クラン設立
「じゃあ、話を進めるよ。僕は、学校の同級生を探して、みんなでクランを運営する事を考えている。本当は日本に帰れるなら帰りたいけど、それが出来なければ、この世界で発生している沢山の戦争を止めて、戦争の無い、平和な世界にしたいと思う」
「戯言を、戦争が大好物な愚かな人間に、戦争の無い世界なんぞ作れるわけなかろうにゃ」
「そうだね。だからこそ目標なんだよ。実現できる事だけが目標になるわけじゃない。目指すべき理想の姿を目標にするのは、悪くないだろ?」
「何年かかるか分からないし、出来ないかも知れない、出来てもほんの一瞬だけかもしれない。けどそうなったら楽しいじゃないか?みんな安全に色んな場所に行って、色んな人たちと話をしてさ」
「やっぱりお前は暇つぶしにぴったりにゃ」
「それで、クランの名前は」
「船北中、これしかないよ」
「センスのかけらもなくて嫌だけど、みんなを集めるには、これしかないわね」
「それでアイリス、三人にはどこで会ったの?」
「王都で開催された、音楽祭に来た時に、3人を見つけたの」
「驚いた事に、あれだけ大勢の人の中に、4人だけがほぼ同じ場所に集まったの。誰かの意思を感じたわね」
「それで、アイリスから聞いた名前で探そうと思ったんだけど、かなりのお金が必要でね、僕がクラン設立を優先してたんで、人探しのお金は溜められていなんだよ」
「私は、アカデミアに来れば、3人とも会えると思っていたの。だってその音楽祭は、貴族が呼ばれていたから」
「彼らは貴族だったのよ。だから、10歳になれば、みんな来るはずでしょ?あなただって本来は来られたはずよね?」
「だから、アツシと同じような理由か何かで、来られなくなったんじゃないかしら。あの3人は貴族だから、家を調べればすぐにわかるはずよ」
「そうだったのか、3人の家を調べて見るよ」
「それとさらに不思議な事に、これだけ同じ年の人が集まったのに、今のところ、アカデミアには、私以外に異世界人がいない」
「それなら、僕も興味深い話を得たよ」
「芝逸悟、墨田八知夜、浅木弥一、八塚瞳、藤岡愛理他数人が、1700年前にこの世界に転生していた」
「え?どういうこと?」
「浅木君がフナキタ戦記という本を書いていて、それを芝逸君の子孫が、残してくれていたんだ」
「その子孫という人は、王都の隣のベルネ村に住んでいる、オサム・シュバルツという人だよ。さっき白老が言った神核種というのは、その昔、僕達みたいなニホンから来た人たちの事を言っていたらしいんだよ。それも本に書いてある」
「1700年前のその時も、10人くらいしか仲間を発見できなかったらしい。恐らく、時間が捻じ曲げられて、みんなが違う時間に行ってしまった可能性がある。もしかしたら、僕らの時間帯では、6人しかいないかもしれない」
「それともう一つ、墨田さんは、この世界でミーダと呼ばれていて」
「にゃにー、ミーダだと?あのミーダがお前らの仲間なのか?」
「仲間というか、ここに来る前は友達だったんだよ」
「ミーダというのは、その昔の魔王の事なんだよ」
「そして、魔王を倒したのが、浅木君と八塚さんたちなんだ」
「なるほど、芝逸君では、墨田さんを倒すなんてことは出来ないものね」
「墨田さんにもきっと理由があったはずなんだよね。今となっては分からないけど」
「お前らにゃ、さっきからミーダを過去の魔王みたいに言っとるが、あ奴は生きとるにゃ」
「え?まさか西の森?」
「そうにゃ。知っとるやないか」
「いや、まさかと思ってたんだよ。あれだけ大量にスケルトンが出てくるから」
「死霊ではなく、スケルトンにゃ?」
「そうだよ」
「フナキタ戦記には、死霊と記載されている。それで浅木君側の2500人が7日間に渡って、その死霊たちと戦って、ほとんどがその死霊に食われたって。でも今ではスケルトンなんだよ。何かが変わったんだ」
「そう、分かったわ。まず私たちの第一目標は、墨田さんに会う事ね」
「そのためには、この船北中クランを広めて、墨田さんの耳に届くようにしないとね」
「なんだか、凄い話を聞きすぎて、頭が麻痺したわ」
「そうね、チャコル、私も限界よ。友達が魔王だったなんて話」
「そう、だから、戦争は無くしたいんだよ」
「じゃあ、二人とも、手を出して」
三人は手をのせ合った。
「僕達三人で、船北中クランをここに設立します」
「がんばろう」
「おー」
・・・・
3人と1匹は町に戻って歩いていた。
チャコルは、白老と遊びながらついてきていた。
「アイリス」
『僕のこころを読んで』
アツシが、アイリスにジェスチャーを送った。
『チャコルは、船北中と関係ないのに巻き込んじゃったけど、大丈夫かな?』
「そのことだけど、私は、以前からチャコルに気になる事があるの。だから誘ったのよ」
『どんなこと』
『彼女は、幼少期の記憶がないの』
『もしかして、船北中の出身者からも知れないの?』
「可能性の話よ、でも私は何か引っ掛かってるの。何かのきっかけで記憶が戻れば、ラッキーかなって思うの」
「そういうことか」
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翌日、アツシは王都のステーションに行って、クラン設立の手続きを行った。
《クラン登録証》
【クラン名称】 船北中
【代表者】 アツシ・マトバ
【副代表者】 アイリス・ハーレ
【監督人】 チャコル・グレイ
【拠点】 王都12区西2北1
【設立日】 王都歴2562年 虎月5日
【証人】 王都探索者ステーション責任者 グスタフ・マーレ
「では、これが登録証だ。アツシ・マトバ、更なる活躍を期待する」
グスタフから登録証が手渡された。
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話は少し遡る。
西の森から帰還した海神クランの一行は、クランの会議室に集まっていた。
「おい、みんなどうしたんだ?」
「ルイスさん、ちょっとまずい事になりましてね。スケルトンはいつも通りなんですが、今日はその範囲が異常に広がってしまって、完全に囲まれたんですよ。しかもそれが森の入り口の方まで続いていて、危うく一般人というか、アカデミアの生徒が巻き込まれそうになったんですよ」
「なに?それは良くないな」
「俺達が無理して攻め過ぎた結果と捉えられる可能性があるな」
「わかった。スケルトン系の核も暴落しているし、しばらく西の森へのチャレンジはやめておこう」
「ただし普通に森に行って、スケルトン以外をやる分にはいいぞ」
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「レイースさん、お話があります」
「どうした、アツシ」
「あの、西の森へのチャレンジしばらく中止になったと聞きましたので、臨時雇いだった僕はチームを抜けますね」
「そうなのか、残念だが、まあ元々そういう約束だしな」
「はい、皆さんにはよくしてもらいましたが、ようやくクラン設立の目途も経ちましたので」
「そうか、それはおめでとう」
「ありがとうございます」
「それで、クラン名は何というんだ?」
「船北中という名前になるとおもいます」
「船北中?なんか変わった響きだな」
「覚えてもらいやすいですよね?」
「なるほど、そういうことなら、そうかもしれんな」
「それでは、他の皆さんにお会いできなかったのは残念ですが、宜しくお伝えください」




