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16 元令嬢婚活開始3

エルは、お城にあるヴェルドの住み込み用の部屋にいた。部屋にはヴェルドが用意させたらしい、貴族のご令嬢が着るような服や、靴、鞄などが用意されていた。今日、エルはヴェルドの見繕ったお見合い相手に会いに行く。

部屋には機嫌の良さそうなヴェルドにマイク、そして、化粧箱を持った無表情のメリーベルがいた。


「さて、それじゃあ準備を始めてくれ」


ヴェルドはそう言うと、マイクと一緒に部屋から出た。エルは、閉められた扉の内側で、頭がうまく働かないままでいた。

メリーベルは用意された服を眺めて、僕に話してくれたらもっとエリィに似合うものを選んだのに、とぶつくさ文句を言った。


「さて、準備するか。先にドレスに替えよう」


メリーベルがそう言うので、エルは、はい…、と言うと自分が着ていた使用人の服を脱ごうとした。するとメリーベルが、まて、と止めた。


「僕は部屋を出る。自分で服を着ておいて」

「えっ、手伝っていただけるのでは?」

「僕が手伝うのは化粧だ」

「えっ、で、でも、こんな服を一人で…」

「なんとかなる。着たら呼んでくれ」


メリーベルはそう言うと部屋から出ていってしまった。エルは、普段着ているものとは全く違う、複雑なドレスを眺めて途方に暮れた。


「…そ、そこは手伝ってもらえないんだ…」


エルは、固まっていても仕方がないと諦めて、なんとかこのドレスの解決方法を探った。







なんとかドレスを着終わりメリーベルを呼ぶと、ドレスについたレースやリボンの位置を丁寧に直された。そして、化粧台の前に座らされると、メリーベルが慣れた手つきでエルの顔に化粧を始めた。エルは、真剣に化粧をしてくれるメリーベルの顔を目線だけ動かして見つめる。


「…メリーベル様って、本当にすごいですよね。お料理にお裁縫に、お化粧まで。お家で厳しくしつけられたんですか?」


エルの質問に、メリーベルは少しだけ黙った。エルがあれ、と思っていると、まあ…、と曖昧に返した。


「とても厳しい家だったから。男は男らしく家のために働き、時には勇ましく戦う。女は女らしく、家と子供を守る。そうやってずっと育てられてきた。…僕は家の教訓だからというよりも、自分が好きでやってたけれどね」

「そうなんですか。それにしたって、あそこまで極められるなんてすごいです…!」


エルの言葉に、メリーベルは少し照れたように口をとがらせた。

エルはメリーベルの話を聞きながら、どこかで聞いた話だな、とふと思った。思い出そうとしたら、顔を動かさないで、とメリーベルに制されて、思考が中断されてしまった。








メリーベルによってエルの身支度が終わり、ヴェルドとマイクが入ってきた。マイクはエルを見ると、眉をひそめた。


「…なんだか、こんな格好をしたらいよいよ本当にエル様そのものですね…」


マイクは空恐ろしい様子で呟いた。ヴェルドはそんなマイクを見て軽く咳払いをした。


「まあ、馬子にも衣装だな」

「…素直に褒めたらどうだ」


メリーベルが少し苛立った様子で言った。そんなメリーベルを見て慌てたマイクは、ええとてもお似合いですよ!と取ってつけたように褒めた。ヴェルドはというと、メリーベルに圧をかけられても何も言わなかった。メリーベルは2人を見て呆れたように息をついた後、で、と言った。


「約束の時間は?もう出るか?」

「…いや、もうすぐだ」


ヴェルドはそう、少し落ち着かない様子でドアの方を見た。メリーベルは不思議そうに彼の視線の先を見たあと、エルのほうに近づいた。


「気の利かない奴らしかいなかったが、エリィ、君はとても可愛い。今日が乗り気になれなくても、お洒落をして、美味しいものを食べることを楽しんできたらいい。そうしたら、僕も頑張ったかいがある。今日会う相手のために君に化粧をしたんじゃない。君が少しでも楽しめるように、おまじないのためだ」


メリーベルはそうエルに言った。エルは、メリーベルの思いやりに胸が震えた。エルはメリーベルをまっすぐに見つめて、ありがとうございます、と頭を下げて微笑んだ。メリーベルはそんなエルを見て目を細めると、うん、やっぱり可愛い、と言った。エルはメリーベルにそう言われて、嬉しさと恥ずかしさで少しずつ頬を赤くした。


