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13 戦の後2

エルがヘレナの部屋に向かうと、最近のお茶会で仲良くなったのかロゼもいて、ヘレナとメリーベルとリズの四人で楽しそうにお茶会をしていた。


「でも、とうとうアラン殿下も重い腰を上げられたみたいですね。どなたをお相手に選ばれるんでしょうか」


楽しそうにリズがそう言った。ヘレナが、あら、と微笑んだ。


「何を他人事みたいに言っているの?あなたも立候補しようと思えばできるじゃない」

「やだ…」


リズは口元に手を当てて笑った。


「そんな、家格が足りませんよ。かつてのどなたかみたいなこと、私には恥ずかしくてできません」


リズはそう、どこか含みのある言い方をして嘲笑した。彼女がエル・ダニエルの話をしているのは明白で、ロゼは気まずそうにティーカップに口をつけた。ヘレナはそんなリズを見て、まあ、と笑った。


「なにもおかしくなんかないわ。王子の好きなご令嬢と結婚する。それが今の陛下がお決めになった方針ですもの」

「でも…ねえ」


リズは、ヘレナの言葉に曖昧に返す。ロゼは空気を変えようと、そういえば!と話し始めた。


「パーク侯爵がはりきってご令嬢をつれていらっしゃっていたのを見たわ。シェリーって、昔からアラン殿下のことをお好きだったそうですし、熱意は殿下に伝わりやすそうですよね」

「教養も愛嬌もあるし、なによりとってもお美しいし、きっと殿下もお心が惹かれるんじゃないかしら」


リズはそう言って手を合わせて微笑む。メリーベルは、エミリーはわからんが、マリアはあんな様子だし、最有力候補だろうな、と淡々と言った。ロゼはそんなメリーベルに苦笑いをしたあと、あっ、と時計を見て声をもらした。


「いけない、私そろそろ行かなくっては。ヘレナ様、メリーベル、失礼いたしますわ」

「あら私も」


リズはそう言うと、ヘレナの方をみて、それでは失礼いたします、と頭を下げた。ヘレナは2人の方を見ると、またいらして、と微笑んだ。2人はまたヘレナに会釈をすると部屋から出た。

ヘレナはメリーベルと向かい合ったままで、小さくため息をついた。


「…この戦争の勝利で、前々から他国への武力行使を推し進めていた改革派が更に力を持った。アラン殿下の武功もこれでさらに広く知れ渡って、貴族たちの支持も厚くなる。力の強くなった改革派の長の家のご令嬢と、貴族から多く支持を受けるアラン殿下がご結婚することになったら、次の国王に選ばれるのは…」


ヘレナは窓の外を遠い目で見た。メリーベルは、じっとヘレナを見つめる。


「…次の陛下は長子たるラインハルト殿下です。ヘレナ様の母国との友好を、この結婚で強くした。ラインハルト殿下の支持だって強い」

「…でも殿下と私には…。私が役目を果たせていないから…」


ヘレナはそう言うと、震える手で自分のお腹を触った。メリーベルはヘレナの傍に行くと、その手の上に自身の手を重ねた。ヘレナは揺れる瞳でメリーベルを見つめた。メリーベルは真っ直ぐにヘレナを見つめた。ヘレナはゆっくり微笑んだ。


「…ごめんなさい、こんな話」


ヘレナの言葉に、メリーベルは頭を横にふるふると振った。


「僕がそばにいる」


メリーベルはそう真剣にヘレナに伝えた。ヘレナは目を丸くすると、ゆっくり微笑んだ。







ヘレナの部屋の掃除を終えて、エルは次の仕事場へ向かった。


「(…アラン殿下が次の国王になる、という道筋ができてきてるんだ…)」


いつの間にかそんなふうに変わっていたのかと、エルは驚く。そこでエルは、あれほど貴族たちがアランのもとへ訪れていた本当の意味がようやくわかった。


「(…昔はみんな、アラン殿下に見向きもしなかったくせに)」


エルはふと、そんなことを思ってもやもやとする。アランがまだ病弱だったころ、誰もアランのそばには来なかった。あとから知った話だけれど、アランのことはどうせすぐに死ぬだろうと思われていたらしい。

病弱な王子を産んだアランの母は、ひどく周りから責められたという話も聞く。彼女はミシェルを産んだあとすぐに亡くなった。悲しいことに、彼女が亡くなったのと入れ替わるように、アランは病弱だった体がどんどん快方に向かった。

エルは、調子の良すぎる周囲に、なんとも納得のいかない気持ちになる。


「(…ヘレナ様のことも心配だわ)」


エルは、先ほどのヘレナの様子にため息をつく。ラインハルトと彼女は結婚して数年経つけれど、ヘレナが妊娠したという話は聞かない。2人は仲睦まじくしている様子であるのに子供がまだいないことが確かに不思議である。


「(…そうか、だからヘレナ様が、役目が果たせてないからって…)」


エルは、ヘレナの言ったことがつまり、自分の体のせいで子供ができていないことを負い目に感じているのだということだとわかり、なんとも暗い気持ちになる。ヘレナが一身に背負いすぎていないだろうか、そう不安になるけれど、エルにできることなどなにもなかった。





夕ご飯の時も、使用人たちはアランが誰を選ぶのかで話題が持ちきりだった。今日はどこどこのご令嬢が入っていくのを見かけた、という話を聞く度に、エルはこれでアランの立ち直りももうすぐだと、そう安堵した。







