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11 その美しい令嬢には棘があるのかもしれない2

マイクが扉を開けたその先に座る女性に、エルは一瞬で目を奪われた。白い肌にちいさな顔、桃色の長い少しウェーブがかったきれいな髪、華奢な体、大きな瞳、その全てが作り物と言われても信じられるくらいに美しい女性がそこにいた。


「(う、美しすぎる…)」


凛とした表情ではあるものの、まだ幼さを残すその令嬢は、マイクの方に視線を移した。マイクは、お待たせしております、と令嬢の隣に座るハリソン公爵に低姿勢で近づく。ハリソン公爵は、立派なひげをたくわえた、丸い体をした男性で、威圧感を出しながらマイクに訝しげな瞳を向けた。


「…アラン王子のお姿が見えないのだが?」


ハリソン公爵の言葉に、マイクは気まずそうな顔を一瞬浮かべた後、申し訳ございません、と頭を下げた。


「殿下は直に起こる戦のためにご尽力されておりますゆえ、いつにも増してお忙しい身でして…」

「殿下の仕事は戦だけではないぞ」


ハリソン公爵はそう言いながら軽く自分の膝を叩いた。


「王子の仕事は何よりも王家の存続、権威の維持!それをわかっておられるのか?」


説教じみた口調で、ハリソン公爵はマイクに怒鳴りつける。マイクは、どんどん体が縮こまる。


「エドワード王子も女嫌いだか人嫌いだか知らんが一向に結婚をしない。あの偏屈はなんとかならんのか?ラインハルト王子は同盟国の姫とちゃんと結婚したところまでは良かったのに、ヘレナ妃と一向に世継ぎを作らない。もう結婚して何年になるというのだ?なによりもアラン王子だ!アラン王子のあの病気はいつまで治らんのだ。ダニエル家のあの娘が死んでもうどれだけ経つ?」


ハリソン公爵は深い深いため息をつく。


「あんなに優秀だと周りが目をかけていたとは言え、アラン王子は思えば昔から異常だった。王家の嫁にするには恥ずかしいような格の家の娘にやたら入れ込んで…。あの没落貴族の娘がやっといなくなったと思ったら今度はどの娘にも興味を持たない。女だけじゃない、人に何の興味もなくなった」

「お、お言葉ですが閣下、アラン殿下は最近、レッド侯爵家のご令嬢と…」

「ワシの家の娘と会えと言っておるのだ!!」


ハリソン公爵はさらに声を荒げた。マイクは、慌てて頭を下げて、今一度殿下をお呼びしてまいります…!と早口で言うと、逃げるように応接室から出ていった。


ご立腹のハリソン公爵に、ツンとした表情を崩さないエミリー。エルは、異様な空気の中すさまじい緊張感を持って2人にお茶を出した。ハリソン公爵は腕を組むと、深い深い息を吐いた。


「レッド家の娘の何がいいんだ。ダニエル家の娘といい、王子の趣向がわからん。あんな派閥の力の弱い家の娘なんか選んで…。三男とて、アラン王子なら派閥の後押しを上手く得れば国王になれるかもしれんというのに…」


テーブルを指で弾きながら、ハリソン公爵はイライラした様子で言った。


「…あの第二王子と第三王子をこの状態のまま甘やかす陛下にも問題がある」


隣に座るエミリーは、優雅な手つきでカップをソーサーから持ち上げ、一口紅茶を飲んだ。そしてふう、と息をついた後、淡々とした様子で話し始めた。


「次の王家の人間を産むために、少しでも王子が好意のある相手と結婚させる、という陛下のお考えに、お父様も納得されてたじゃありませんか」

「限度があるだろう。このままじゃ三人も王子がいるのに、跡継ぎが一人も生まれずに王家が途絶えてしまう。ああ…ヘレナ妃が立派な故王妃のようにちゃんと子どもを産んでくれればまだこんなに頭を抱えなくてもよいのに…」