「(…ネルに言われた通り、時間稼ぎをしなくちゃ…。それはまあ、お見合いが終わった後の話ではあるし、メリーベル様の言う通り、美味しいお料理を、素敵な格好で楽しめる、ことを目当てに今日は頑張ろうかな…)」


エルがそんなことを考えていたら、扉がノックされた。ヴェルドは、来たな、と小さく呟いて口角を上げると、どうぞ、と扉に声をかけた。扉が開くと、片手に分厚い資料を持ったアランがいた。アランは扉をあけた先にいたエルを見て固まった。エルも、アランの方を見て硬直した。2人がお互いを見つめ合って、時が止まったようになる。

ヴェルドはにやりと口角を上げた後、すまないな、と妙に爽やかにアランに近づいた。


「前に貸した会議の資料、返しにこさせて悪かったよ。もうすぐ出なくてはいけなくてな、君のところまで行く時間がなかったんだ」


ヴェルドはそう言うと、アランの手から資料を受け取った。アランは、少し動揺した様子で、エルから視線を外せないままでいた。ヴェルドはアランが狼狽えているのを察すると、また口角を上げて、次はエルの傍に行った。


「今から俺は、彼女の見合いの仲介人として出かけるんだ」

「見合い…」


アランは呆然と呟く。ヴェルドは、ああ、と頷いた。


「それなりの規模の商家の次男坊だ。ど田舎の貧乏平民からしたら破格の相手だがな、アラン、君のことでこの女には世話になった手前、こちらも礼をしないわけには行かないからな」


よかったな、とヴェルドはエルの肩を叩いた。


「幸せ者だな、お前は。女として、これ以上のことはないな」


ヴェルドはそう気味が悪いほどの優しい声でエルに言った。マイクは同調の頷きを深く、何度も繰り返している。エルはさっと目を伏せて、アランから視線をそらした。アランがまだエルのほうをみているのはわかっていたけれど、エルはそちらの方はこれ以上は決して見られなかった。


「…気の合う、良い、相手だといいな」


アランはそう言うと、邪魔をした、と言って部屋から出た。エルは唇の震えが止まらない。

ヴェルドは、素知らぬ顔で、ほら行くぞ、とエルを急かした。エルは、恨めしい気持ちでヴェルドを見上げる。ヴェルドは、そんなエルを横目で見ると小声で、あいつを助けに来ただけ、だろ、と言った。エルは、え、と呟く。


「またあいつと想い合う同士になる気はない、そうだよな」


ヴェルドはエルにだけ聞こえるようにそう問うた。エルは少し動揺しながらも頷いた。ヴェルドは、それでいい、と言うとエルから目をそらした。


「(…そんな厚かましいこと願ってなんかない…)」


エルはそう自分に確認するけれど、ならばなぜさっき、自分はヴェルドを、恨めしい気持ちで見てしまったのか。

メリーベルは異様な空気に困惑した様子で眉をひそめる。


「…深い事情は知らんが、…ヴェルド、お前の性格が終わっているのはわかった」


メリーベルがそう言うと、何のことかわからん、とヴェルドは素っ気なく返す。メリーベルは、そんなヴェルドの背中を睨見つける。

マイクは、腕を組むと、うーん、と青い顔をした。


「エリィさんが他の人と結婚することを殿下に印象付けるのはいいとして…変なふうに殿下を刺激しないといいんですが…」

「どういう意味だ?」


ヴェルドが怪訝そうに尋ねる。マイクは顔を青くして、殿下が強硬手段にでたらの話ですよ!とヴェルドに言った。ヴェルドは面食らった顔をした後、なわけあるか!と吠えた。


「アランはそんなことしない!ぜったいだ!」

「絶対なんてありえません!なんでも予想外のことは起きます!!」

「アランに限ってありえない!!それは解釈違いだ!!」


言い争う2人に、時間はどうなんだ、とメリーベルが冷たく突っ込む。マイクは時計を確認したあと、軽く咳払いをした。


「さあエリィさん、お相手を待たせるといけませんから、お急ぎなさって」


ほら、とマイクに急かされて、エルは頭が真っ白になりながらも歩き続けるしかなかった。



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