お尋ね者 アツシ・マトバ
アツシは、町に戻って宿を探し、ベッドに入ると、深い眠りについた。
目を覚ますと、辺りは暗かった。
「お腹減ったなぁ」
アツシは、宿の受付に行くと、
「ようやくお目覚めですか?」
と宿屋の店主に呆れられた。
「そんなに寝てましたか?」
「かれこれ三日ですよ」
「え?そんなに」
「死んだかと思いましたよ」
「申し訳ありませんでしたが、鍵も開いていたことだし、死んでいないか、部屋に入って確認させてもらいましたよ」
「それは構いませんが、そんなに寝てましたか。。。」
「でも、お客さん、少し背丈が伸びてませんか?」
「気のせいかな?3日でそんなに伸びるわけないか」
「ちょっとご飯を食べに行ってきます」
確かに体が大きくなっている。
袖も短いし、靴もきつい。
自分の身体に何か急激な変化が起きている。
アツシは、お金がほとんど底をついていた。
どちらかを買うかとすれば、靴だろう。
アツシは、早速道具屋に行って、靴を購入した。
アツシの財布は、あと90メルしかなかった。ヤスカベのステーションに寄らずに出てきたので、それが響いたが仕方ない。
50メルの夕食を食べ、残り40メルで翌日を迎えた。
アツシはネマワのステーションに行った。
「すみません、初級2で受けられる仕事はありませんか?」
「初級2、ありますよ」
「えーと、カードをお預かりしますね」
「あれ?すみません。カードが受付不可能になってます」
「え?なんでですか?壊れた?」
ザッザッザッザ
「自警団の皆さん?どうしたの」
「アツシ・マトバ、あなたにステーション規則違反の容疑があります。取り調べますので、ご同行願います」
「なんで?」
「こちらへ来てください」
「ここに入ってください」
「責任者?」
「失礼します。アツシ・マトバを連行しました」
「はいはい、ありがとう」
「こっち座ってね」
「マトバ君、きみ10歳にしては大きいね」
「さ、最近伸びました」
「そうかい、そうかい、で、なんで連行されたか分かるかい?」
「全く心当たりがありません」
「ヤスカベ村から手配がかかっているんだけどねえ」
「そうですか。ゴブリンの巣には行きましたけど、そこで皆さんと一緒に暴走を止める事に参加しましたが、連行される様な事はしてませんよ」
「理由を教えてもらえますか?」
・・・・
「ちょっと、困りますよ」
扉の向こうがざわついていた。
「いーから、いーから。やっと見つかったって」
ガチャと扉が開くと、見覚えのある顔の男が顔を出した。
「おーアツシ」
「レントさん?でしたっけ」
「おまえ、後で話があるって言ったのに、無視したな」
「それが理由で、カードが停止されたんですか?」
「そうだぞ。上からの指示は絶対だからな」
「そうですか。それで僕になんの用があるんですか?」
「そうつっかかるなって、皆んなお前に助けられて感謝してるんだから」
「それで連行とか、考えられませんよ」
「お前のギフトは危険だと判断された。だから国から出る事が禁止された」
「それを言いに来た」
「おい、レントさんとやら、人のステーションに来て随分と馴れ馴れしいなぁ、ここではお前に権限はない。取り敢えず出ていけ」
「おい、タクト、レントさんにお帰り頂いてくれ」
「おいお前、俺はパターソン領主の権限で来てるんだぞ」
「知るか。ここはハーレだ。さっさと帰れ」
レントは自警団に腕を掴まれると部屋の外に追い出されてしまった。
バタン
「すまなかったね。私も事情がわかって無かったんだ」
「改めて、私は、サイクロ。ここの責任者だ。何か余程の事情があった様だね、もし良ければ話してくれないか?」
「そんな、特段話す様な事ではないですよ。レントさんは、僕がゴブリン退治の時にランク以上の活躍をしたので、その理由が知りたいと言っていました。ただ、僕からは話する事がないので、呼び出しに応じなかったんです。
「呼び出しに応じないだけで資格停止とは、やり過ぎな感じがするが、君のギフトとは一体どんなものなんだい?」
「“遊び”ですよ」
「“遊び”ねぇ。聞いた感じは平和的な物にしか聞こえないがね。例えばどんな事が出来るんだ?」
「遊び道具を作ったりする事ができます」
「錬金術の類いか?」
「僕は錬金術を見た事がないのでわかりません」
「そうか。錬金術はそれ程珍しくはない。主に無機物の形状を変化させる能力だ。乾燥した木材なども錬金術で使用できる」
「僕の場合、素材はあまり関係ありません。どんな物でも遊び道具にする事が出来ます。けど、元々の形状から逸脱する事は出来ません。その点、錬金術とは全く異なります」
「そうかい。話を聞いていると、やはりきみのギフトはユニークの様だな。だがユニークというだけで危険視するとはな。彼らのやっている事こそ違法行為だろう。私の権限で、きみの資格停止を解除しよう」
「ありがとうございます」
「それじゃ、カードを再発行するから、下の受付で待っててくれるか」
「分かりました」
・・・・
「あ、戻って来た。解放されて良かったですね」
「カードを再発行してもらえるみたいです」
「そう、良かったわ。私はミリーと言います」
「で、アツシ君、きみ、すっかり有名になったわね」
「どうしてですか。」
「だって10歳の探索者で連行されるなんて前代未聞だからね」
「そ、そうですよね?あは、あははは」
「あ、カード出来たみたいですね」
「あら?中級1になってるわ?」
「え?なんでだろ」
そこにサイクロがやってきた。
「私も不思議に思って、君の記録を見たんだが」
「あ、サイクロさん!」
「どうやらヤスカベの連中は、きみを懐柔する為に探索者ランクを上げていた様だな」
「彼らがそこまでするという事は、まあ実力があるという事で、間違いないんだろ」
「引き続き頑張ってくれよ」
「はい!」
そう言い残すとサイクロは部屋へ戻って行った。
「じゃあ仕事を紹介して下さい」
「中級なら仕事は沢山あるわよ」
「直ぐにお金になるやつが良いんですけど」
「じゃあ、町の西のダンジョンの調査協力はどうかしら?今から行って参加して帰ってくれば300メルになるわ。この額はちょっと低めだけど、モンスターの核や探索者による鉱石取得可能なので、頑張る探索者には人気なのよ」
「分かりました。それをお願いします」
「10分後に馬車が出るから、そこの待合室にいてね」
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