1700年生きた竜
そして船北中クランによるコルニクスクランの吸収情報が発表されると、直ぐにゴーセン国王の耳に入った。
「ふざけおって、船北中よ。このゴーセンをコケにするつもりか」
「国王様、FOMBの開発も最終段階です。現在国内の施設で最終校正を行っています」
「しかし、魔法陣では送りつけられる大きさにはなっておらぬぞ」
「それはご心配いりませんワイバーン部隊に運ばせますゆえ」
「最終校正を急がせよ。マトバの頭上にくれてやるわ」
・・・・
アツシの元に情報が入ってきた。
ゴーセン国から多数のワイバーンがラモナーク方面に向けて飛んでいるとのことだった。
一方、ラガンダに対しても急襲をかけるという情報も入ってきた。
ラモナーク側は、警戒態勢に入っていた。
・・・・ そして、新月の日。
空は雲で満ちており、町の外壁の向こうは真っ暗闇であった。
マナ感知部隊が、上空のマナを感知したが、既に遅かった。
ワイバーン部隊が既にラモナークの上空から急降下してきた。
ラモナークに残っているのは、トシキ、アタル、シュウカ、アイリス、チカ。
アタルは、ワイバーンを蹴散らしていく。
しかし、数が多い。
数十匹のワイバーンが常にアタルにまとわりついて攻撃を繰り返している。
トシキは、念動でアタルのサポートを行っていた。
そのような最中、密かにFOMBが設置された。
「トシキ、凄いマナを感じる」
FOMBは、発動させるために、炎の魔法による十分な火力の供給が必要になる。
炎魔法使いは、最終段階までその場にとどまり火炎を与え続けていた。
「ちょっと異常なマナよ」
「行ってみよう」
「ここよ」
「誰かいるな」
「おい、お前何してる」
トシキが言うと、ワイバーン部隊が急襲してきた。
しかし、トシキの念動の前に、次々にひき肉状態にされていった。
「相変わらず敵にはエグいわね」
「はっは、そう言うなって」
トシキは、火魔法使いの手を念動で後ろに捻じ曲げ宙に浮かしていた。
「それでお前は何をやっていたんだ?」
「アイリス頼める?」
【オープンマインド】
「私の火魔法で、FOMB爆破の最終段階を終わらせた」
「FOMBってあの爆弾?どこにあるの」
「ここだ」
魔法使いが隠蔽魔法を解くと、巨大な爆弾が姿を現した。
「あとどれくらいで爆発する?」
「数分。それで国全体が消し飛ぶ」
『みんな、聞こえる?今ラモナークの首都にいるんだけど、FOMB爆弾が目の前にあるの。国が無くなるほどの威力らしい。凄く大きくて動かせない。あと数分で爆発するって』
『みんな、とにかく遠くまで逃げて』
『アイリス、俺が今そっちに行く』
『アタル?ダメよ逃げて!』
バサァバサァ
「これか?任せろ!」
そういうと、アタルはFOMBを掴んで飛び立った。
ドッパーン ビューン
「うゎ」
トシキの念動で、アイリスは助かったが、アタルの羽ばたきで、半径100mの家々が吹き飛んだ。
アタルは上昇を続けた。
国が無くなる規模という事は、少なくとも数百kmは上空へ飛ばないといけない。
しかしいくらアタルと言えど、数百kmを数分で飛ぶことは不可能であった。
アタルはとにかく上昇を続けた。
『アタル、ダメよ。戻ってきて』
『いやまだ足りない。俺は最後まで、出来るだけ遠くにこいつを運ぶ』
『俺は1700年も生きてきた。このままだったらお前たちが死んだ後も生きなくてはならない。俺は、お前たちが死んだ後も生きているくらいなら、今死んだ方がましだ。最後にお前たちに会えて本当によかった。お前たちは人間として限りある生をまっとうしてくれ。さらばだ』
『アタルぅー』
ピカッ
あまりの強烈な光に二人は目を開けていられなかった。
トシキの念動で爆風に備えている。
夜空が一気に朝になったように光に包まれた。
数分後、ゴゴゴゴゴゴオオオオオオという小さい音が上空で鳴り響き、それが数分に渡って続いた。
空にあった雲は飛び散ると、また夜に戻った。
暫くすると、上空から熱風が吹き、町の建物が吹っ飛んだ。
あちらこちらで竜巻が発生していた。
アイリスとトシキは、クランの建物へ戻った。
この爆発とともに、ゴーセンの部隊はラモナークから去っていた。
「アタルが死んじゃった。。。。」
「。。。。」
トシキも発する言葉が見つからなかった。
いくらアタルと言えど、あの爆発の中、生き残れるはずはない。
トシキも、アタルの死を確信していた。
・・・・ 一方、ラガンダにいたアツシ、ジュンペイ、チャコル
ゴーセン国は、ラガンダにいる転送する兵士の鎧にも魔法陣を描き、鼠算式に30000人の兵を短時間に送り込んだ。
3人は、ラガンダ支部クランの面々と共にFOMB実験場を目指していた。
その時、上空が急に明るくなった。
「なんだ?何があった?」
「なにかあったのかしら?」
「うわ、凄い熱風だ」
熱風はどんどん強くなり、道端の木々が大きく揺れ、竜巻が発生していた。
「何かやばい事が発生していそうだ。急ごう」
3人が草原の道を進んでいくと、実験場の方からゴーセン国軍の大群が押し寄せてきた。
数千人はいるであろうか。
こちらは100人足らず。
しかし、戦力は全く問題ない。