ぎりぎりと歯を噛み締めながらハリソン公爵は呻く。エミリーは横目でそんな父を見つめる。


「…アラン王子が病弱だった頃、王妃は周りから随分責められていたという話をお父様から耳にしましたけど、いつのまにお父様にとってそんなに尊敬されるような存在になられたのかしら?」

「…そんな事はいい、いいかエミリー」


ハリソン公爵はエミリーの方を見て低い声で言った。


「お前のその美貌があれば、必ずアラン王子の心も動くはずだ」

「…どうかしら。これまで誰に何を言われても微動だにしていなかったのに。そもそも、先日の舞踏会でも私に興味なさそうでしたけれど」


エミリーはそうつんと返す。ハリソン公爵は、何を言う、と笑いながら言った。


「お前と目を合わせて心が揺れない男が今までいたか?お前のその美貌はこういう時のためのものだ。必ずや王子の心を射止めるんだ」


そのためにもまずは王子に会ってもらわねば、とハリソン公爵は息巻く。エミリーはそんな公爵からすっと視線をそらすと、黙ってカップに口をつけた。





不機嫌なハリソン公爵と、ツンとしたエミリーをしばらくの間持たせたけれど、アランは一向に現れなかった。

とうとうしびれを切らしたらしいハリソン公爵は、とうとう無言で立ち上がった。エミリーが、お父様、と声をかけると、城での仕事をしてくる、と低い声で言うと部屋から出ていった。エミリーはハリソン公爵が出たのを見送ると、小さく息をついた。そして、足を組むと、気だるそうに頬杖をついた。


「ああもう、時間の無駄…」


人をなんだと思ってるのよ…、と苛ついた様子で彼女は言った。そして、空になったティーカップをちらりと見ると、ねえ、とエルに声をかけた。


「お茶がもうないわよ」

「は、はい、ただいま…」


エルは慌ててお茶の準備を始めた。そんなエルに、エミリーは眉をひそめる。


「気が利かないわよ、あなた」

「た、大変失礼いたしました…」


エルは、不機嫌なエミリーに平謝りをしながらお茶をいれた。エミリーは、謝るエルを無視してカップに口をつけた。


「っ!!熱いわよ!!」


エミリーはそうエルに怒った。エルは、も、申し訳ありません…!とまた平謝りをした。


「(…いや、淹れたてなんだから熱いに決まってるのでは…)」


エルはそんな本音を飲み込みながら、エミリーに謝った。エミリーは、熱さから目に涙を浮かべつつ、機嫌悪そうに外を眺めた。

エルは、そんな彼女の横顔を見つめた。絵になりそうなほど美しい彼女に、エルは彼女に怒られた直後にも関わらず見惚れてしまった。

すると、エルの視線に気がついたのか、エミリーはエルの方を見た。エルは動揺して体を揺らしたあと、慌てて目をそらした。そんなエルに、エミリーは怪訝そうな顔をする。


「なによ」

「た、大変失礼いたしました…」


人を見続けることが失礼なことは百も承知だったはずなのに、エルはつい彼女を見つめてしまったことを恥じた。エミリーは不機嫌そうに眉間にしわを寄せると、なにかと聞いているの、とエルに詰めた。エルは、謝るだけでは逃れられないと悟ると、動揺から目を泳がせた。


「あっ…あの、その…う、美しくて……」


エルの馬鹿正直な返事に、エミリーはさらに怪訝な顔をする。


「その…同性として憧れるというか…」


エルは、も、申し訳ありません…、とまた頭を下げた。エミリーはそんなエルに少しだけ目を丸くしたあと、何も言わずに窓の外に視線を移した。これ以上詰められなかったことに、エルはほっと胸をなでおろす。

