表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寝坊助姫、異世界から来たりし魔王を討伐しに行く  作者: 瞬々
EPⅠ 眠り姫、かく戦えり
3/95

Ⅱ 眠り姫は、樽の中で

 食料貯蔵庫の中、そこの樽の中からすやすやと寝息が聞こえてくる。ヴォルゴール家当主、イズルは自分の耳を疑った。彼は癖のある茶色の髪、アメジストのような輝きを持つ瞳の青年だ。貴族らしく誇り高く――と両親が長年しつけてきたこともあり、彼は屋敷の中であっても、皴も汚れも一つも無いシャツとチュニックをぴっしりと着込み、ベルトには一切の緩みが無い。この家に仕える執事とメイドの熟練の洗濯技術と、汚れを落とす漂白魔法のおかげだ。


 イズルは、まだ若いが人一倍責任感が強い。何者であれ、侵入を許したとあっては示しが付かない。



 一瞬、獣でも迷い込んだのかと思ったが、樽を覗き込んでみるとそこにいたのは、人間の娘だった。


 ――なんでこの人、こんなとこで‥‥…いや、入る時に誰も気づかなかったのか、寝床を探していたにしてもこんなとこを選ばなくても…………。


 等など、真面目に考察していると、ぱちっと娘が目を覚ました。


「……よく寝た」


 イズルが目の前にいることに驚きもせず、というか気にも留めずに体をぐぐーっと伸ばす。唖然としているイズルの目の前で樽から出てきて彼女は、ベルトについた革製のポシェットからなにやら羊皮紙を取り出し、イズルに向けて手渡してくる。


「熊退治の依頼受けたから……ここの当主さんに会わせて欲しいんだけど……あ、後」と、娘は後ろの樽を見て、若干罪悪感を抱いたのか、罰が悪そうな顔で人差し指を口の前に当てる。


「ここで寝てたことは当主さんには黙っていて欲しい」


「あー……、俺がその、ここのヴォルゴール家の当主なんだけどね」


 明かして数秒、娘はイズルの目を見たまま固まっていた。若くして当主となった彼にとっては珍しくない反応ではあるのだが。


 娘の表情が寸分も変わらない為、時が止まったのかと錯覚させられる。が、娘は表情はそのままに、小さく口を開けて小刻みに体を震わせて、


「えっと……その、申し訳なく、大変失礼恐悦至極ございます」


「い、いや、気にしてないから、その変な敬語は止めて……あー……とりあえず、広間に行こうか。話はそれから」


 無駄に張った緊張の糸が緩んだ。確かに数日前に熊の討伐依頼をハンター組合くみあいに出してはいた。だが、せっかく来てくれた彼女には大変申し訳ないが、こんなのを寄越してくるとは、ハンターもいよいよ人材不足なのだろうかとイズルは思う。


――だが、


「あ、武器も黙ってここに置いてしまって、ゴメンナイ」


「え?」


 イズルは彼女が壁に立てかけてあった巨大な斧を、棒切れでも持つかのように軽く持ち上げたのを見て、目が飛び出そうになる程驚いた。樽で寝るとかいう娘のあまりの破天荒な行動に意識を持っていかれていてあまりに自然に壁に立てかけられていた大斧ハルバートに気づけなかった。


「インショウサイアクかもしれないけど、これでも狩りには自信あるつもりーなので……」


 驚いてるイズルに気づいて、ヘレンはてへへと愛想笑いを浮かべた。なんだか手の掛かる妹が生えてきたようなというか、おかしな気持ちになってイズルは小さく噴き出した。

「面白い娘だね、君は。俺はイズル、ヴォルゴール家の当主だよ」


「ヘレン・ワーグナー……レムノスの森の狩人だよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードⅡ『眠り姫は、樽の中で』は、**絶妙なキャラクター導入とコミカルな掛け合いが光る、優れた“初対面シーン”**です。以下に感想を構造的に述べます。 ⸻ 【1】導入の完成度: “樽の中…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