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領主屋敷への侵入

 森の道は飛び上がっても先が見えないのでほとんど歩いたが、方向音痴の二人であったため、アシリス渓谷に到着するまで、20日かかってしまった。


「ここがアシリス渓谷で間違いないんだろうな?」


「あってるだろ、だってほら、あれはブラッディエレファントじゃないのか?」


「100万メルがいたぞ」


「持って帰れないだろ」


「でも倒して保存できる肉は保存しようぜ」


「そうだね」

「ジュンペイは、その剣を使って倒したいんだよね」 


「そうだぜ、だから手は出さないでいてくれ」


「ジュンペイはすっかり剣士だね。陸上部の部長の面影は無くなったね」


「そんな昔の事は忘れたぜ」


「はははは」


 ジュンペイは、冗談を言い終わるや、ブラッディエレファントに向け走り出した。


 ブラッディエレファントは、ジュンペイを見るや、その大きな鼻を左右に8の字に振り回して、ジュンペイに襲いかかった。


 ジュンペイは、最初の攻撃を避けることができたが、自在に操られた鼻にジュンペイが吹っ飛ばされた。岩に体をぶつけたジュンペイは地面に崩れ落ちた。それを目掛け、ブラッディエレファントが突進してきた。


 ジュンペイはぎりぎり立ち上がると、何とか突進をかわした。ブラッディエレファントに突撃された岩は粉々に砕け散った。


 ブラッディエレファントの攻撃は全く収まる気配はなく、またジュンペイを目掛けて突進してきた。

 

