いってきます
寮の食堂での朝食を終え、自室に戻ってくる。
登校するには、少し時間があるので
その時間を使って、本日の授業で使う教科書や勉強道具の
準備をする。
今世も前世も前もって準備をして置くのは苦手だ。
机の上から、必要な教科書を集めていると
ふと前世のことを思い出してくる。
学校での授業なんて、教科書なんて
何時ぶりであろうと。
「印刷技術あるんだ」「活版かな木版かな」「お芋おいし~よね~」
前世の名前は犬塚信志。
小学校、中学校、高校、大学と学歴を重ね
社会人として過ごしていた。
大手の会社ではなかったので、福利厚生には
若干不満もあったが、取り立ててブラックな会社ではなく。
愚痴を言いつつも、卒なく日々を過ごしていた。
日々の生活は
これと言ってのめりこんでいる趣味はなく
スポーツは大活躍はできなくても、それなりにこなせる
ゲームもすれば、本も読む
気が向いたら、神社仏閣巡りをして歴史を楽しみ
日帰り温泉に溶けてくる。
社会人になってからは、ひとり暮らしで
仕事と日々の生活を送っていたら
いつのまにか、髪に霜がちらほら降る50代になっていた。
ちなみに女性との縁が薄く、おひとり様を満喫していた。
そのような日々を過ごしていたなと言う記憶があるのだが
その後は、トラックに跳ねられた記憶もなければ
足元に魔法陣が光った記憶も穴が開いて落ちた記憶もない。
白い部屋で神サマとやらに会った記憶もない。
気が付いたらケルベロスとなってミィと鳴きながら混乱していた。
「ミィ…」「猫!?」「ぬこ~」
前世を思い起しながら、そろそろ登校するかと
青地のネクタイを緩めに締めブレザーを羽織る。
そして教科書を重ねベルトで十字にしばり肩へと担ぐ。
忘れ物がないか
「指さし確認!…良しっ」(良しっ)(よ~し)
いや指さし確認大事だよ、セルフチェック重要よ。
ヘルメット被ったポチャネコは可愛いけど。
工事現場の安全確認だけじゃないからね。
さて行くかと、部屋の扉を開けると
隣の部屋からハリアーも出てくるところで
「じゃぁ行くか」「おう」と声を掛け合い廊下を進んでいく。
ちょうど登校に良い時間ということもあり
あちこちの部屋から生徒がでてくるところで軽く挨拶をしながら進んでいくと
寮の出入り口の近くにある寮監室の前で
少々歳をとった男性の寮監さんが
「おはよう」「いってらっしゃい」「頑張ってくるんだよ」と声を掛けてくれる。
「はい、いってきます」
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