しばらくの間黙ってエミリーは待っていたけれど、とうとう待ちくたびれたのか、ソファーから立ち上がった。


「外の空気が吸いたいわ。どこか外で散歩できるところはあるかしら」


エミリーにそう尋ねられて、エルは、ご案内いたします、と言うと、彼女を部屋から出すために、廊下へ続く応接室の扉を開けた。







エルはエミリーを中庭へ案内した。エミリーはベンチに腰掛けると、空を見上げて深呼吸をした。

エルはそんな彼女から離れた、中庭に面した廊下で立って待っていた。


「(…事前に聞いてはいたけど、本当に気が強いお方だな…)」


エルはそう、彼女に給仕をしている間ずっと強張っていた体をようやく少し緩めた。


「(…まあ、マリア様が穏やかすぎただけか…)」

「あれ、エリィ」


声をかけられて、顔を上げるとそこにはフィリップスがいた。エルは、フィリップス様、と言ってから頭を下げた。フィリップスはそんなエルにいつも通りの優しい笑顔を向ける。


「どうしたの、こんなところで」

「えっと…アラン殿下に会いに来てくださったハリソン公爵家のエミリー様が、その、少し休憩なさりたいと…。かなりお待たせしてしまっていますし…」


エルの言葉に、フィリップスは事情をなんとなく察したのか苦笑いを漏らした。


「少し前は殿下の調子、良かったのにね」

「あ、あはは…」

「でも、前までの殿下では考えられなかったよ。すごいよ、エリィは」


フィリップスはそうエルに優しく言った。エルはフィリップスを見上げた。彼の優しい瞳を見つめ返しながら、エルのなかに罪悪感が芽生える。


「…私は何もできていません」


そんな事実をエルはかみしめる。自分はただ、この顔でアランに優しくしてもらっているだけで、自分自身は何もできていない。


「(…ミシェル様のこともただ見送るだけ、アラン様のこともただこの顔で接しているだけ。何にもない、私には…)」


エルは目線を少し下げる。このまま何もできないまま、戦地へ赴くアランを見送るしかないのか。ヴェルドの、アランが死ぬつもりだという言葉が蘇る。


「(…私に一体、何ができるんだ…)」

「…ねえエリィ、最近姉が君の話をよくするんだ」


フィリップスはそう、優しくエルに話しかけた。エルは、えっ、と声を漏らし、フィリップスを見上げた。フィリップスはエルと目が合うと優しく目を細めた。


「次はエリィにどの本を貸そうか、とか、この本を読んでどんな感想を言うだろうか、とか、楽しそうにしてる。ずっ他人に分厚い壁を作る人だったのに、エリィのことを好きになってから、少しずつ他の人にも興味を持つようになってきた」


フィリップスの言葉に、エルは、メリーベルから本を貸してもらったり、その本の感想を言い合ったりしていたことを思い出す。エルはメリーベルが自分の話をしてくれていたことが嬉しくて頬が内側からあつくなる。フィリップスはそんなエルを見つめて安心したように微笑む。フィリップスを見て、エルは、ごめんなさい、それと、ありがとうございます、と頭を下げた。


「なんだか気を使わせてしまったようで…」

「ううん、本当のことだから。…でもよかったよ、エリィが少しだけでも元気が出たみたいで」

「少しなんてもんじゃないです」


エリィがそう言うと、フィリップスは少し目を丸くしたあと、目を細めた。


「…でも本当に、彼女はずっと、誰も寄せ付けないで生きてきたから、だから、エリィみたいな存在が彼女にできて、弟として嬉しく思っているんだ」


フィリップスの言葉に、エルはゆっくり口元を緩ませた。


「…お互いの本の趣味があってたみたいで、私も嬉しかったです。たくさん本の感想が言い合えて、たくさん本を貸していただけて。私、こんなことができる人が今までほとんどいなかったから嬉しくって…なんて、カーン家のご令嬢に対して厚かましいですけれど…」

「お待たせしたわね…、あら」


戻ってきたエミリーが、エルと話していたフィリップスを見上げて怪訝そうな顔をした。フィリップスはエミリーを見ると、はじめまして、と微笑んだ。エルはそんなフィリップスに、2人はお会いしたことがないんだ、と心の中で呟く。