「みんな、時間はかけられないから、私がやっちゃうわ」
「チャコル、頼む」
【雷撃】100パーセントぉー
「なんだそれ?」
ドカドカドカドカドカーン
一瞬にして、9割近い敵兵が消え去った。
「チャコルやるな、残りは200‐300人ってところか。後はこじんまりとやっつけるか」
ジュンペイは馬に乗ったまま敵陣に斬りこむと、虫でも払うかのように敵を斬っていった。
味方のメンバーもジュンペイ続き、敵兵と戦った。
「先を急ぐぞ!」
・・・・
一行は実験場にたどり着いた。
「アツシ様、ここですね」
「思ったよりも、小さいな」
「チャコル、ここに魔法陣があるはずだ。確認しよう」
「いきましょ」
・・・・
「所長、あいつら来ちゃいましたよ」
「あわてるな、まだ俺達にはこの兵器が残ってる」
「へへ、そうですね。マナビーム砲。これさえあれば」
「ここが入り口ね」
「僕の能力を発動しておくよ、その方が安全だしね」
「そうね。ジュンペイの活躍は減ってしまうけど」
「別にいいよ。こいつら何持ってるか分からねーからな」
「それじゃ。【遊ぶ】」
アツシは、実験場全体をおもちゃ化した。
「人がいないわね」
「いや、5人は、いるね」
「アツシ様、こちらに階段があります」
「アツシ、こっちにいたぞ」
「こいつらだけか?」
そこには、5人の実験服を着た男たちがいた。
「1人だけ能力を解除する」
「ガホガホガホ」
「大丈夫かい?」
「お、お前は?」
「僕はアツシ・マトバだよ」
「お、お前がマトバ。。。」
研究員は生唾を飲み冷や汗をダラダラかいた。
「君が持っているそれ、何かの兵器?」
「言えん」
「そう、一応もらっておこう」
アツシは銃口を研究員へ向けながら聞いた。
「さっき、大勢の兵と出くわしたんだけど、魔法陣でもあるのかい?吐けば、楽にしてあげるからさっさと答えたら?」
「ちょっと、それをこちらに向けられると。。。。」
「これは何かの兵器かい?」
「そ、そうです。マナビーム砲と言って、マナを一集約して放出するものです」
「お前ら、そんな恐ろしい物まで作ってるのか?」
「え、あ、はい。あのそれで楽にしてもらえるとは、許してもらえるという事でしょうか?」
「考えてあげてもいいよ。だから早く答えてね」
「魔法陣は、地下5階の広間にあります」
「一緒に来い」
「こちらです」
壁には一人分の魔法陣が描かれ、赤く光っていた。
「チャコル。どお」
「なるほどね。あんた達、これ一方通行じゃない。帰るときは陸上を歩いて帰る前提ね」
「チャコル、この魔法陣を使えなく出来る?」
「そうね、壁を破壊してもいいけど、ここをこうやっていじるだけで、もう使い物にならないわ」
「ありがとう」
アツシは施設から出た。
「それじゃチャコル、やってくれ」
「みんな耳を塞いでいてね」
【神の雷】
ドカーーーーン
上空から巨大な光の柱が現れたと思ったら、轟音とともに地面に直径100m、深さ50mはあろうかという大きな穴が開いた。
そして地下施設は一気に全て崩壊した。
一同はチャコルの能力に戦慄した。
そしてみんなでラガンダのクランへ戻ると、町中での戦闘も終わっていた。
なんとか、ゴーセンの兵士を撤退させた様であった。
アツシは、ラガンダ国の王子にアドバイスされていた通り、王に会いに城へ向かった
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「ラモナーク国王、アツシ・マトバ殿、よくぞおいでくださいました。そして、ラガンダを救って頂き、ありがとうございました」
「だいぶ被害もあったようですが、国王軍が協力してくれたおかげで、勝てたようですよ。良かったですね」
「まだ、一日をしのいだだけですので、油断はできませんが」
「おっしゃる通りです。それで、ラガンダにも是非ラモナーク派に加わって頂きたいのですが、如何でしょうか?」
「私は今やゴーセンに忠誠を誓っております。私は信用されないでしょう。私の処刑を持ってラモナークに属する事にしていただければありがたく思います」
「私は、無用な処刑は不要と思っております。王子に新国王になって頂き、王様は幽閉という事でラモナークにでもいらして頂き、自由にお過ごし頂ければと思いますが、如何でしょうか?」
「わたくし、ラガンダ国王の侍従であります。テレンスと申します。ラモナーク王のお慈悲に感謝申し上げます。国王様、恐れながら、ここはラモナーク王のお顔を立てませんと、死する事以上に恥でございます」
「あい分かった。ラモナーク王、それでは宜しくお願い致す」
こうして、激戦の一夜が終わった。
この戦いで、ラモナーク側は、3つの町が破壊され、3000人の死者、5万人の負傷者を出した。
そして、アタルを失った。
ゴーセン側は、ラガンダ国、実験施設、兵士5000人、ワイバーン150匹、そしてFOMBを失った。
ゴーセン国にとって、FOMBと実験施設を同時に無効化されることは想定外であった。
事実上、今後FOMBの製造が不可能になったことを意味した。
冷戦状態が終わり、いよいよ、ラモナークとゴーセンの最終決戦が迫っていた。