 今度は、順平が突進をかわし、そのかわしざまに右前足に一撃を喰らわせた。


 足を大きく損傷すると、ブラッディエレファントは動きが著しく遅くなり、左前脚を中心にして動く事しか出来なくなってしまった。

 さらには、振り回す鼻の勢いも弱くなっていった。


 たった一太刀ではあったが、これで勝敗は決した。

 ジュンペイは、後ろに回ると左足を斬った。

 その瞬間、体重を支えきれなくなったブラッディエレファントは、ドドーンと、大きな音を立てて横倒しになった。


 ジュンペイがブラッディエレファントの首元にとどめを刺すと、ブラッディエレファントは動かなくなった。


 ブラッディエレファントは、やはり核を落としていかなかった。


 しかし、この様な大きなモンスターの解体方法が分からず、結局太腿の肉だけもらい、後はおいていく事とした。


 -----☆


 そしてその2日後、漸くネユークに到着した。


「やっと着いたぞネユーク」


 2人は宿屋の店主にネユーク邸の場所を聞くと、早速向かった。


 やはり他の領主の屋敷と同じように、長い壁があり、向こうの方に見える入り口の門には、衛士が立っており、おいそれとは通して貰えそうに無かった。


「あのールビー様にお会いしたいんですが、いらっしゃいますか?」


「何者だ!」


「僕たちは、オルティア国から来ました。ルビー様の友人です。お取次願えませんでしょうか?」


「ならん、お前たちの様な輩にルビー様を会わせられるわけなかろう」


「これは強行突破しかないだろ?」


「衛士が何人いるか分からない。やめておこう」


「また来ます」


 ・・・・


「何で強行突破しないんだ?」


「そしたら死人が出て、千香が悲しむでしょ」


「で、どうするんだ」


「今のぼくらは、飛べるんだよ」


 ・・・・


 その夜


『いくぞ』


『そーれ』


 スーーーー


『あそこにテラスが見えるぞ』


『あそこに降りよう』


 オットットット

 二人はよろけながら、何とかテラスに降りた。


 そして、窓に手を掛け、窓をゆっくりと開けた。

 窓には鍵はかかっていなかった。


 キキキィ


 窓を開けると変な音がした。


「だれ?」


 ピカ


「眩しい」


「何よ、あなた達、誰」


「僕たちは泥棒でも、強盗でもないよ」


「その声は?あの時のお兄ちゃん?」


「え?眩しくて前が見えないんだけど」


「ごめんなさい。少し光を抑える」


「あれ?君はエイダベンで会った女の子じゃないか」


「ほんとだ、あの時の子だな。こんな所で何やってんだ」


「それはこっちのセリフよ」


「君は領主の娘さんだったんだね。僕たちは、ルビーに会いに来たんだよ。実は昼にも来たんだけど衛兵がいて、全く入れなかったんだ。だから仕方なく忍び込んだんだ」


「この家にどうやって?」


「空からさ」


「空から?」


「飛んで来た」


「と、飛んで来たの?」


「ああ?じゃなきゃ入れないぜ」


「私も飛べる?」


「まあ大丈夫だろう?俺が掴んでおけば」


「おんぶ紐みたいなのがいいな」


「ええ、いいのいいの?」


「その代わり、ルビーに会わせてくれよ」


「うんわかった」


「そう言えば君の名前を聞いて無かったな?」


「私はエリス」


「そうか、僕はトシキ」


「俺はジュンペイ」


 トシキは、シーツを紐の様にして、エリスを自分にくくりつけた。


「じゃあ、ジュンペイ頼む」


「いやその場合、お前が走って飛び上がるだけでいけないか?」


「何となく自信がない、頼むよ」


「仕方ねーな。よっこら。じゃあいくぞ」


 ジュンペイはルーフテラスに出ると勢いをつけて飛び上がった。


「そーれ」


 トシキが引っ張るとふわっと空中へ飛び出した。


「うわ、飛んだ」


 エリスは茫然としていた。


 下を見ると町は暗く、光はポツリとしか見えなかった。


 振り返ると家が小さくなっており、自分が飛んでいる事を実感した。


「凄い本当に飛んでるんだ。夢じゃないのかな?」


「夢かもな」


「スピードがないから遠くは無理。一旦降りるよ」


「ジュンペイ、屋敷に戻ろう」


「あいよ」


 トシキは、一旦庭に降り、再びジャンプすると、3人は屋敷のテラスに戻って来た。


「そう言えばエリス、さっき僕らが屋敷に入った時、光ったけど、あれは何?」


「あれは私のギフトで、”光“なの」


「何でも光らせることが出来るの」


「凄いな。何でもか?」


 すると、ジュンペイの体が光った。


「おーすげー」


「なるほど」


「それでルビーの部屋はどこだい?」


「こっち」


 エリスは部屋を出ると、手招きした。


「ここよ」


 トントン


「誰?」


「エリスよ」


「どうしたの?入って」


「ごめんね、ルビー遅い時間に。お友達の人が会いたいって」


「友達?」


「トシキとジュンペイ」


「え?」


「よう、ルビー」


「レイス?もう1人は知らない」


「俺は、安治川だよ。ジュンペイ」