エルは、習慣になっている月に一度の教会への礼拝へ向かった。

礼拝堂の中で祈りを捧げて、エルは教会の敷地内を静かに歩いた。すると、外から礼拝堂を見上げるルーナの姿があった。


「お久しぶりです、…こんにちは」


エルは少し遠慮がちにルーナに話しかけた。ルーナはエルを見ると目を丸くして、そしてどうしていいのかわからなさそうに目を泳がせた。エルは、やはり彼女が自分とは話す気がないのだと改めて悟ると、それでは、と微笑んでその場を去ろうとした。すると、ルーナはエルの腕をつかんだ。エルは驚いて彼女を振り返った。

ルーナはエルの腕をつかんだものの、どうしていいのかわからないようで、黙ったままうつむいて目を泳がせ続けていた。エルは少し考えたあと、あの…、と口を開いた。


「ご迷惑…じゃないですか?しつこく私、話しかけてしまって…」


エルの質問に、ルーナは勢いよく頭をふるふると振った。そして、遠慮がちにエルを見つめたあと、少しもぞもぞと手を動かすと、自分の口の前に両手の人さし指を持っていき、バツを作った。エルは、彼女のジェスチャーに、えっと…、と考える。


「えっと…声が出ない…?」


エルの解答に、ルーナは勢いよく頷いた。エルは、ああ、と理解したように両手を合わせた。


「風邪で声が出ない!」


エルの自信満々の解答に、今度はルーナは眉を下げて、ゆっくり頭を横に振った。エルは、えっ、と声をもらしたあと、恐る恐る彼女の目を見た。


「もしかして…話せない…とかですか?」


まさか、と思いながらエルが尋ねると、ルーナはゆっくりと頷いた。エルは少し驚いて目を丸くする。


「そうだったんですか…。私てっきり…、私とは話したくないのかなって…」


エルはだんだん安心した気持ちになりながら吐露した。するとルーナは勢いよく頭を横に振った。エルは、最初の印象よりもずいぶんチャーミングな彼女に、ゆっくりと微笑んだ。


「あっ、じゃあ、筆談はどうでしょう?ええと…紙とペン…は、持ってきてないや…」


エルがポケットを探ると、ルーナは頭を横に振った。エルは、え、とルーナの方を見た。


「文字…は、書けない…ですか?」


エルの質問に、ルーナはぎこちなく頷く。


「では、習ったことは?」


この質問にも、ルーナは頭を振った。エルは、え…、と小さく声を漏らす。


「(…何かの事情で文字を書けないことはあっても、貴族の人間が文字を習わないことはあるのだろうか…)」


エルの知っている限りではそういったことはなかった。けれど、それぞれの家で色々な理由があるのだろう、とエルは納得したあと、…あの、と口を開いた。


「よろしければ、お教えしましょうか?」


ネルの言葉に、ルーナは目をぱっと輝かせた。そして、何度も頷いた。エルは、そんなルーナが可愛くてつい口角が上がった。


「それでは、今日は私何も持っていませんので、次に会えたときに…。あっ、ルーナさんはいつここにいらっしゃいますか?」


エルの質問に、ルーナは困ったように手をもぞもぞとさせる。エルは自分から聞いておきながら、彼女の思っていることを知るすべがないことを今更思い出す。エルは、ごめんなさい、と謝ると、うーん、と口元に手を当てて考えた。


「…では、私、2週間に一度は半日休みの日が、月に一度丸一日休みの日があるんです。…いつになるかは不定期ですが。それぞれの休みの午後に毎回ここに来ます。その時に奇跡的に会えたら…というのはどうでしょう?」


エルの提案に、ルーナはこくこくと頷いた。エルはそんなルーナに微笑んで、では、そうしましょう、と言った。

するとルーナは、自分の方の指をさして、首を傾けた。エルは、え?と同じように首を傾げる。 


「えっ…と?」


ルーナはもどかしそうな顔をしたあと、今度はエルの方を指さしてまた首を傾げた。エルは同じように首を傾げたあと、あっ、と声をもらした。


「ごめんなさい、申し遅れました、私、エリィと申します、お城で下働きをしているものです」


エルはそう言うとルーナに頭を下げた。ルーナは、自分の思うことが通じて安心したような顔をして、こくこくと頷いた。

エルは、ルーナが自分の名前を知りたがっていた、ということで、その前の質問が、なぜルーナの名前をエルが、知っているのかを知りたがっているのだと理解した。


「あの、ルーナさんのお名前は、教会の方が呼んでいらっしゃるのをたまたま聞いて…。勝手にお呼びしてごめんなさい」


エルはルーナに頭を下げた。ルーナは頭を横にふるふると振った。エルは、えっと、と少し口籠ったあと、なんでもないように、ダニエル男爵の奥様…なんですよね?と尋ねた。ルーナはエルの言葉に、明らかに目の光を失った。エルは、彼女が望まぬ結婚をしたのだろうことをそれで察した。ルーナは、諦めたように頷いた。エルは、そ、そうなんですか…、と彼女の心情を察しながらも何も言えずに目を泳がせる。


「…そんな高貴なお家の奥様に軽々しく話しかけてしまって、本当に私、失礼なことをして…」


エルが今更そんな事を言うと、ルーナは今度はエルの右手を彼女の両手で包んで、そして、頭をゆっくり横に振った。そして、エルの目を見ると嬉しそうに目を細めた。エルはそんな彼女に、安心した気持ちで笑った。

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