一寸の虫にも五分の魂
むかしむかしのこと。ある村にとても背の低い男がいた。
と、そんな彼がどんな扱いを受けたかそれを語るのは少々心苦しい。平たく言えば人間扱いしてもらえなかった。畑仕事に狩り仕事。男からは頼りにされるどころか数にも入れて貰えず女からは文字通り見下され、できたのは子供の遊び相手ならぬ、からかい相手。
それでも彼は男だ。それも年頃の。欲求は人並み以上。一人物陰に隠れ、己のモノをしごきしごき。見つかれば「おやまぁ、ネズミかと思ったよ」と女たちに嘲笑われ抵抗する術なし股間をグリグリと押され「あふぅ」「ひふぅ」と情けない声を上げ顔を真っ赤、恥ずかしさと快感に涙をこらえるも、こみ上げるものは我慢できず、絶頂。
「わぁ、くさーい」「ふふふっ、そこも小さいくせにねぇ」「ネズミというより虫かもね」
ケラケラ笑われ、虫けらのように仰向けになってヒクつく彼。女たちが去るとむくりと起き上がり静かに涙を流す。そうとも彼にも意地がある。男の涙は女には見せないのだ。涙を拭うと彼は決心した。虫だって? 上等だ。一寸の虫にも五分の魂。おれは男だ。男を見せてやる。
そしてある晩のこと。彼は旅に出た。
村を離れ、遠く遠くへ。帰ろうなどと思いはしない、死出の旅。それを覚悟の上。しかし、必ず生きた証を残してやるのだ。
山を越え川を渡り、彼は歩き続けた。そして彼の体力の限界も近づいたある夜、大きな鼾が聞こえた。
こんな山奥だ。もしかしたら山姥かもしれん……。
そう思った彼はぶるっと震えたが、構うものか。相手にとって不足なし。それに寝ているなら好都合。気を引き締め、鼾のもとへ走った。
しかし、いざ近づいてみれば恐ろしさに足が震えた。だが、やるしかない。そう意を決した彼は茂みをかき分け、穴の奥へと入っていった。酷く狭い穴だった。生温かさとおまけに悪臭で目が染み開けていられないほど。
咳き込めばまた悪臭。入り口は乾燥していたが奥へ行けば行くほど湿っぽく、身を捩り前に進むうちに彼は全身ずぶぬれに。中は真っ暗闇。それにも構わず彼はただひたすらに進んだ。
引き返すなどということは頭にはなかった。が、歩みは遅くなる。狭く苦しい。圧迫された肺に悪臭をねじ込まれ、尋常じゃないほどむせ返り、痙攣をおこした彼はいよいよかと死を覚悟した。
ああ、無念。何も、男として何も成し遂げてないのに……。
遠のく意識。その時であった。彼は光を感じた。幻覚。しかしそれは神の導きだったのかもしれない。彼はその光の方へ進んだ。
ここだ……ここだ!
そう確信した彼は服を全て脱ぎ捨て、一心不乱に自分のモノをしごいた。
息子よ息子、大きくなれ大きく……。
しごきしごきしごき、果てるまでしごき、命もまた尽き果てた。
だがこれで良かったのだ。彼は満足げな表情を浮かべ、永遠の眠りにつく。
ただ一つ。しごいている最中、神に祈るように、ただ一つの想いを込めて。
息子よ息子。大きくなれ。大きな男になれ……。
こうして生まれた子の名は一寸法師……。