「えー」


「会いに来たよ」


「どうして?」


「的場淳がクランを立ち上げたんだ。その名も船北中。それで皆んなを集めてるって事さ」


「オルティアから来たの?ここまで?」


「ああ」


「アイリスも合流している」


「そうアイリスも。。。。」


「突然で済まない。君の気持ちもあるだろうから、後日考えを聞かせてくれよ。僕たちは、しばらくネユークの宿アルフレッドにいるからさ」


「じゃあ今日は帰るよ」


 2人は、エリスの部屋に戻った。


「ルビーを連れて行っちゃうの?」


「エリスはルビーと仲良しなのかい?」


「うん」


「本当のおねーちゃんじゃないけど、優しいし」


「そうか。。。僕たちは、ルビーを無理やり連れて行ったりはしないよ」


「それじゃね」


 2人は空に戻って行った。


 -----☆ 3日後


 トントン


「お客さん、下に迎えの方がみえてますよ」


「迎え?」


 ダダダダ。トシキとジュンペイは急いで階段を下りてきた。


「ルビー来てくれたか?」


「トシキ様に、ジュンペイ様ですね。ネユーク様がお待ちですので、馬車にお乗りください」


 ・・・・・・・ 


 二人はネユーク邸に到着した。


「こちらへどうぞ」


 二人が部屋に入ると、領主らしき人とその夫人、そしてルビーがいた。


「掛けてくれ」


「突然呼び出して済まないね。ただ、ルビーから突然話を聞かされて、どうしても君たちから話を聞いてみたくなったんだよ」


「君たちは、ルビーに何をさせたいんだ?」


「僕達は、ルビーの友人ですから、ルビーの意思を尊重します」


「ただ僕達のクランは、世界から戦争を無くすことを目的としています。ですので、そのクランの運営を一緒にやってもらえればありがたいとは思っていますが、別に無理にやってもらうつもりはありません」


「世界から戦争を無くす?世迷言を言っているな」


「はい、おっしゃる通りです。何せ、僕達のクランマスターは、10歳でクランを設立したので、若気の至りだったこともあると思いますが、僕は未だにその目的には賛成しています。そのためには、世界でも最も強いクランにしなくてはなりません」


「力でねじ伏せようというのか?」


「。。。」


「これをご覧ください」


「なんだこれは?」


「ここに来る途中に首都を通りましたが、そこでお会いした方が、ネユーク様宛に書いた手紙です」


「なんだと?」


 ガサ、ペラ


「こ、これは。。。。」


 その手紙を読んだネユークは、驚きと同時に、この子供たちに一種の畏怖の念を頂いた。


「あなた、それは。。。」


 ネユークは手紙を夫人に回し、夫人もその内容を見て驚いていた。


「君たちはこの手紙の内容を見たのか?」


「いいえ、全く見ておりません」


「ただ、リゼル18世とお会いし、お話した際に、僕らと同じことを既に行っていたと伺い、その共通点において、失礼ながら親近感を覚えました。恐らく、リゼル18世も同じく感じて頂いたのではないかと思っています。それで手紙を書いてくださったのではないでしょうか」


「僕達のリーダーは、とても珍しいギフトを持っており、僕らが協力する事で、世界から戦争が無くせると思っています」


「そのリーダーは、どのようなギフトを持ってらっしゃるのかしら?」夫人が聞いた。


「”遊ぶ”というギフトです。いかなるものも彼の手にかかると、遊び道具となってしまいます」


「彼は、そのギフトを子供たちと遊ぶためだけに使っていたため、家を追い出されてしまいましたが、独力のみでクランを立ち上げ、僕達を集めた、凄いやつなんです。ですので、彼であれば、僕らの目標の達成も可能です。少なくとも、僕は信じています」


「俺も信じてますよ」


「俺を見つけてくれたのも、アツシだからな。あいつがいなかったら、今頃は、まだ家でうだうだやっていたかと思う。俺はアツシに感謝している」


「それで、僕のギフトは”念動”、ジュンペイのギフトは”究極の体力”というものです」


 トシキは、空いている椅子を動かして、浮かして見せた。


「ジュンペイは、ほとんど寝なくても生活ができるほどの体力を持っています。恐らく不死に近い能力です。ですので、僕らは、既にかなり強いです。今後クランを更に発展させて、一瞬だけかもしれませんが、世界から戦争を無くします」


「そうか、君たちの話は、十分に分かった。そしてこの元国王様の手紙。あのお方が、ほんのひと時の話でこの子達の力を見抜き、このような手紙を託すとは、本来あり得ない事だ。私はもはや反対する術を持ち合わせていない」


「君はどうだい?」


 ネユークは、夫人にも尋ねた。


 夫人は、

「さみしくなるわ」

 といい、涙していた。


「後は、ルビー自身が決めるだけだ」


「ありがとう、お父様」


 ルビーはネユークの椅子の後ろに回ると、抱き着いて涙した。


 ネユークは、そのルビーの腕に優しく手を乗せた。

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