「私はフィリップス・カーン。カーン家の次男です」

「…エミリー・ハリソンと申します」


エミリーは不機嫌そうにフィリップスにそう返した。フィリップスのこの笑顔に当てられて、なぜこんなに彼女が不機嫌なのか、エルには理解できなかった。

フィリップスは今一度微笑むと、それでは、とエミリーに挨拶をしたあと、エルの方を見て、小さく笑い、そして背中を向けて去っていった。エルはその背中に頭を下げた。


「…なに、あの方…」


エミリーはそう呆然と呟いた。エルは、え、と声をもらしたあと、隣にいたエミリーをみた。すると、彼女はみるみる頬を赤くしていった。エルは驚いて、えっ、と声をもらした。


「(…時差であの笑顔に当てられた…?)」


エルが不思議そうにエミリーを見たら、きっと眉をつり上げた彼女に睨みつけられた。先ほど怒られたのにまた見つめてしまったと慌てたエルは、謝るために頭を下げようとした。するとエミリーは、あのお方はどなた!とエルに尋ねた。エルはきょとんとしながらエミリーの目を見た。


「えっ…え?」

「どなた!」

「(さ、さっき自己紹介してたのに…)え、あ、えっと…」

「何をしているお方?どんな性格?あなたお知り合いなの?…そもそもなんであなたが知り合いなの?あなた使用人でしょ?」


矢継ぎ早にエミリーに問い詰められて、エルは答えに困る。エミリーは困惑するエルと見つめ合いながら、じわじわと頬を赤く染めていく。エミリーは、ばっと両頬に手を当てると、本人も困惑したように目を泳がせる。


「…あのお方…他の男と違う…」


エミリーはそうぽつりと呟いた。エルは、え?と首を傾げた。エミリーはぼうっと呆けながら、さらに顔を赤くしていく。


「(…もしかして、フィリップス様のことを…)」


エルはエミリーを眺めながらそんな予感がした。フィリップスがたくさんのご令嬢から好意を寄せられているとは聞いていたけれど、実際に令嬢が彼に恋に落ちる瞬間をエルははじめてみた。


「(…って、あれ、このお方、アラン殿下の婚約者候補としてお城に来たんじゃ…)」

「ちょっと、聞いてるの?!質問に答えなさい!」


エミリーは怒った様子でエルに問い詰める。エルは姿勢を正して、は、はい…!と返事をした。


「え、ええと、彼はフィリップス・カーンという、カーン侯爵家の次男であられる方です。王国軍の騎士として従事していらっしゃいます。双子のお姉さんがいらっしゃって、そのお方はヘレナ様の侍女をされています」

「王国軍の騎士…」


エミリーは興味津々にエルの話に耳を傾ける。エルは、少し悩んだあと、あの…、とおずおずと口を開いた。


「もしかして、フィリップス様のことが、その…気になられるのですか?」

「はっ…はあっ?」


エミリーは一瞬でまた頬を赤くすると、違うわよ!と強く否定した。そんな彼女にエルは、え、ええ…、と動揺する。信じていないエルを、エミリーはキッと睨みつける。


「あのねえ、失礼なことを言わないでくれる?私はね、男なんかだいっっきらい!なんですから!!」

「へ、へ、え?」


エルはきょとんとしてエミリーを見つめた。エミリーは顔をしかめたまま目を伏せて、唇をゆるく噛んだ。


「…男なんか嫌い。大嫌い。すぐに女の見た目を所有物にしたみたいな顔で頼んでもないのに評価してくる。下心のある顔で見てくる。…本当に本当に下品で気持ち悪い。ねえ、あなたも経験あるでしょう?」


エミリーにそう尋ねられたけれど、エルにはそんな経験がなかった。


「あ…私はあんまり…」


同調できずにいると、エミリーは、またキッとエルを睨んだ。エルはそんな彼女に怯む。エミリーは少しだけ息をついたあと、また目を伏せた。


「お父様やお祖父様だって、お前は美しいからすぐに良い結婚相手が見つかるって、いつもおっしゃる…。まるで私の見た目は他の誰かのためのものみたいに…」


エミリーはそう、虚しそうに言い放つ。エルはそんなエミリーを見つめる。


「(…男嫌い…なのかな。彼女の言い方的に、過去に色々嫌なことがあったのだろうか。これだけお美しい方だから、周りの注目も浴びただろうし、その分嫌な思いもたくさん…)」


