ようやく会えた。アイリス
一方、外ではガウスが意識を取り戻していた。
片腕を失っていたが、女性が監禁されていたことを聞くと、軽傷者とともに、再び洞窟に入り、女性たちの救出を行った。
女性は全部で5名であった。
中には白骨化したものがいくつもあり、実際に何人いたのかは不明であった。
足の速いサメスは村へ戻った。
サメスは、1時間ほどで村に戻ると、ステーションの副責任者グリースに事情を説明した。
グリースは、近くの商店や近隣の住民からも救助隊を募り20人と馬車5台で第一陣として現場へ向かった。
サメスが出発して、3時間ほどで、救助隊の第1陣は到着した。
サメスはそのまま、第2陣の準備をすると、10人と、馬車5台で村を出発した。
現地へ到着した第一陣は、重傷者と女性を乗せると、村へ向け出発した。
太陽が少し傾きかけた頃であった。
ナイールと、洞窟から飛び出してきた2人の上級者が話しかけてきた。
「アツシ、お前のギフトは一体なんだ?」
「僕のギフトは“遊ぶ”と言います」
「“遊ぶ”?なんだそのふざけたギフトは」
「その通りです。それで僕は家を追い出されましたので」
「ただ、そのおかげで今回俺達全員助かった。礼を言う。本当にありがとう」
「いえそんな。僕は本当に何もできませんよ」
「俺はレント、上級だ。きみのその能力は、恐らくユニークだろう?」
「かなり力を持った誰かが君を保護しないと、大変な事になる可能性がある」
「そんな。大袈裟ですよ」
「大袈裟なもんか。俺は特級の連中の事も数人知っているが、君の特殊さは格別だ」
「だって、僕は最近探索者になって、まだ初級2ですよ」
「初級2が、どうやったらゴブリンエンペラーの超越体を倒せるんだ?」
「あれは超越体だったんですか」 ナイールが焦って聞いた。
「間違いないだろうな。俺はエンペラーを見るのは初めてだが、聞いていたエンペラーの個体とかなり違っていた」
「僕は倒してませんよ。最後にとどめを刺したのは、ナイールさんですよ」
「レントさん、通常のゴブリンからは核は殆どでないのに、こいつから出た核は、これですよ」
「たぶんこれを調べればわかるだろうよ」
「アツシ、ガウスさんにはお前の保護について、俺から話をするから、どこにも行くなよ」
「わかりました」
翌日、アツシはヤスカベ村から姿を消した。
-----☆
「早くハーレに行かないと」
アツシは、急いだ。
本来ならあと5日以上かかるはずだが、アツシは、昼夜歩き続け、2日後にハーレ領までたどり着いた。
この街道は危険だと言われていたが、時折雑魚モンスターを倒しただけで、それらしい怪物にも出会わなかった。
「やっとハーレ領についた。ここはガモワカ村か」
村の入り口には、検札所がある。
「身分証明書の提示をお願いしますね」
「はい、探索者カードです」
「この歳で探索者か、えらいな。領主の娘さんも確か10歳だったな」
「ああ、もうじき王都のアカデミアに行くことになってたな?」
(そうなのか、急がないとな)
「それじゃ、もう行っても大丈夫ですか?」
「おお、坊主、気を付けてな」
「ありがとうございます」
「さてと、早く加藤さんに会わないと」
「すみません」
アツシは八百屋に立ち寄った。
「いらっしゃいませ」
「このリンゴください」
「はい、5メルね」
「あの、ハーレ領のお城ってどこですか?見てみたいんですけど」
「なんだ、観光かい?お城ってほどじゃないけど、立派なお屋敷だからね。ネマワという町にあるわよ」
「ここからどれくらいかかりますか?」
「そうだね、馬車だったら、この町の北門を抜けて真っすぐ、1日で行けるよ」
「ありがとうござます」
アツシは、ガモワカでの休息は殆ど取らず、ネマワを目指した。
ガモワカの北門を出てアツシは歩き続けた。翌朝になって、ネマワに到着した。
アツシはこの3日間程度、ほとんど寝ていなかった。
ネマワに到着すると、アイリスの家に向かった。
流石に腹ごしらえは必要と思い、食事処へ向かった。
「いらっしゃい」
