10歳一人旅
そしてまた更に5年。僕は10歳になった。
二人の兄はアカデミアに通わせてもらっているが、僕には無意味という事で、家から追い出されることになった。
「あーあ、10歳でホームレスかよ。この世界は厳しいなぁ」
僕は、父から金貨30枚と、鋼の剣と、旅人の服、マジックバック(内部に1週間分の食料と水、鍋)をもらって、家から出された。
母は、さみしそうに僕を見送った。
この世界の母さんだけは、僕に優しかった。でもあまり優しくすると、厳しい父に怒られるので、優しく接してくれるのは、父が見ていないときだけだった。
でも僕は悲観していない。
この世界には、僕と同じ場所から来た友達が、何人かいるはず。
僕と毎日ゲームをして遊んでいた、星野と高木も絶対にどこかにいるはずだ。
“僕は今日からアツシ・マトバとして生きてゆくことに決めた”
王都へ行くには、徒歩で3か月はかかる。
途中にいくつか町や村があるが、少しだけ道が外れるけど、アイリスの領地もある。
兄ミハルスとの婚約は、結局、アイリスが気に入らないという事で、ご破算になった。
実は、僕が領地から外に出るのは、これが初めてだった。
僕は凄く興奮していた。
この世界を見ることが出来るなんて、ほんとにうれしい。
森や洞窟には、怪物もいると聞いている。
僕は今まで怪物を見たことがない。
どんな怪物がいるんだろうか?
やっぱり恐ろしいのだろうか?それともいっしょに遊べたりする怪物もいるのかな?
アルメディアを出て、1時間ほど街道を歩いていると、半透明の軟体生物が道を横切っていた。
何かが少し赤く光ると、軟体生物は、こちらに進んできた。
僕は剣を抜き、剣道の要領(部活の友達のマネ)で軟体生物に斬りこんだ。
「えーい」
びよよぉ~ん
「は?」
剣がゴムのように柔らかく曲がり、軟体生物もスポンジかゴムのようにへっこみ、直ぐ元通りに戻った。
そして軟体生物がとびかかってきた。
アツシは、剣で避けるが、やっぱりゴムのようになってしまう。襲って来た相手も剣に触れるとゴムのようになってしまう。
このままでは、らちが明かない。
軟体生物が、怒った様で、少し膨らんで大きくなって攻撃してきた。
アツシは、軟体生物が風船の様に思えて、少し面白くなった。
そして剣で軟体生物を斬ると、パンッと音を立てて、軟体生物がはじけ飛んだ。
アツシはびっくりした。
(剣が触った瞬間に風船になったのか?)
(でも確かに、剣で風船を割る遊びもあるよな?)
そんなことを考えながら進むと、今度は角ウサギが現れた。
これも、風船に思えば、風船になるのかな?
アツシは、元の世界のウサギの風船を思い浮かべた。
それで剣で角ウサギを斬ると、パンといって、割れてしまった。
さっきは、軟体生物だったから気にならなかったが、今度は角ウサギが割れので、肉が飛び散っており、余り気分のいいものではなかった。
ただ、今日の夕食は確保できた。
アツシは、枝を集めると、おもちゃの家を作った。
おもちゃの家と言っても、子供のアツシ程度なら寝れる程度の大きさにはなった。
アツシは、薪で火を起こした。
火を起こすと、ぱちぱちを火花が散った。
アツシは、きれいな火花が花火に見えた。
すると、火花が線香花火のように綺麗な花が開いたようにパチパチとしだした。
アツシは、角ウサギの肉を焼いた。
結構美味しく焼けた。
ただ、塩だけなので、もう少し何か欲しかった。
(今日は人生初の事が多かったな。でもまだ始まったばかりだ。いつ日本に帰れるか分からないけど。)
(ここに来たのは何か意味があったのかな?)
色々考えていると眠くなってきた。
-----☆
「さてと昨日の残りの肉も食べたし、行くか」
(でも、どんなものでも風船になるのかな?)
(例えばこの木はどうだろうか)
『風船の木、風船の木。。。。。。。』
「えいっ」
カーン
「いててて」
「何でも風船になるわけじゃないのか、そりゃそうか」
-----☆
しばらく歩いていると、ゴミ捨て場があった。
アツシは、この世界のゴミ捨て場を初めて見た。
そこには、生ごみとかではなく、家具や衣料品が多かった。
殆どは朽ち果てていたが、剣や弓なども見受けられた。
アツシはそれを手に取ると、武器ではなく、おもちゃとして蘇らせられないかと思うと、不思議な事に、剣先や矢先が丸まり、スポンジの様な柔らかな手触りになった。
アツシはそれをマジックバックにしまった。
ゴミ捨て場があるという事は、町まで近いという事であろう。
そのまま道を進むと門が見えてきた。
門には、アズブリーと書いてあった。
「こんにちは」
「どうした坊主、見ない顔だな。一人か?」
「そうです。10歳になり、家から追い出されました」
「は?なんだそれ?」
「使い物にならないので、追い出されました」
「ずいぶんと厳しい家だな」
「じゃあ、身分証もないのか?」
「信じて頂けるか分かりませんが、一応家の家紋付の剣を所持しています」
「アルメディア子爵の家紋ではないか。王都に行くために、以前ここを君の兄たちは通って行ったが。。。」
「そうか、君が三人目の子だったのか」
「はい、僕はギフトが父の求めるものではなかったので、仕方ないと思っています」
「はー、すげー割り切りだな。そういうところはアルメディア様の血筋という感じもするな」
「まあ、町への立ち入りの許可は出すけど、身分証は持った方がいいな。ステーションに行ってみな。紹介状を書いてやるから」
スラスラスラ
「はいよ、これを持って受付で見せれば、スムーズにいくと思うぜ」
「あ、ありがとうございます。僕を信じてくれたんですね」
「まあな、俺は探索眼というギフトを持っていて、そいつの能力がある程度見えるんだよ。お前さんのギフトでは、確かにアルメディア様が不満に思うだろうな。まあ、頑張れよ」
「あの、僕は今後アツシ・マトバ、アツシと名乗るつもりです。あなたのお名前も教えて頂けますか?」
「アツシ・マトバ?不思議な響きの名前だな。俺はナイルズ・チャップマン、ナイルズと呼んでくれ、宜しくな、アツシ」
アツシは町へ入った。
初めて他の町に来た。
ほんの一日歩いて隣町まで来ただけなのに、ずいぶん遠くまで来た感じがした。