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雷霆アドルフ

マレーシアについた。後はアメリカの大使館に駆け込めばいい。3人は安ホテルで一息ついた後、皆連れ立って外へ出た。昼の街、突然の轟音が空を切った。

地から天に放たれるイカヅチ。

繁華街の人の行き交う道の真ん中に一人の男が右手を天に掲げて立ってこちらを無表情で見ていた。

黒い軍用コート、皮の手袋、黒のオールバックの頭、憂いを帯びた鋭い眼光。

俺「雷霆……アドルフ……」

ルキーナ「うわぁ、うちのボスじゃん。」

アクサナ「お父さん、この人、怖い。」

アクサナが言い終わる前に路地に隠れる。

俺「ルキーナ。一生のお願いだ。聞いてくれるか?」

ルキーナ「また、娘ちゃんと先にいけって?」

俺は頷くとルキーナがやれやれという顔をした。

ルキーナ「キリルはどんだけ僕に貸しを作る気だい?」

俺「奴には銃は効かない。」

ルキーナがウンウンと首を縦に振りながら肯定する。

俺「奴を倒せるのは俺だけだ。」

ルキーナ「ダーツでも無理だよ。一緒に行こうよ。」

アクサナ「あの人はだめだよ、お父さん!」

駄目だ、一緒にはいけない。オレは否定した。無茶でもやるしかない。言いようのない恐怖におびえて震える我が子をなだめる。

俺「奴を倒さないと組織はどこまでも追ってくる。西側も安全じゃなくなるかもしれない。」

ルキーナも「だろうねぇ。」と肩をすくめた。

俺「ここで決着をつける。」

アクサナのキスを頬に受ける。

俺は娘を抱きしめた。

俺「強く、生きてくれ。」

アクサナ「先に行って、待ってるから。」

2人が走って見えなくなると、アドルフが路地に入ってきた。アドルフはキリルだけなのを見て昔を思い出して、それを、懐かしむように話を始めた。

アドルフ「お前と始めてあったとこもこんな場所だったな。確か、妻に先立たれたとかで酔いつぶれてたっけ?キリル。」

俺は自分でも忘れていたい過去を無神経にほじくり返してくる目の前の男に心底、嫌気が差した。

そして、自分よりも上位の存在に恐怖し後退りしようとする体を抑えて身構えた。

アドルフ「ルキーナは隊の中でも、あまり仕事は与えてなかった、どこに消えても差し支えない。けどな、キリル。お前はダメだ。深く関与しすぎている。」

俺は何でも卒なくこなせる自分を呪った。優秀だからこそ今までたくさんの不都合な仕事に携わってきた。国益のため、どんな汚い仕事もやってきた。

アドルフ「上の連中は、お前ら末端の工作員に今回の奇襲作戦の失敗を押し付けて安心したいのさ。たとえ、隣に座ってるヤツが内通者だとしてもだ。そういう国だ、悪く思うなよ。」

アドルフは言い終わると右手を俺に向けてきた。

とっさに射線から身をよじって避けるとレールガンの超高速弾が飛んできた。触れてないはずの上着が割ける。

カウンターで投げたダーツはアドルフの至近、顔の前の空中で止まっていた。

アドルフ「顔にめがけてか……相変わらず容赦ないなキリル。」

ダーツが地面に落ちる。

ダメ元でもう一投、それもまた、空中で止まる。

その時、かすかにアドルフの足元のダーツが揺れる。

俺「?」

アドルフの二撃目のレールガンも間一髪でかわすも左の頬の皮膚が裂けて辺りに血が飛び散った。

アドルフ「避けるなよ。顔が確認できるようにって指令が出てるんだ。顔に当たるだろ?」

その時、俺はヴィクトリアからのメッセージを受け取った。ヴィクトリアに身を任せると身体が勝手にアドルフに殴りかかる。

アドルフ「俺に近接戦闘で勝てると思うな!」

俺とアドルフは拳を打ち合ったが、さすがにかなうはずもなく、何発かもらい、後退りした。それを追うようにアドルフも前に打ち込んできた。

ヴィクトリア「いまよ!アナタ!」

アドルフの至近距離でダーツを放つ。

アドルフ「きかんというに!」

ドス!

アドルフ「な、なにぃ?!」後ろから飛んできたダーツがアドルフの太ももの後ろに刺さっていた。

ヴィクトリア「彼の能力は磁場。前から飛んでくる金属はその磁場で止まる。なら、後ろにあるのは?」

俺『奴に向かって飛んでいく。』

すかさず、ダーツをもう1本アドルフに投げる。

アドルフ「ぐわぁ!」

アドルフは防御も避けも間に合わずに頭にダーツが刺さる。頭蓋を貫通し、脳に針が深々と食い込む激痛に叫び声を上げた。

俺「俺の勝ちだな、ボス。」

アドルフ「なぜ、だ……」

アドルフはその場に倒れ絶命した。

俺「俺にはヴィクトリア(勝利の女神)が憑いている。」


ープロローグー

数年後、アメリカのとある田舎町で庭先に張り出たコテージに出した木製のリクライニングチェアでルキーナはボーッとしながら椅子を前後にゆらしていた。

ルキーナ「今年で何本目かなぁ。」

自分のリボルバーの早抜き大会のトロフィーと、そして、アクサナのダーツ大会のトロフィーを頭の中で数えた。毎年、上位にいる2人の寝室は数え切れないほどのトロフィーや記念盾が並んでいた。

そこへ、アクサナもやってきた。

アクサナ「つまみできたわよルキーナ。」

ルキーナ「お、あんがとさん。」

肥満大国アメリカに好みの男性は居ない。と言ってルキーナとアクサナは事実婚のようなプラトニックな生活を送っていた。

アクサナはルキーナにコップの酒を渡し、側のテーブルにつまみを置いた。

アクサナ「どっこいしょっと。」

ルキーナの隣の椅子にドカッと座り、自分もグラスをあおる。

ルキーナ「君は随分変わったねえ……」

アクサナ「そう?体型は維持してるわよ?」

ルキーナ「中身だよ。」

アクサナ「?」

アクサナは意に介さず、つまみのチーズを取って口に運んだ。が、目の前の光景にそのチーズを落とした。

アクサナ「あ、あ……」

ルキーナは横のアクサナの異変に気づいて心配して声をかけた。アクサナの目からは涙が流れている。これはいよいよまずいと思いルキーナはアクサナに近寄った。

ルキーナ「アクサナ、大丈夫?医者呼ぼうか?」

アクサナが正面を見据えているのに気がついたルキーナもその方向を見た。

ルキーナ「……キリル。」

俺「よお。探したぜ。」

俺は歩道から庭に足を踏み入れた。

アクサナ「お父さん!」

駆け寄る娘を強く抱きしめる。ルキーナもあとから付いてくる。

俺「大きくなったな。」

アクサナ「何年またせるのよ、ばか!」

ルキーナ「死んだかと思ってたよキリル。」

俺「バカ言え、約束しただろ?先に行ってろって?落ち合う場所を決めてなかったから迷ってただけさ。」

アクサナを離すと、娘に腕をつかまれて引っ張られる形で家に連れて行かれる。

アクサナ「私、お母さんの料理作れるようになったのよ!」

俺「そりゃ、いい。さっそく食べたい。歩き疲れて腹ペコだ。」

ルキーナ「いいね、いこう、いこう。」

3人は、家の中へと消えた。

       

       ーおわりー

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