アクサナとルキーナ
ケツの何処かに発信機が埋まっている。
取り出すには下半身を露出しなければならない。よっぽど信頼のおけるやつにしかこんな事は頼めない。
ルキーナ「僕でいいのかい?」
俺「お前にしか頼めないだろ。」
ルキーナ「そうだけどさぁ……」
さっきまで死闘を演じていたルキーナにこんな事頼むのもあれだが、奴もまた、司令に失敗した身だ。お互い追っ手を巻くにはこうするしか方法がなかった。
ルキーナは手にしたナイフをまじまじと眺めて言った。
ルキーナ「こういうのもなんだけど……」
?ラブホテルのベッドに半ケツになってうつ伏せで寝てる俺はルキーナに振り向いた。
俺「痛いのはわかってるし、さっさとやってくれ。」
ルキーナ「ムラムラする。」
えっ?!
ルキーナ「安心しなよ。僕は受けの方だからさ。」
……安心?
切除はしこりを頼りに行われた。すごく痛い。
ルキーナ「今度は僕のだ。よろしく。」(ゴロン)
俺「……うつ伏せになってくれ。」
ルキーナ「寝待ちかぁ。」
違う、そうじゃない。誘われているのだろうか?
ルキーナ「あぁ、痛い。もっと優しく。」
…………俺は健全だった。はず。
取り出した発信機は箱に詰めて川に流した。
俺「追っ手は俺達が川沿いに黒海に出るルートで逃げてると思うだろう。」
ルキーナと俺は盗んだ車に乗り込んだ。
ルキーナ「今のうちに、距離を稼ごう。」
俺「……亡命には娘を連れて行こうと思う。」
ルキーナ「危険じゃない?」
俺「承知の上さ。」
ふーん。ルキーナは降りるでも無くそういった。
俺は黙って車を故郷に向けて走らせた。
ロシア中央の都市トリアッチ、
そこの女子学校に娘は通っている。俺達は車で娘が出てくるのを待った。
ルキーナ「あ、出てきたよ!」
俺は車を降りて、久しぶりに娘と顔を合わせる。
俺「アクサナ。」
アクサナ「お父さん?!どうしたの仕事は?」
俺「そのことで話がある。車で話そう。」
アクサナは感のいい子だった。俺の深刻な顔に自分はコレでここを離れなければならないのだと分かった様子だった。
アクサナ「ちょっと待ってて。」
アクサナは他の学生に今度の予定は行けなくなったとキャンセルのことわりをしていた。
アクサナを後部座席に乗せて、俺は車を走らせる。
ルキーナ「ちょっと、キリル。カザンの駅は反対方向だよ。」
俺「わかってるって。」
アクサナ「お父さん、この道、家に向かうの?」
ルキーナはその言葉に動揺した。
ルキーナ「危なすぎる!絶対、待ち伏せされてるよ!」
俺「承知の上さ。」
俺は実家の近くで車を止めるとルキーナに先にカザンに娘とともに向かうように言った。
ルキーナ「……分かった。明日までに来なかったら置いてくからね。」
俺「大丈夫さ。アクサナ、家の鍵をくれ。」
アクサナ「お父さん。話は?」
鍵を渡してくれた、後部座席の娘が言う。お母さんに似てきれいな子だ。この子には幸せになってもらいたい。
俺「また今度、落ち着いたら話そう。ルキーナ。行ってくれ。」
車は走り去った。
俺「さてと。」
俺は実家に忘れ物を取りに帰った。亡き妻ヴィクトリアにプレゼントしたバラの形をしたコンパクトだ。
俺は久しぶりに実家の玄関のドアを開けた。
俺「ただいま。」『つっても、誰もいやしないか。』
両親はとっくに他界していないし、ここに住んでいた一人娘は車で今さっき別れたきりだ。
俺はコンパクトに置いてある自分の部屋に急いだ。
部屋を開けるとカビと埃の匂いでだいぶ臭くなっていた。
俺『足跡。男の靴、数人か。』
床には家探しをしたであろう足跡が残っていた。
男「そんなことより……あったあった。」
壁の物置台にコンパクトが妻と撮った写真の前においてあった。
俺はそれを取るとふと、下を向いた。家族写真が落ちている。まだ両親が健在だった時、妻と撮った写真。
写真の中のヴィクトリアが笑いかけていた。
俺「コレも持っていこう。」
屈んだ瞬間、
パリーン!
壁に立てかけてあった、ダーツ大会の記念盾が吹き飛んだ。
俺「!」
とっさに伏せる。俺は近くにあった小学校時代のヘルメットを取って窓にそおっと近づけた。
バスッ!
ピュン!
ヘルメットが吹き飛び壁に2発穴が開く。
俺『スナイパーだ。』
こちらには近接武器のダーツしか無い。
俺『いや、待てよ。父の納屋に狩猟用に使っていたライフルがあったはずだ。』
俺は床を這って部屋を出ると暗い廊下を走り、ガレージの隣りにある納屋に向かった。
ガレージに続く扉を開け外の様子をうかがった。まだここは狙撃手は居ない。持ってきた布団を先に外に投げそれに続いて扉から納屋に移る。
ガシャン!
結構大きな音がなったがライフルは手に入った。
俺『敵は何人だ?』
堅牢な作りのボルトアクションライフルはサビ一つなくそこにあった。空の弾倉にライフル弾を一発づつ込める。
ジャコ!
ボルトで弾倉を閉める。俺は窓に近づくとコンパクトで窓の外を確認した。
居た。
うまく、擬態したつもりだろうが木の幹から枝が出ていない。
俺『その木はそんな低くに葉っぱはつけない。』
スドン!
素早く身を出して、窓から外に向けて発砲し、また身を隠した。
俺『今のでやれたか?』
小さいうめき声のような声はかすかに聞こえてきた。しかし、戦果確認をしてる暇はない。納屋のテーブルの足にスコープを、窓に向けてくくりつける。窓から納屋を見たときにこちらから狙っているように偽装する。
俺『うまく引っかかってくれよ。』
納屋の裏口から外に出て走って林に逃げ込む。
距離はあったが狙撃はなかった。こちら側をマークしてる人手がないのだと分かる。
敵は少数。少数でスナイパー部隊を運用しているのはKGBの狙撃部の中ではスナイパーイワンの爺さんだけだ。
俺『あの爺さんなら……』
あまり動かない。おいしいところは自分で頂く=俺の部屋を狙ってたのはあの爺さんだ。やつはまだ俺の部屋の見れる場所に陣取っているに違いない。
俺『やつは納屋の方の銃声に気がついている。なら。』
俺は上着からダーツを取り出し木に突き刺した。
移動しながらそれを繰り返す。
目立つダーツにやつの目が行けば、その分スコープを振る。
俺『足元をすくってやるぞ!』