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その日から

ちゅんちゅん・・・

すずめが鳴き声を出している。

まるで何かの映画

もしくはドラマ。

そんな感想を抱くほどの朝。

ただ何気なく朝早く学校に出かけたあの日から

僕は朝が早くなった。

前はイレギュラーだった早朝という環境は

今は当たり前の範疇に変わった。

早朝の少しだけ冷たい空気と

騒音が少ない特別な空間。

それに僕は気持ちよさというか

なんとも言えない不思議な感覚を覚えて以降

この空間

そして

この空気を何度も味わいたいと感じた。

別に環境が変わったわけではないから

空気や空間は変化があるといったら間違いだが

朝といういつもでは瞬間的に過ぎていく時間ならではの

楽しみがあることを僕は知った。

人がまばらな街並み

透明みを帯びた空気

物音がすくない空間。

どれも朝ならではだと感じる。

もちろん夜もそうだろうが

趣がちがうとなんとなく感じていた。

それにもう一つ・・・

僕には楽しみができていた・・・

ガチャ、キー・・・

音をたてて開いていくロッカーの扉

そこから上靴を取り出す。

ポン

前よりも優しく置くようになった上靴

それに

キー、ガチャ・・・

前よりも丁寧に扱うようになったロッカーの扉と外靴。

朝という僕の中で尊い時間を壊さないように優しく

それでいて

噛みしめるようにゆっくりと行動をしていく。

そして僕にとっての本題はここから始める。

タッタッタ・・・

廊下を歩く。

本当はもう少し早く行きたいが

情緒を壊したくない。

それに・・・

そう

きっと急いであそこに行ったら気づかれるかもしれない。

彼女がいる教室に早く入りたくて

彼女との特別な空間を楽しみたくて朝早く来ていると。

それはなんだか・・・

無粋な気がした。

できれば

僕は彼女の何となくにそっと潜みたいと

そんな風に感じた。

ガラガラ

「おはよ」

声が聞こえる。

その方向に体を向けて

「おはよ」

その声に返事した。

「今日も早いね」

彼女はすこし微笑みながら話しかけてくる。

「うん、なんとなくね」

前より少し距離が近い会話。

「なんとなく・・・か」

と彼女は繰り返した。

「うん、なんとなく・・・かな?」

そういって

ガラガラ

扉を後ろ手に閉めて自分の席に歩き出す。

「佐伯君も好きなんだ・・・」

「!?ん??」

彼女が一言いう言葉に少し

いや

ドキッと心が揺らぐ

しかし

「この時間、好きなんだ?」

「ああ、うん。僕もこの時間が・・・なんか好きになってね」

「そうか・・・」

彼女の言葉に普通を装い答えた。

確かに僕はこの時間が好きだ。

その範囲に彼女の存在があることは・・・・

言うまでもないのだが

それを本人にばれてしまうのは恥ずかしいし

なんだがそれが知られてしまったら

この時間が音をたてて崩れていくような

そんな錯覚すらある。

だからできればそのことは彼女にはばれてはほしくなかった。

なぜばれたくないのか・・・

彼女に好意があるから?

恋愛感情?

なんか違う気がしている。

なんというか

そうきっと

これはシンパシーという感じ。

初めて彼女を見た時から感じていた

この空間や時間

その感じ方が似ているのではないのかというシンパシー。

そんな彼女と似たような時間を共有していることで

なんだが僕自身

前感じていた違和感見たいのがなくなる

そんな気がしていた。

別にそのことについて彼女と話したわけではないし

彼女が同じことを思っているなんてそんなことはないとは思う。

でも

居心地がよかった。

彼女の空気感がまるでその僕の感じている違和感を肯定してくれてるようで

そんな感じを勝手に感じていた。

彼女は言葉は少ないが

話をするときはその顔に表情を浮かべて

僕の話を受け止めてくれる。

無理に話をしなくてもここにいることを許容してくれる。

現に彼女は僕が話し

そしてそれに反応してから特に何を話すわけでもなく

時間に身をゆだねるようにその視線をもとの位置に戻し

何かを見つめていた。

僕も特になにか話すことはなく

自分の席へと向かい

そして席につく

一連の動作をよどみなく

この朝の空気を壊さないように慎重に行う。

そして彼女と同じくこの教室に人があふれていくまで

空間を見つめるのだ。

なんともないこの貴重な時間を

心の中では惜しみながら

ゆっくり

味わって

その空間を見つめるのだ。


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