過去からの贖罪
「『我らシュメールの民は数千年における世界の先駆者として、他の民族を率いて文明を開拓してきた。魔獣、魔人は我らの魔道具の力には及ばず今日至らしめなかった。それ故に我らは傲慢になり、敬愛すべき祖先の教訓に背く者が現れてしまった。古の英雄、神に至るとされた禁断の魔道具、存在した魔術師の命を代償とした儀式魔法により封印された『厄災』の眠りを覚ましてしまった。これから我々は祖先と同じように大きな犠牲を賭けて、愛しき子孫のために再び『厄災』を封印しなければならない。この書はもし教訓が絶える事を防ぐ為に残す。どうかこの書を読んだ者に継承を引き継ぐ事を願う。決して『厄災』の眠りを覚ましてはならぬとーーー』」
『なんか凄そ〜う』
「この本の感想がそれだけなのは流石に引くよ?」
『私、人類ではありませんので』
「それを言ったら私もだけど……一応はその人類にお世話になってるんだから、ね?」
視界の端に嫌な事が起きたので、そそくさと荷物を納めて紗夜さんの手に収まった。
「どうしたの?そんなに急いで」
紗夜さんはまだ気付いていないのか、まだのんびりとしている。仕方ないので、その本の下にある魔法陣について教えた。すると、みるみる紗夜さんの顔が強張って紗夜さんも階段に向けて駆け始めた。
後ろの方では、本が灰になり消えていた。
「白くん?制約魔法陣があるなら早く教えてくれないかな?!」
『いや、さっき見つけたので……私は無実だ!』
『制約魔法』は使用条件、を限定する事で通常の魔法及び魔術の威力を格段に上昇させるものだ。使用が限られている施設や証拠隠滅によく利用される。
恐らくこの建物の状態が現在でも保たれていたのは、さっきの制約魔法陣の効果だったのだろう。そして、効果が発動または解除される鍵となっていたのがあの本だったのだろう。徐々に建物が崩れ始めていた。
竜の紗夜さんが駆け抜けると瞬く間に建物を飛び出した。
「何で継承させるようとした存在を消そうとするのかな?」
『傍迷惑な奴だ!……所で紗夜さんや』
「どうしたんだい白くん?」
『誠に申しにくい事なのだが宜しいかね?』
「どうぞ」
『ーーーた〜〜ぶん、この建物も鍵かも?』
「………」
『………』
建物が完全に崩れると、島自体が大きく揺れ始めた。周りの空島から崩れ落ち、海に沈んで行く光景が見られた。
「白くん、嫌い」
『関係ないよ?!』
何故かペシペシ叩かれながら紗夜さんは人の状態で漆喰色の翼を生やして飛んだ。二人で離れた場所から高度文明の崩壊を眺めていると、十分もしないうちに跡形もなく空島は消え去った。
外は既に一日は経過してたのか、日の出が丁度、水平線の向こう側から顔を出していた。
「もう一日過ぎてたんだ」
『地下にいる時間が長かったからね〜』
「今日は久しぶりの散歩にしては内容が濃すぎた気がするなぁ」
『私は悪くないよ』
「誰も君が悪いとは言っていないよ。気付くのが遅いとは言ったけど」
『理不尽には断固抵抗する!』
「その調子で『厄災』もよろしくね?」
『他が頑張ってくれるさ!』
「そこは「任せろ」でしょ?」
『無責任な発言はしない主義なのだ!』
「あの本の内容はどうするの?」
紗夜さんが興味なさげに尋ねてきた。
『どうしないけど?面倒だし』
「飼い主を通して伝えてもいいんだよ?なんだったら千田くんを使ってもいいし」
興味なさげな態度にしては妙にしつこい。はっ!これはモテない男、ダメ男の発想だな!悪霊退散、悪霊退散!
再び紗夜さんを見ると、その目の奥でそ見た存在の心を覗くとされる『竜眼』が私を見つめていた。
『私は歴史を学べる鳥なのです!』
「それなら消えた歴史がある事の不便さは知ってる筈だけど?」
『知ってますよ〜。それを踏まえた上で伝える必要はないと判断したんでっさ!』
続きを促すように竜眼が私を見つめて離さなかった。全く、私に真面目に話をさせようなんて困った竜だ。
『過去の彼らは教訓を知った上で守らなかった。つまり、これからこの歴史が表舞台に立とうとも、いつか必ず人は同じ過ちを繰り返す。それなら私が一時でも不便な生活に陥る事に比較したら、そんな無駄な事ないでしょう?』
鳥頭に真面目な話をさせた意地悪紗夜さんは、何か不満げな表情を浮かべていた。
『ただの鳥が一生懸命返答したのに?!』
「知らないよ」
『酷い?!』
「全く秘密主義なんだから」
『この鳥は裏表がないで有名ですので!期待するだけ無駄、無駄、無駄!』
「ふん!」
『ぎゅ、じゅるしい』
急に谷に突き落とされた。この状態で千田さんの家に着くまで、三途の川で遊んでた。タダで転ばぬが鳥人生!クワッ!!
「こちらアルファー2、観測対象である天空諸島の消滅を確認。全て海に沈んだ模様。オバー」
「こちらオブザーバー1、落下地点の調査を開始せよ。オバー」
「こちらアルファー2、周辺のアルファー部隊と合流後、調査を開始する、オバー」
確かに世界が動き始めていた。