12 いつかがくるその前に、あなたに伝えたいことがある2
エルとアランとフィリップスは、エメラルドとダンの食堂に向かった。食堂にはいるとダンがいて、エルのが2人を連れてきたのを見て驚いたように目を丸くした。
「泊まりたい旅人って、エリィの知り合いなのか?」
ダンはそうエルに尋ねた。一体どういう設定になっているのだろうかとエルは困惑したが、フィリップスについていった子どもたちが口々に勝手に説明したのだと気がつくと、なんだか微笑ましく思った。
「その、…お城でお世話になっている方です」
エルは、どこまで説明していいかわからずにそう答えた。するとフィリップスが、笑顔でダンの前に向かった。
「申し遅れました。私はフィリップス・カーンといいます。カーン侯爵家の者です。そしてこちらは、第三王子にあらせられるアラン殿下です。この度は突然の無理なお願いを聞き入れてくださり、深く感謝いたします」
フィリップスが包み隠さずに説明しだしたので、エルは目を丸くした。ダンはそれ以上に呆然としたあと、ち、ちょっとお待ちを…、と慌てて居住スペースの方へ行った。しばらくの間のあと、えーーっ!!というエメラルドの声がした。その後慌ててダンが戻ってきて、ちょっとこっちへ、と3言って人をエメラルドが眠る寝室へ案内した。
「こんな格好で失礼」
エメラルドは、特に失礼とは思っていない、むしろ威嚇するような顔で、うつ伏せのままアランとフィリップスを順番に見た。怖い表情かつ、お城では見かけない体は男性なのに女性の格好をしたエメラルドに特にひることなく、フィリップスはいつもの爽やかな笑顔で、突然の訪問失礼いたします、と話しかけた。
エメラルドはそんなフィリップスには絆されずに、じっと2人を見つめた。
「…で、エリィのことで争った2人が、彼女を追いかけてはるばるここにやってきたわけね?」
エメラルドのずれた解釈に、エルはずっこける。
「え、エメラルドさん、全然違いますっ…!」
「じゃあなに?なんでこの2人はエリィのとこにきたわけ?」
エメラルドの質問に、エルは返答に困った。自分がアランの元婚約者と顔が似ていて、それで…という話をもうしてしまうべきかどうか、エルは頭のなかでぐるぐると考える。
すると、真面目な顔をしたフィリップスが、直に戦争が起きることはご存知かと思います、と話し始めた。
「殿下は王国軍の指揮を務めていらっしゃいますので、戦略を最後まで練ろうということでここまで来たのですが、当初の予定より到着が遅れ、泊まるところを探しておりました。私は王国軍の騎士ですので、殿下の付き人としてこちらへ参りました。お城で働いてくださっているエリィさんには日頃大変お世話になっておりますが、ご家族の方のご心配に及ぶような関係ではございません。どうかご安心を」
フィリップスの説明に、エメラルドは、なるほどね、と納得した様子で頷いた。とりあえず、この場がなんとかなったことに安堵していたけれど、エルはすぐに、そういえばエメラルドは以前アランと顔を合わせていることを思い出した。
「(私のことを尋ねてきた人が、実は王子だったなんてわかったから、エメラルドさん、さすがに不審に思うのでは…)」
エルは怯えながらエメラルドの様子をうかがったけれど、彼女は特に気にしてはいなかった。さすがに一度会っただけの人の顔まで覚えていないかと、エルはそう思って安心することにした。
アランとフィリップスは、エルの部屋の向かい側にある空いた部屋で今晩寝ることになった。エルは2人をその部屋に案内した。エルは部屋の前で、それでは私はこれで、と頭を下げた。
「どうもありがとう、エリィ」
フィリップスはそうエルに微笑んだ。エルは、いえ、と頭を振った。
「ご家族もご無事だったことだし、エリィもしばらくしたらお城に戻るのかな?」
「はい。明日にはここを立つつもりでした」
「そう、なら、私たちと一緒に帰ろう。馬車を待たせてあるから。その方が早く帰れるよ」
「い、いいんですか?」
「よろしいですか、殿下」
フィリップスはそうアランに尋ねた。アランは、構わない、と返した。フィリップスはそんなアランに頭を下げたあと、よかったね、とエルに微笑んだ。エルは、ありがとうございます、と頭を深々と下げた。
その時、店のほうから騒がしい声が聞こえた。エルは、なんだろう、とつぶやいてから声の方に向かった。フィリップスが、私も行くよ、とエルについてきた。
食堂に向かうと、店に押し寄せる町の人と、それをなんとか返そうとするダンの姿が見えた。
「ど、どうしたんですか…?」
エルは慌ててダンの傍に近づいた。ダンは困ったようにエルの方を見た。
「みんな、エルが帰ってきたのを聞いて、なら店が開けられるだろって押しかけてきた」
「ええ…」
いい加減飯食わせろ!と町の人がドアの向こうで騒ぐ。エルは、そのうち帰るだろ、と困惑した顔で言うダンを見上げて、あの、話しかけた。
「私、お店手伝います」
「無理だ。今日は休め」
「大丈夫です!久しぶりだから、迷惑をかけるかもしれませんが…」
エルはそう言って苦笑いをした。そんなエルを見たダンが、困った顔をしたあと、眉を下げて優しい目でエルを見た。
「…なら、ありがたく店を開けるかな」
「はい!」
ダンは、わかったわかった、と言いながらドアの方に向かい、準備してから開けるから、と客たちに言いにいった。その背中を見て、久しぶりにここで働けることにエルは胸がおどった。
「嬉しいな、ここのスープが恋しかったんだ」
フィリップスはそう言ってエルに微笑んだ。エルはフィリップスを見上げて、はい!と笑顔で返した。