エルはそう考えながら、ハロルドのことを思い出す。彼も随分女性に対して嫌味を言うけれど、彼にも過去に女性から嫌な扱いを受けたことがあってのあの言動だったのだろうか。エルは一瞬彼に同情しかけたけれど、彼については散々女性と遊び歩いているという噂を耳にしていたことを思い出し、エルは可哀想に思う気持ちが一瞬で吹き飛んだ。

 

「…でも、あの方は違った」


そうエミリーはぽつりと呟く。


「他の男と違う、優しいけれどなんの下心もなさそうで、ただただ純粋に微笑みかけてくれた…。物語の王子様みたいだった…」


エミリーはそうゆっくりつぶやくと、また少しずつ頬を赤くした。エルはそんな彼女を動揺しながら見つめる。すると、またエミリーはエルの方を強く睨んだ。


「…なによ、何なのよ、私べつに、フィリップス様の事を考えてなんかないんですからね…っ!!」 


エミリーはそう、エルに詰め寄る。


「あっ…も、申し訳ありません…」


エルは慌ててエミリーに頭を下げた。エミリーは唇を噛みながら、ふんっ、とエルから視線をそらす。しかしすぐに、先ほどのフィリップスを思い返しているのか、ぼんやりと呆けだす。エルはどうしたらいいのかわからないまま困惑する。


「エリィ、どうかした」

 

突然背後から話しかけられた。振り向くとメリーベルがそこにいた。エルは、メリーベル様…、と頭を下げた。メリーベルはエミリーの方を無表情にみつめた。エミリーはじっと見つめられて怪訝そうな顔をするが、メリーベルの何かに気がついたらしいエミリーもメリーベルをじっと見つめ返した。無言で見つめ合う2人に、エルはどうしていいかわからずに、2人を交互に見ながら困惑していた。


「…あなたの化粧、色味のセンスがいい。自分の顔をよく分かっている」


メリーベルがようやくそう呟いた。するとエミリーが、あなたこそ、と言葉を返す。


「あなたこそ、流行りをきちんと抑えているわ。それでいて自分に合うようにアレンジしている」

 

2人はそうお互いを褒め合うと、まじまじとお互いを見つめ続ける。そして、どちらともなく手を差し出すと、お互い固い握手を交わした。エルはそんな2人を見つめて、目を丸くする。


「(…友情が芽生えた…?)」

「私、エミリー・ハリソンと申します」

「僕はメリーベル・カーン。…と、いうことは、きみはアラン殿下に会いに来たわけか」

「ええそうよ。…カーン?……カーン…はっ!」


エミリーはメリーベルを見つめてしばらく考えたあと、ぼっと顔を赤くした。メリーベルはそんなエミリーにきょとんとした顔をする。エミリーは、し、失礼…!と軽く咳払いをした。


「…私、もう戻らないとなりませんので。行くわよ」


エミリーはそうエルに言うとすたすたと歩き始めた。エルは、メリーベルに頭を下げると、慌ててエミリーを追いかける。


「あっ、あのっ…!」


エミリーは悶々と考え事をしてエルの呼びかけに応じない。エルはそんな彼女を追いかけながら、あの、あのっ…!と呼びかけ続ける。するとようやく、はっとしたエミリーがエルのほうを振り向いた。


「なによっ!うるさいわよ!!」

「あの…応接室はあちらです…」


エルは言いにくそうにエミリーが歩き出した方と逆をさした。エミリーは、少し目を丸くしたあと、キッとエルを睨みつけた。


「もっと早く言いなさいよ!!」

「(り、理不尽…!)」


エミリーはエルに一喝すると、エルの指差した方にすたすたと歩き始めた。しかしすぐに立ち止まった。そして、またエルを睨んだ。


「どこよ!私がわかるわけないでしょ!!早く教えなさいよ!!!」

「ご、ご案内いたします…!」


エルは慌ててエミリーを先導して歩き始めた。エルはエミリーの前を歩きながら、すぐ怒るエミリーの逆鱗に触れないように戦々恐々とした。

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