アキラとオサム
アツシは、アズブリーを出発するとラウェップに向かった。
アズブリーもラウェップもパターソン領である。パターソン領は広大でアルメディアの10倍はある広さだった。
パターソンを超えると、ハーレ領に入る。
パターソン領を超えるだけで、恐らく2週間はかかるであろう。
アズブリーからラウェップまでの街道は広く切り開かれており、怪物が出てくれば、直ぐにわかる。
まあ、昼の時間帯は、大勢の人がいるので何も出てこないだろう。
と、思ったが矢先、大きめの怪物が出てきた。
近くにいた探索者らしき大人が「あれはコボルトだな」と言って、隣にいた子供に指示を出していた。
「さあ、お前行け」
「ぼくですか?ちょっと怖いんですけど」
「お前な、早く慣れておけよ。あのモンスターは、めちゃ弱くて有名だから、誰でも倒せる」
「どうやるのか、お手本を見せてください」
「仕方ねーな、一回だけだぞ」
「そりゃ」
ザク
「なるほど。わかりました」
「こうですね、こう」
などと言って、その子供はマネをしていた。
同じくらいの歳の子に見えたので、話しかけてみた。
「僕達同じくらいの歳ですね」
「僕はアツシ10歳、君は?」
「僕はシュルツ・アントン、12歳」
(なんだ、もう違ったよ)
「初めてモンスターを倒すの?」
「君はやったことある?」
「あるよ。もっと小さいやつだけど」
「そうか、もっと小さいのがいるなら、その方がいいな」
「おい坊主、もっと小さいのってなんだ?」
「なんか半透明のドロドロしたモンスターと、角が生えたウサギ」
「スライムとアルミラージか」
「確かにあいつらは弱いけど、たまに見た目と違った力をだすやつもいるから、気を付けた方がいい。その点、コボルトは、見た目通りだからな」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「お前は、10歳で一人旅とは、勇気あるな」
「家を追い出されたので、仕方なくですけど」
「なるほど、今どき珍しく厳しい親じゃねーか」
「昔は居たような言い方ですけど?」
「ああ、それが基本的な親の育て方だぞ」
「そうなんですか?兄は二人とも王都のアカデミアに行って、僕は使えないギフトだったんで追い出されたんですよ」
「お前貴族か?なら、そういう事もありえるな」
「お、そう言っているうちに、もう一匹出てきたぞ、シュルツ、行け」
「は、はいぃ」
「それ」
ふらふらぁ~
「もう少ししっかり剣を持たねーと」
「はい、いきます」
「それ」
ズバぁ
「やったじゃねーか」
「そして、ラッキーにも核を残してったぞ。もう一つ二つで酒代くらいにはなるか?」
「核って、残す場合と、残さない場合があるんですね?」
「そうだな、レベルの低い奴は特に残さないことが多いな。コボルトなんてめったに核を残さないんだが、シュルツはラッキーな奴だな」
「シュルツのギフトはなんなの?」
「僕は、”明眼”というギフトなんだ」
「どんなことが出来るの?」
「たぶん、どこを斬ったら一番良いのかがわかるんだと思う」
「そうなんだよ、こいつのギフトは、なかなか凄い」
「明眼は、発現する頻度が高いギフトだが、レベルアップすれば、使い道が広がるギフトなんだよ。レベルアップのためには、ギフトを使い込まないといけない。だから、お前は沢山戦う必要があるんだ。俺の先輩も明眼を持っていたが、かなり強かったんだよ。それでお前に目を付けた。がんばってくれよ」
「はい」
「レベルアップしたかどうかって、どうやったらわかるんでしょうか?」
「こればっかりは、使ってみて、なんとなくってことでしか分からないな」
「極稀に、そういうのが見えるギフトを持った人もいるらしいけど、俺は実際に見たことはないな」
(僕は2か月間、子供たちに相当使い込んでいたけど)
「それで、坊主のギフトは?」
「僕は”遊ぶ”というギフトです」
「そいつは珍しいな、それも聞いた事がないな」
「でも、子供たちと遊ぶ以外には、ほとんど役に立たないんですよ」
「まあ、平和利用のギフトも必要だよ。いい事さ」
「あの、お名前を聞いていなかったです」
「俺か、俺はアキラ・シュバルツ」
「あ、アキラさんですか?ずいぶんと珍しい名前ですね」
「そうだろ、俺の親父もオサムとかいう変な名前でさ、俺もこんな名前を付けられちまったよ」
「お、オサムさんですか」
(これは完璧に日本の名前だ)
「あの~僕の名前もアツシって変わってるんですけど、なんだか共通点を感じちゃって、アキラさんのお父さんとお話してみたいなって思っちゃったんですけど、会わせてもらったりできますかね?」
「ああ、いいぞ。だが、王都の近くだぞ、うちの村は。そこにシュルツを連れて帰るところだからな」
「そうすると、ハーレには行かないんですね?」
「お前はハーレに行くのか?」
「そうです。その後で王都に行こうかと思っています」
「なるほど、そうしたら、俺達より1-2週間遅くなりそうだな。じゃあ着いたら、ここに来い」
そういって、住所を書いた紙をもらった。
「ありがとうござます。是非寄らせてもらいます」
そんな話をしていると、ラウェップに到着した。
すると、
「今日は、一緒に飯でも食うか」
とアキラが誘ってくれた。