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16 元令嬢婚活開始1

アランからの話を聞いてからずっと、エルはどこか呆然としていた。感情はぐちゃぐちゃで、ふとしたときに目から涙がこみ上げた。何も考えないために仕事の手を動かしても、それでもふいに心臓が痛みだし、呼吸もままならなくなった。







「エリィさん、前に話していた結婚の話、まとまりましたよ!」


久しぶりにマイクに会議室へ呼ばれたかと思うと、ヴェルドもいたその場でそんなことを言われた。エルは感情が追いつかずに、うまく反応ができなかった。


「えっと…あの」

「結婚相手探しの相談をヴェルド様にしたら、いい相手がいるとご紹介いただけたんです」


マイクはそう嬉々とした様子で話し続ける。ヴェルドも機嫌良さそうに座ってエルのほうを見ている。エルは、2人を順番に見ながら、2人とも私を追い出したくてたまらないんだと悟る。用なしになった平民を追い払いたい2人の顔を見ながら、エルはまた、世界から弾かれていった貴族の頃を思い出して頭がくらくらとする。


「(…まあ、ヴェルドが私を追い出したいのは前からか…)」

「レグラス家領で商売を営む家の次男坊です。王都からは離れていますが、大きな街の、その中でもかなり大規模な商家です。田舎の港町のあなたでは普通あり得ない縁談ですよ」


よかったですねえ、とマイクはエルに屈託のない笑顔で言う。エルは困惑しながらマイクを見る。


「…そんな大きな商家の方がよく私なんかとの結婚を了承してくださいましたね」

「俺からの口利きだ」


ヴェルドがそう言った。エルは、え、と声を漏らした。


「お前にはなんだかんだ世話になったからな。アランは、怪我が治ってから会議にも出るようになった。臣下たちとの交流も少しずつするようになってきた。あの調子なら新しい婚約者もじきに決まるだろう。と、言うわけでやっとお役御免だな、よかったな」


ヴェルドは嫌味ったらしくエルに言う。マイクが、そういえば、とヴェルドの方を見た。


「今度マシュー様とヴェルド様と、殿下がお出かけされるって聞きましたよ。本当ですか?」

「ああ。アランの快気祝いと、マシューがこれから城で働くことの歓迎会でな」


ヴェルドの言葉に、ああよかった、とマイクが嬉しそうに両手を合わせる。


「(…そこまで回復したんだ…)」


エルはぽつりと、なら本当に私はもういらないんだ、と思い知らされる。ヴェルドから、見合いの日の説明などをつらつらとされたけれど、エルの頭にはうまく入ってこなかった。







「…ィ゙…エリィ!」


はっとして顔を上げると、ロゼがエルの目の前で手を振っていた。エルは、心配そうなロゼの顔を見て、今自分がメリーベルの部屋でお茶会に参加していたのだということを思いだす。お茶会にはメリーベルとロゼがいた。


「どうかした?なんだか今日、心ここにあらずよ」

「あっ…ごめんなさい…」

「話なら聞く」


メリーベルがエルの目をじっと見つめた。エルはメリーベルとロゼからじっと見つめられて、そうか、2人には話を聞いてもらえるんだと思い出す。エルは自分の頭のなかで少し話を整理した後、じつは…、と話し始めた。





「ええっ!!けっこん!?」


ロゼが口元に手を当てて驚いた。メリーベルも目を丸くしている。エルは、はい…、と苦笑いをした。


「…もう殿下の具合もよくなられたようで、私はもうお役御免、ってことで…」

「…前も思ったけれど、普通にあなたの元からの仕事に戻ればいいんじゃない。なぜそんなにもヴェルドは顔が似ているだけのあなたを追い出そうとするの?」


ロゼがそう不服そうに言われて、エルは返答に困る。しかしロゼはすぐに、そっかあ、結婚かあ、と目を輝かせた。


「えーおめでとう!!うらやましい…!エリィに先を越されちゃったわ!私も早く結婚したいっ…!」


ロゼは、いいなあ、とエルを羨望のまなざしで見つめる。ロゼの言葉に、これはおめでたいことで、羨ましがられることなのか、と不思議な気持ちになる。エルは、そ、そうですか…?と首を傾げる。そんなエルに、そうよ!とロゼが力説する。


「だって、レグラス家領の中でもさらに大きな商家のお家の人でしょう?普通ならちょっと考えられないわよ!エリィの実家の方も喜んでいたんじゃない?」


ロゼがそう、目を輝かせて言う。エルは戸惑いながらも、まだ家のほうには…、と濁す。ロゼは、そうなの?早くお伝えしたほうがいいわ、きっと喜ぶもの、と微笑む。エルはそんなロゼに小さな笑顔を返す。


「(…そうよね、普通の貴族の方からしたら、結婚は家のためにするものだもの、そう思うのも当然よね…)」

「乗り気じゃないのか?」


メリーベルがそう、エルに尋ねる。エルは、え…、とメリーベルの方を見る。メリーベルはじっとエルの目を見ている。ロゼは、ええっ?と驚いた顔をした。


「乗り気じゃないの?なぜ?ほかに好きな方がいるの??」

「そ、そういうわけでは…」

「ならいいじゃない!それに、まだお会いしたこともないんでしょう?会ってみたら素敵な方かもしれないじゃない!会う前からそんなにブルーになっちゃだめよ」


ね、とロゼはエルの背中を叩く。エルは、そ、そうですよね…、と曖昧に返す。メリーベルは、じっとエルのほうを見た後、なら、と口を開いた。


「お見合いの日、僕が化粧をしてあげよう」

「え…え?」

「綺麗に化粧したら、多少は気分も上がるだろう」


メリーベルの言葉に、それはあなたがエリィにお化粧したいだけでしょ、とロゼが笑う。メリーベルは、それもある、と淡々という。エルはメリーベルの目を見つめたあと、で、ではお言葉に甘えて、お願いします…、と、頭を下げた。

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