「朝食セットをください」
「はいよ」
・・・・・・・・
「おまたせ」
「あの、領主様のお屋敷の見学に来たんですけど、どこでしょうか?」
「お屋敷なら、店の前の道をずーっと真っすぐに行くと、デカい家が見えてくるからわかるぜ」
「どれくらい時間かかりますか?」
「20分も歩けば着くさ」
「ありがとうございます」
アツシは、5分くらいで食べ終わると、店の前の道を20分ほど歩いてみた。
途中で、色々とゴミを拾い集めていると、大きな家が見えてきた。
「これか、加藤さん家」
「うちよりも、だいぶでかいなぁ」
「あそこが入り口かな?」
「すみません」
「なんだ、小僧」
「あの僕は、アルメディア子爵の三男のシルスと言います。アイリス様にお会いしたく、参りました。御取次願えませんでしょうか?」
「アルメディア子爵の三男?馬車も使わず、こんな薄汚い格好で来て、何をほざいてんだ?」
「やっぱりそうなりますよね」
アツシは、集めてきたゴミを紙の筒に入れて、地面にセットすると。
「よーしいけー」
ドドーン、ヒューーーードッカーン
衛兵は、何が起きたか分からず、立ちすくんでいた。
「よしもう一発行けるな」
ドドーン、ヒューーーーードッカーン
屋敷の中から、人が顔を出している。
「アイリスーーーー、僕だよ」
アツシは屋敷に向かって手を振った。
すると、手を振り返す人が見えた。
暫くすると、誰かこっちに走ってくるのが見えた。
アイリスだった。
息を切らしてこっちに走ってくる。
「シルス、やっと来たのね。待ってたわ。もう時間が無いの。入って」
「お、お嬢様、宜しいのですか?」
「当たり前でしょ、超重要なお客様よ」
衛兵がカギを開けると、アツシは門を潜った。
暫くアツシは応接室で待たされているとアイリスが、部屋にやってきた。
「ようやく来てくれたわね」
「ああ、ここではアイリスと呼んだ方がいいよね」
「それでお願いね」
「僕は、あれから1人だけ仲間を見つけたよ」
「誰、誰、誰?」
「安治川君だよ。アズブリー町にいた。レンツ・マキアスという名前になってる」
「安治川君か。たしか陸上部よね?」
「そうだよ、よく知ってるね」
「大体覚えてるわよ。それでどんなギフトなの?彼」
「”究極の体力”っていう凄いやつさ」
「凄そうね」
「それで、彼はまだ家から出ることが出来ないらしい。だけど、2‐3年で王都に行くから、一緒にクランを立ち上げようって事になった」
「え?ほんと?楽しそう」
「だろ?どう、一緒に」
「。。。。この生活では無理ね」
「僕は探索者になったから自由だよ、君も探索者になっちゃえば?」
「私は、この世界の両親も、日本の両親も区別が出来ないくらいになってるの、だから両親を悲しませる様なことはしたくないと思ってる」
「そうだよね。もう10年もここにいるもんね。まあ、多分時間はたっぷりあるから、いつでもいいと思うよ。僕らだって、まだ2人だけでやろうって言ってるだけで、どうなるか分からないし」
「とにかく僕は、これから王都に行って、5年前に教えてもらった、佐藤俊樹、中村秋華、渡辺千香を探すつもりだよ。彼らのこっちでの名前を教えてもらえる?」
アイリスは、名前を書いた紙を渡した。
「その後、他に見つけた人はいるの?」
「ううん」
「そうか。ボクも同じ年の人を見つけると鎌をかけて聞いたりしてるけど、安治川君以外は、全然だめだよ」
「でも今日は会って言いたいことがほとんど言えた。良かった間に合って」
アツシは気が抜けたように、椅子にもたれ掛かった。
「それと、僕のギフトもレベルアップしたみたいだよ。結構いろんなことに役立ってる」
「そうでしょ、私たち異世界人のギフトは、最強よ、おっと危ない。」
「しー」
二人は人差し指を口に当てた。
「アカデミアに行っても、外出できるの?」
「外出許可を取れば大丈夫みたいね」
「じゃあ、どこかでみんなで会おうね」
「うん、楽しみ」
「じゃあ、僕は行くよ、またね」
「うん、また、楽しみにしてる」
アツシは、アイリスの家を後にした。




