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16 元令嬢婚活開始4

ヴェルドに連れられて、エルはお城から少し離れた、王都にあるとあるレストランに連れてこられた。


ウェイターに連れられて、店の奥にある個室に通されると、そこにはもうすでに二人の男性が座って待っていた。彼らは、ヴェルドの見つけてきたエルのお見合い相手と、その父親だと言う。お見合い相手の男性はエルより少し年上で、ふくよかな体型の穏やかそうな見た目をしていて、父親と良くにていた。

エルとお見合い相手についての軽い自己紹介が終わるとすぐさま、ヴェルドとお見合い相手とその父親で商売の話をしはじめた。2人は終始ヴェルドに低姿勢で接しており、ヴェルドはそんな2人に淡々と現実的な話をしていた。

3人とも、このお見合いはもう決まったようなものだというような態度で、エルの存在などないかのように時間は過ぎ去った。




お見合いが終わり、二人に別れを告げて、エルとヴェルドは店から去った。エルはヴェルドとともに馬車に乗り込んだあと、ふと、レストランの傍にあるパン屋に目が入った。エルは、ごめんなさい、と言うと馬車から降りて、その店に向かった。ヴェルドが後ろから何かを言っていたが、エルはその声には足を止めずにいた。



入ったパン屋は、小麦のいい匂いがした。エルは、お店に並ぶクッキーを眺めて、必ずどれかを買って帰ろう、と心に決めた。


「(…そうでもしなくちゃ…)」


エルは、先ほどのお見合いの空気を思い出して気が滅入った。自分の結婚の話であるはずなのに、自分などいないかのように話が進んでいくあの不気味さ。クッキーの1枚でも買って良い思い出を作らなくてはやっていられない。


「(…それがああいう人たちにとっての結婚というもの、といわれたら、…そうなのかもしれないけれど)」


エルは、ため息をつく。すると、背後から、おい、という不機嫌そうなヴェルドの声がした。


「何を勝手なことをしている」

「…ごめんなさい、お土産を買おうかと…」


エルはそういった後、ヴェルドなら、はあ?!とでも言うだろうか、と身構える。しかしヴェルドは、懐から財布を出すと店員に、これで適当にこの辺の焼き菓子を包んでくれ、とお金を渡した。パン屋の店員はその額に困惑しつつも、わかりました、と言うと、並べてある焼き菓子をバランスよく袋に詰め始めた。エルは、え、とヴェルドを見上げた。


「甘いものお好きなんですね」

「なわけあるか。」

「えっ」


ならなぜ焼き菓子を購入するのか意味が分からず、エルはヴェルドを二度見した。ヴェルドはそんなエルには目もくれず、店員から包を受け取ると、行くぞ、と言って歩き始めた。エルは、まだお土産買えてない…、と呟きながら、不可解なヴェルドの行動に首を傾げつつも彼についていった。



パン屋から出ると、ヴェルドは一瞬固まったあと、エルを引っ張って建物の陰に隠れさせた。なんだ、と驚いていると、先ほどのお見合い相手とその父親が、レストランのそばでタバコを吸いながら何やらゲラゲラと笑っていた。ヴェルドとエルがもう去ったと思い込んでおり、リラックスしているようだった。


「どんな育ちの悪い娘が来るかと思っていましたけれど、割ときちんとしていましたね」


息子がそう言うと、父親は、なんだ気に入ったのか、と小さく笑った。すると息子は勢いよく頭を横に振った。


「俺、あんなド田舎の女、嫌です。きっとみんなに笑われます…」

「馬鹿野郎。あの娘を引き取ればレグラス卿のご贔屓がいただけるんだ。四の五の言うな」


父親に叱咤され、息子は口をつぐむ。息子はしばらくの間のあと、でも、と不服そうに話し始めた。


「どうしてレグラス卿は、あの娘をもらい受けたら厚遇してくださるんでしょう?あの娘に何かあるんですか?」

「ああ?どうせ、愛人かなんかだろ」

「愛人?」

「先代が前の戦争で亡くなって、あの年で当主にさせられたんだ。嫁さんももらわにゃならんし、身を固めるために慌てて過去の清算をしてるんだろうよ」

「…はあ…。だからド田舎の出身なのに、それなりに礼儀があったわけですか」


2人はゲラゲラと笑う。エルは、恐る恐るヴェルドを見上げる。ヴェルドはとくに顔色も変えず、…行くぞ、と馬車の方へ歩き出した。エルは、は、はい…、と言って彼の背中を追いかけた。





エルは、ヴェルドと馬車に乗って、お城への帰路にいた。窓から外を眺める。王都を流れる大きな川の隣を馬車は歩いていく。川には、荷物を運ぶ舟がたくさん流れていく。エルはそれを眺めて、吹いてくる風に髪と服を揺らす。そして、ちらりと向かい側で川を眺めるヴェルドを見た。


「…良いんですか、あんなこと言われて…」


エルはおずおずとヴェルドに尋ねた。ヴェルドは、別に、と淡々と返す。本当に気にしていなさそうな彼の様子に、エルは少し拍子抜けながら、また川の方に視線を移した。


「(…そういえば、先代が戦争で亡くなって、ヴェルドが当主になったって…)」


エルは、前に会った時にどこか落ち込んでいたヴェルドを思い出して胸を痛める。戦争の勝利にこの国は喜んでいるけれど、その裏では勝利のために死んだ命がある。当然のことなのに、エルは戦争に勝ったという部分しか目に入っていなかった自分の浅はかさに情けなくなる。


「これ」


ヴェルドは、パン屋で買った包をエルに渡した。どうやら、先ほど彼が焼き菓子を購入したのは、エルにあげるためだったようだ。彼なりのねぎらいのきもちらしい。エルはそれをおずおずと両手で受け取り、ありがとうございます、と頭を下げる。ヴェルドはエルの方は見ずに口を開いた。


「式のことはまた追って連絡する」


あの男性との結婚がもはや決定事項になっている事実に、エルは焦る。ネルとした話を思い出し、エルは、あの…、と口を開いた。ヴェルドは、怪訝そうに、何だ、と言った。


「私、あの人はちょっと……」

「はあ?!」


ヴェルドが怒りを露わにした。エルは怯みつつも、だ、だって、と続ける。


「全然私に興味がなさそうだし、素敵な結婚生活が想像できないというか…」

「あのなあ、お前、結婚というものを履き違えてるだろ。好きだの愛してるだのでするもんじゃないんだ…って、これをお前にわざわざ説明しなくちゃ駄目か?」

「……私の育ての親は、結婚とはそういうものだって教えてくれました」

「……」


ヴェルドは苛立った顔でエルを睨みつける。エルはそんな彼に罪悪感が湧く。当然無茶なことを言っているのは承知だ。けれど怯まずに、ネルから言われた、良いように使ってくる奴は良いように使ってやれ、という言葉を噛みしめる。ヴェルドは怒った顔で前髪をかき上げる。そして、深い深いため息をついた。


「……取り敢えず、もう一度会う機会を作ればいいか」

「は、はい。それでも駄目なら、他の方を…」

「はあ?!」


ヴェルドに威嚇されて、エルは口をつぐむ。ヴェルドは怪訝そうにエルを睨んだ後、腕を組んでまたため息をついた。




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