもの。こうするしかなかった、生きるためなら…)」
エルはそう自分に言い聞かせる。ケインが、黙り込んでしまったエルを心配して、おい、と声を掛ける。エルははっと息を呑んだあと、ケインの方を見た。
「…ごめんなさい、私、恋愛とか、…考えられなくて」
「はあ?なんだそれ」
「幽霊みたいなものなんです、私は」
エルはとっさにそう言った。もしかしたら、自分は生まれ変われたわけではなく、死んだにもかかわらず過去への後悔や未練を残してこの世を彷徨う幽霊なのかもしれない、と。
エルの言葉を聞いて、ケインはきょとんとした顔をした。そして、なんだそれ、と噴き出した。
「変なやつ。っと、もういかなくちゃ、じゃあな」
ケインはそう言って軽く手を振ると、エルに背中を向けて去っていった。エルはその背中を見つめたまましばらく立ち尽くした。
エルは、お気に入りの場所に来た。海とは反対側の、山側にある静かな小川が流れる場所である。生い茂る木々のすき間から木漏れ日が入り込んで、それが頬に当たると暖かくて心地良い。
エルは川の流れる音を聞きながら、ぼんやりと座り込んだ。買ったクッキーを手に持ったまま、食べられずにしばらく考え込んでいた。
先ほど、変な奴と笑ったケインを思い出す。エルは、自分自身を幽霊と称してしまったことに、何も知らない人には素っ頓狂に聞こえる表現だったと反省した。それと同時に、どうしても有耶無耶にしなくてはいけない部分のある自分に嫌気が差した。自分には話せないことが多すぎる。貴族だった頃も、自分の気持ちを偽って、嘘を付くことがよくあった。それが苦しくて生きづらかった。でもこの町では、エメラルドやダンは、本当のことを話せない自分でも静かに受け入れてくれていた。
エルは、息を吐きながらその場に仰向けに倒れ込んだ。昔の自分なら絶対にできなかったことだ、と思うとエルは開放感で一杯になる。幼い頃はしていたような気がするけれど、淑女であることを求められるようになってからは、こんなことは許されなかった。
青々とした草が背中に当たってこそばゆい。鼻の奥を通り抜ける土の匂い、葉っぱの匂い。エルは木々の葉の間から覗く青空を見上げる。そして、大きく深呼吸をした。
あの人はいま、どうしているのだろうか。
ふと、エルはアランのことを思い出す。もう自分のことなど忘れて幸せに暮らしていてほしい。けれど、あの優しい彼がそんなに単純にはいってはいないのかもしれない、とも思う。
エルは一度目を閉じた。アランの顔が、エルはもうよく思い出せなかった。幼い頃は真っすぐに見つめられた瞳も、こんなことになる直前はまともに見られていなかったように思う。あの頃は日々が灰色で、呼吸すらうまくできないほど息苦しかった。周りからの言葉や視線に心をかき乱されて、自分が本当にどうしたいのか、アランのことをどう思っているのか、考える暇すらなかった。
「(…もう忘れよう。忘れるしかない。もう身分も住む世界も、何もかもが違いすぎる)」
エルは一度ゆっくり呼吸をした。そして、ゆっくりゆっくりまぶたを開けた。
その時、自分の頬に影がかかっていることに気がついた。エルは少し不思議に思いながらも目を少しずつ開けた。ぼやける視界の先に、立っている誰かが自分の顔をのぞき込んでいるのが見えた。それは、遠い遠い記憶に眠る、あの金髪の男性だった。
「……エル?」




